乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その15
台所に、二人で並んで立つ郁人と美月は、とりあえず、夕食兼夜食を作ろうとするのである。
「郁人、今日は何作るつもりだったの?」
「今日は、生姜焼きと適当にサラダ作って、みそ汁だな…とりあえず、ご飯炊いとくな」
美月は、ふむと腕を組んで考え込むのである。そんな、美月をチラリと見ながら、ご飯を研ぎだす郁人なのである。
「じゃあ、少しアレンジしよう……ほら、梅干しあるし、生姜焼きに梅干し入れようよ」
「美月に任せる……美月の料理は美味しいしな」
そう人差し指を口元に当てながら、可愛く郁人に提案する美月に、ニッコリな郁人は、美月に全てお任せするのである。
「ねぇ……郁人……私ね……郁人のおかげで元気出たよ……本当にありがとう」
「……俺は何もしてないけどな」
料理をしている中、美月は郁人にそうお礼を言うが、郁人としては、何かしたつもりはないのである。
「……郁人……郁人は、何もしたつもりないかもだけど……私にとっては、嬉しかったんだよ……ねぇ、郁人……高校生になって……私達の関係って大きく変わったよね?」
「そうだな……恋人同士になったし……学校では……あまり一緒に居られないし……それに美月は、挙動不審だしな」
美月の発言に、郁人は最後にニヤリと美月を揶揄うのである。そんな郁人をキッと睨む美月の顔は恥ずかしさから少し赤いのである。
「郁人…怒るよ!!」
「もう怒ってるけどな」
「郁人!!」
「……悪かったな……美月」
頬を膨らませて郁人を睨み怒る美月に、素直に謝る郁人なのである。まったくと呆れる美月は、怒りを鎮めて、料理を再開するのである。
「……私……結構、真面目な話してるんだからね……黙って聞いてよね」
「悪かったって」
「……ねえ……昔……覚えてるよね。あの時の事……あの時……私達の関係が……その……お……か、変わってしまいそうになった時……郁人が……郁人が……全部……郁人のおかげで……私……結局何も出来なくて……何をやっても……郁人に負けてばっかり……だから……私も頑張ろうって……頑張ろうって……思ったんだよ」
「……美月」
手を止めて、心の中の想いを吐露する美月の表情は苦しそうである。郁人もまた、胸が苦しくなるものの、美月をジッと見つめるのである。
「……私ね……わかったんだよ……郁人……想うだけじゃ、願うだけじゃ……ずっと……一緒には……ねぇ……郁人、私ね……私!!」
今にも泣きそうな美月を郁人は抱きしめる。辛そうな、悲しそうな美月を、そのままには出来なかったからだ。
「美月!! いいんだ……もういいんだ……俺は……ずっと美月と一緒に居るから、何があっても、どんなことがあっても、絶対に……大丈夫……俺は美月の傍からは離れない……きっと、何があっても大丈夫だ……あの時も……乗り越えられた……どんなことがあっても……大丈夫だった……だから、安心してくれ……美月」
郁人の言葉に安心する美月なのである。郁人の言葉に救われる美月は、実の妹の美悠を傷つけ、雅人の想いを否定して、それでも、自分の願いを叶える覚悟を決めた。言いたい言葉を押し込めて、ただ、心の中で、大丈夫と誤魔化した美月なのである。
「うん……大丈夫だよね……私も……頑張るからね」
美月は、そう言って微笑みながら、心の底から安心して、料理を作るのを再開する。そんな、美月に郁人も微笑んで、作業を再開して、それからは、二人は、無言で料理を作るのであった。
そして、二人でご飯を作り、二人で、配膳して、二人で、向かい合って座り、仲良くいただきますして、夕食兼夜食を食べる郁人と美月は、ただ、ご飯を一緒に作って、一緒に食べるだけなのに、物凄く幸せを感じる二人なのである。
二人にとって、当たり前の関係が戻ってきたのであった。美月も、郁人をチラリと見ても、恥ずかしさより、嬉しさと幸福と、そして愛おしさを強く感じるのである。
「郁人」
「なんだ? 美月?」
「えへへへ、呼んでみただけだよ」
「……なんだそれ?」
嬉しそうに郁人の名前を呼ぶ美月に、呆れながらも笑う郁人は、美月を見つめながら、本当に良かったと思うのである。美月が笑っていてくれることが、郁人にとって、何よりも大切なことで、幸せなことなのである。だから、自分の心を誤魔化し、何を差し置いても美月の笑顔を守りたいと思うのである。
二人で笑い合って食事をとると、美月は、郁人の事を真直ぐに見つめて、ニッコリ笑うのである。
「じゃあ、郁人、次は別のゲームで勝負だよ!」
「美月!? まだやるのか!?」
「もちろんだよ!! 郁人には、絶対に負けないんだからね!!」
ドヤ顔でそう言う美月は、食べ終わった食器をノリノリで片付けながらそう言うのである。郁人は、呆れながら、自分の食器を片付けて、台所に向かう美月を追うのである。
「美月……ゲームはまたにしないか?」
「ダメだよ!! 郁人!! 私は、絶対に郁人には負けないって決めたんだからね!! まずは、ゲームで勝負だよ!!」
「……そ、そうか……でも……美月は……ゲームよわ……」
そう、食べ終わった食器を一緒に洗いながら、会話していると、郁人の失言にムッとなる美月は、ジト目で郁人を睨むのである。
「言っておくけど、私は弱くないからね!! まだ、ちょっと、コツをつかんでないだけなんだよ!!
「いや……美月の場合……コツって以前に……そもそも……ゲームに向いてな……」
またも、郁人の失言に、鋭い視線で遮る美月なのである。
「ねぇ……郁人、前から言おうと思ってたけどね……はっきり言うね」
「あ……ああ」
「私の方が絶対、郁人の事好きだからね!!」
「……え!?」
美月の突然の愛の告白と、自分の方があなたの事を愛してる宣言に戸惑う郁人に、ドヤ顔でニッコリな美月なのである。
「美月……どうしたんだ? 突然?」
「……だから、私の方が、郁人の事、絶対好きだってことだよ!!」
「い、いや……それは、いいけど……その……な、なんで突然そんなこと言いだすんだ?」
郁人は、そう言われて嬉しいが、戸惑いの方が強いため、そう疑問を口にするが、美月は、疑問顔で首を傾げるのである。
「突然じゃないよ……だって、ずっと、私が思ってることだもん!! ここで、はっきり郁人に宣言しとこうと思って……だから、私……美月は絶対に、郁人には負けないよ!!」
「……よくわからんが……そうか……よし、わかった……なら、俺から言えることはただ一つだ……俺の方が、美月の事大好きだからな……これだけは、絶対に負けないからな」
ムッとする美月に、余裕の笑みを浮かべる郁人なのである。ここに、郁人と美月の、どっちの愛が重いか対戦が勃発するのである。
「だから、まず、ゲームで勝負だよ!! 郁人!!」
「……なぜ? いやいや……だから……その勝負は……そのな……ちょ、ちょっとだけ美月が不利だと思うだが」
「不利じゃないよ!! それに、ちょっと、ちょっとだよ!! ちょっとだけ苦手なことで勝った方が、勝ったって感じがするでしょ!!」
「ちょっとだけ……苦手?」
美月の発言に疑問を口にする郁人だが、やはり美月の圧の込められた視線に黙る郁人なのであった。
「じゃあ、郁人、勝負の続きだよ!!」
「あ……ああ……美月がそれでいいなら……いいけど」
やる気満々な美月に対して、なんで、どっちが愛してるの話から、ゲームの勝負になるのかわからない郁人なのである。片づけを終えて、ノリノリで二階の郁人の部屋に向かう美月を、呆れながらも嬉しそうに追う郁人なのであった。
そして、美月が勝てば別の対戦ゲームをプレイして、美月が勝てば、別の対戦ゲームをして、という繰り返しを朝まで続ける二人なのであった。
「もう、朝だな……さすがにもう眠いな……美月は元気だな」
「私は、まだまだやれるよ!! ていうか、やるよ!! 私が連勝できるゲームがあるはずだよ!!」
「いや……ないとおも……いや、きっと……探せばあるな……うん……でも、今日はもうやめような」
ジト目で、ジッと睨んでくる美月に、そう捲し立てる郁人なのである。美月は、渋々引き下がるのである。
「全く……郁人は、見た目のわりに体力無いよね……毎日走ってるのに……あ!! 今から走り行かなくていいの?」
「美月……お前昼寝てただろ……ていうか、さすがに今から走りに行かせるとか鬼か……いや、美月は天使だが…」
もはや、徹夜明けのテンションで訳わからないことを言う郁人なのである。
「じゃあ、今日は引き分けだね」
「いや……どう考えても……美月のま……そうだな…引き分けだな」
やはり、美月の鋭い視線に、美月ちゃん絶対肯定BOTと化す郁人なのであった。そんな郁人に満足気な美月は、ニッコリ微笑むのである。
「じゃあ、今日は、一旦帰るね……また、お昼過ぎに遊びに来るからね…決着つけないとだしね」
「あ……ああ、わかった……俺はそれまで、風呂にでも入って……とりあえず、寝るかな」
そう言って、美月を家まで送るために、二人で外に出ると、もうすでに、陽は上っており、7時を過ぎているのであった。そして、美月を家まで送り、お風呂に入り、自分のベッドに横になり、布団をかぶると、安心する郁人なのである。
「久しぶりに……安心して寝れそうだな」
そう独り言を言って、安らかな眠りに落ちる郁人なのであった。
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さて、昔の二人の関係に戻った来た郁人と美月でしたが、どうでしょう? 二人は、恋人と言う新しい関係より、幼馴染としての関係を大切にしたいようですね。
次回は、そんな、最強幼馴染コンビを復活させてしまった美悠と雅人はどうするのでしょうか?
では、次回の更新もよろしくお願いしますね。




