伝承 -白亜の項-
このお話は序章よりも前の、世界観にまつわるお話です。
それはそれは、とても長いお話です。
鴉が生まれたその時から存在した半身のお話なのです。
あるところに二匹の鴉が居ました。
二匹は闇よりも暗く。
朝露よりも儚く。
二匹を見分ける術はない程までに似通っていて、しかし対極にあるため何処迄も違ったのでした。
鴉は鳴きます。
「どうして2つに分かたれてしまったのか。本来なれば僕達は同じモノだったはずだ」
「あゝどうか嘆くな片割れよ。私達は2つだからこそバランスが取れているのではないか」
そんな交わしを幾億も繰り返しながら、鴉らは死しては蘇りを繰り返すのです。
それはさながら円舞曲のように波打ち繰り返されるのです。
鴉らに定められたのは輪廻ではありましたが、彼等はその意味を知らぬままに在り続けます。
ある時鴉はまた鳴きました。
「恐ろしく長い夢を見たようだ。まるで、私達が何回も作り直されているような」
鴉はふとした拍子に自身の記憶を覗いてしまったのです。
それは途方も無いほどの膨大な記憶。
そうした先に、彼等の起源を見掛けた矢先に。
「あゝ片割れよ、さようならだ」
あっと声を出す間もなく、半身が一匹闇に溶けましたとさ。
後に残された鴉は既に半身ではなく、個となり、全となり。
片割れを探し続けます。
一対となる者を見つけ、今度こそ離れられぬ様一つとなるために。
月のない世界で暗がりにひとつ残された哀れな鴉は鳴きます。
「あゝ、保たれていたものが傾いた。このままではいずれ僕は崩折れ消えてしまうだろう。どうか、どうか、半身よ。もう一度僕の前に現れてはくれぬか」
しかし待てども探せども先は夜道。
やがて鴉は動くことをやめました。
代わりに、鴉は思考しました。
考えられるべき全てを。
記憶よりも深く、深く。
そうしてまた幾億と時が過ぎ去りました。
幾星霜の時を迎えた鴉は、頭が焼けてしまったかのように感じました。
しかし、貼り付いた喉を振るわせ鳴きます。
「真実だ。これが真実か。どうして今まで気付きもしなかったのだろう。あの時の僕達は。あゝ片割れよ。嘆くな片割れよ。僕は知った。あの時君が見た記憶の根を」
鴉は起きます。そうして一度も使ったことがなかった両手を目一杯に広げました。
「僕達はまだ産まれてなんかいなかった。ただ、此処に在るだけだった。それはそれは様々なものを見た。新興と衰退。それはただの夢に過ぎなかった。あゝ、片割れよ。君は先に気付きながらも待ってくれていたのだな。僕が、そこに行ける日まで」
鴉は一声鳴きました。
その時闇は強く羽ばたいたのです。
かくして世界は崩れました。
記憶をなくした世界は既に煤けて散り散りになっていましたが、思考が飛び去ったことでその残りも消え去りました。
残ったのは白く眩い明かりに照らされた真っ白の砂地。
山もなく、谷もなく、風も水もない世界。
これはとても長い長いお話の。
始まりの一ページです。
読んでくださりありがとうございました。
次回からキャラクター登場予定です。




