第135話 好機を待つ
亀山が公開した動画は、投稿から半日も経たずに再生数を伸ばしていた。
画面の中で、亀山は五級の仮登録を目指すと説明している。
探索者として攻略を続けたいわけではない。次に危険な目に遭った時、自分で逃げられる可能性を少しでも上げたい。
互助会から低層での動き方を教わり、自分は撮影や配信の技術を共有する。
動画の内容を最後まで確認した男は、再生を止めた。
「活動を続けるようです」
向かいに座る男が言った。
「警察の警戒は」
「まだ強いままです。自宅周辺だけではなく、移動時にも確認されています。管理側にも情報が回っています」
「互助会は?」
「接触したことまでは確認できました。活動場所と参加者は特定できていません」
最初の五人は全員捕まった。
三人は現場付近で拘束され、逃げた二人も、その日のうちに自分から警察へ出頭している。
連絡端末も車両も残したまま、仲介役へ報告することさえなかった。
失敗した理由は分かっていない。
亀山が抵抗した形跡はない。
白い群体が現れたという情報もなかった。
それでも、五人は一人も戻らなかった。
「仮五級になる前に動いた方がいいのでは」
「なぜだ」
「強くなる可能性があります」
男は止めた動画を再び再生した。
画面には、視聴者のコメントを読みながら困ったように笑う亀山が映っている。
「仮五級だ。数回低層へ入った程度で、五人を返り討ちにできるようにはならない」
「しかし、警戒は増えます」
「今以上には増えない」
誘拐未遂の直後である今、亀山の周囲には警察も管理側も目を向けている。
ここで再び動けば、前回より多くの人間と証拠を失う。
「活動を再開すれば、いずれ慣れる」
男は言った。
「同行者も、毎回同じ緊張を保てるわけではない。移動経路、集合場所、帰宅時間。続けていれば、どこかに癖が出る」
「介入した人物はどうします」
動画が止められた。
五人を捕らえた何者か。
名前も顔も分からない。
警察が公表していないのか、実行役がまともに説明できていないのかも不明だった。
「あれが亀山の近くにいる可能性はあります」
「だから次は、対象だけを見て動くな」
「特定を続けますか」
「無理に探す必要はない。亀山を見ていれば、いずれ現れるかもしれない」
男は端末を机に伏せた。
亀山は活動を辞めない。
互助会と接触し、ダンジョンへも入る。
それなら、急ぐ必要はなかった。
「今は何もしなくていい」
警戒が緩み、亀山が新しい生活に慣れるまで。
自分で安全だと思い始めるまで。
「好機を待つ」




