36話 体育祭と借り物競争
俺が出場競技の一つ、借り物競争。実力だけではなく、運の要素も非常に関わって来る競技で有名だ。
もう一つは潤との二人三脚だ...今は今の事に集中しないとな。
面倒だけど、やるには一位を取らせてもらう。
『では次の組、前へ出て下さい』
そしてついに俺の番。1組から6組の全6名。
司会者が、スターターピストルを天に向けると、俺たち6人は走る準備をした。
「それでは!用意ーーーードン!!」
パァン!
2「俺が一位だ!!」
3「邪魔だ邪魔だ!」
4「おらおらおら!!」
5「うおおおお!!」
6「一番乗りだ!!」
「頑張ってるなー」
雄たけびや奇声を上げながらライバルたちが全力で走り出していた、お題が書かれている封筒を目指して走り出す。
やる気になるのは良い事だし分かるが...ちょっと異常じゃないか?と思っていた。
「おい!千秋やる気なさすぎるだろ?!」
「しょうがない...」
俺はジョギング感覚で走っていたが、潤に指摘されてしまったのでスピードを上げた。
2「...は?松浦先生に告白して手を繋いでゴールインしろ?...誰だよこれ考えた奴...」
3「一億円相当の金塊?...無理だろ...」
4「美人の先生?...チル先生今日休みだったよな?...おれ?詰んだ?」
「「「「おい!!4組!!ここにいるだろ!」」」
「ひぃぃ」
数人の自称美人?教師に詰め寄られた4組の男子が逃げ出したのを見た後で、俺の意識を封筒に切り替え取ろうとした瞬間5組の奴に先に取られた。
5「よし!..えっと?校門前の石像?...あれ外せなくない?」
良かったーーあれ取らなくて...
6「恋人とゴール?...俺恋人いなんだけど...」
周りは阿鼻叫喚。ゴールさせる気のないお題がほとんどだった。
俺は最後の封筒を取り、中身を確認した。
ーーー大好きな幼馴染(異性)ーーーー
「お?ラッキー、これは簡単だ」
俺は全速力で1組へと走り出した。
「ーーー楓!!!!!」
「え?!どうしたのちー君?」
楓は目を見開いて驚いていた。周りのクラスメイトも何事だと騒然とするが、灯里だけは分かったかのようにニヤニヤしていた。
多分このお題を考えたのは灯里だろう。
「俺と来い!!」
「?!!あうぅ、喜んで...どこにでもついて行く」
楓の手を取り、真っ赤になった楓を強引に連れ出した。
周りから囃し立てる声が聞こえてきたが、無視してゴールだけを集中して、楓を太陽の下に引きずりだした。
「悪い、強引しすぎたかも?痛く無いか?」
「...凄くカッコいい...」
「ん?楓?」
楓がポーっとしながら俺の顔を見つめていた。目は合っているのに、聞こえていないのだろうか?何か小声で喋っていたが聞こえなかった。まさか熱中症じゃ無いのかと心配になってしまう。
「楓?もしかして、具合悪い?」
「...ううん、大丈夫だよ。早く私を連れてって、どこまでもついて行くからね?...」
「?...おう、じゃ行こうか」
繋がれた手はしっかりと握られているのに、体には力が入っていないのかフラフラだったので、走らず歩いて向かった。
「ちー君、私をどこに連れて行くの?」
「ん?ゴールだけど?」
「?!!もう、ゴールインしちゃうの?!気が早いよー、愛香達の事も考えてー」
「...本当に大丈夫か?」
意味不明な事を言って俺は戸惑っていた。
楓のペースに合わせて歩いていたが、余裕の一着だった。他の生徒はまだ借り物すら出来ていない様子だった。いや、あれは無理か...
「ちー君、お題なんだったの?」
「んー?これ」
「...え?」
楓は俺が見せたお題を見て、顔を真っ赤にして呆然していた。
「大好きな幼馴染、楓にピッタリだな」
「...あうぅ、多分そっちの意味の好きじゃ無いと思うけど、言われると恥ずかしよ」
「そっちの意味?」
「ちー君なんて、知らない」
頬を膨らませてプイッと背を向けた。
ずっと耳が真っ赤だった事に俺は見ていたのだった。




