1.君の事は好きだけれど、僕の妻には相応しくないよ。
「レナード様に……婚約者が出来た…?」
男爵令嬢の私、アイラ・ハイチュウには愛しい人がいる。その人はレナード・アルフォート侯爵様だ。美しく凛々しい容姿に、物腰柔らかく優しいお方…物語の王子様そのもので、私の運命の人なのだと一目で分かった。
「アイラは可愛らしいね、好きだよ。」
運命に導かれるままに、レナード様も私を好きになった。私への微笑みと甘い言葉は愛に溢れていて、このまま私はレナード様と結ばれるのだと疑いもしなかった。
「…うん、ランカ・ブランチュ侯爵令嬢とね。両親から、そろそろ婚約者を決めろと言われてしまってね。」
レナード様からの言葉を私は理解したくなかった…。分からない、分かりたくもない。レナード様には私が居るのにっ…。
「そんなの…嫌です! レナード様には私が居るではありませんか!! レナード様は私を愛していますよね?!」
レナード様に縋りつくと、レナード様は私を抱きしめた。
「勿論、僕はアイラが好きだよ。でもブランチュ令嬢は僕と同じ侯爵の地位を持っている。それに、彼女の品格も申し分ないと判断したんだ。両親と、僕も。」
「レ、レナード様も…ですか? そんな、どうして…。」
レナード様が、ブランチュ令嬢を婚約者に選んだというの? 私の事が好きなのに、一体どうして…。
「僕はアルフォート侯爵家の後継者だからね。侯爵家の為にも結婚せざるを得ないのは分かるよね? そして、妻に相応しいのはブランチュ侯爵令嬢だと思った…それだけだよ。」
「わ、私が言いたいのはそういう事ではなくて、…私がいるではありませんか!? それなのに、他の人を婚約者に選ぶなんて………酷いです!!」
どうしてそれが分からないの? 婚約者が必要なら、私の名前がでる筈なのに…
「…あははっ、何を言っているんだいアイラ。」
レナード様は可笑しそうに笑うと、私の頭を撫でた。
「君の事は好きだけれど、僕の妻には相応しくないよ。」
穏やかなレナード様の言葉に、私は凍りついた。