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第22話《突然の出会い》

「あらマシロ、買った服は?」


 リビングに入るなりお姉ちゃんが問い掛けてきた。


「え?そう言えばどこだろう?」

「おかしいわねぇ、もう届いてる筈なんだけど…」


 お姉ちゃんが腕を組んで考え始めたが、そこにエマさんから声が掛かる。


「その話は後にして冷めない内に食べないと。リリー、マシロ」

「はーい。あ、今日も頑張ったわよ〜!美味しく食べてね、マシロ」


 そう言われて食卓に目を向ける。

 夕飯は拳くらいの丸いパンが数個、数種類の卵料理。それからジャガイモ、レタス、薄切りの豚肉、溶き卵の入ったスープだった。その中でも特に目を引くのが卵料理だ。オムレツ、スクランブルエッグ、キャベツとの炒め物…。あとは卵メインでは無いがスープにも入っている。


「卵料理沢山だね?」

「コカトリスの卵そのまま焼くのもアレかと思って溶いたら凄い量になっちゃって…」


 えへへ、と困り顔で笑うお姉ちゃん。


「作っといてなんだけど、食べ切れるかしら…?」

「うーん…どうだろう…」

「なーに言ってんだい!まだまだ育ち盛りだろ!それにリリー、買ってきたんなら責任持って食べるのがルールってもんだよ!」

「そ、そんなぁ…」

「アハハ…。大丈夫だよお姉ちゃん、私もなるべく頑張るから」

「ほんと?ありがとうマシロ〜っ!大好きよ!」


 ぎゅうっ、と抱き着かれて後ろに倒れ掛けたのをエマさんが支えてくれた。


「ほらほら、さっさと座って食べちゃいなさいな」


 エマさんに言われて私達は座る。


「「「いただきます」」」


 スープを掬って口に含む。


 はぁ〜…温かい…。相変わらず味付けが塩のみだけど、それがまた素材の味を良い感じに引き出してると言うか…。


「美味しい〜…」


 今日の疲れが浄化されていく感覚になり、表情筋が緩む。

 次に数々の卵料理に手を付けた。まずはオムレツ。


 …思っていたより全然癖が無い。見た目は美味しそうでもコカトリスの卵だからなぁ…と思っていたけど全然いける。むしろ普通の卵より美味しいかも。

 見た目もオレンジっぽくて、濃厚な高級卵って感じだ。

 昨日と違って卵オンリーだけど半熟でふるっふるで美味しい。


「語彙力吹っ飛ぶ…」

「うふふ、コカトリスの卵は高級ですもの。美味しくなきゃ買い損よ」


 スクランブルエッグにはジャガイモと細かくなった豚肉が入っていた。炒め物にはキャベツと豚の薄切り肉…美味しいけど何か豚率多いな。買ってたっけ?ストックかな。


 しばらく黙々と食べて、そろそろお腹やばいなと思った所でお姉ちゃんが声を発した。


「も、う…無理…」

「明日また食べるとか出来ないの?」

「昨日は氷があったから出来たけど今日は無いから無理なのよ…」

「冷蔵庫とか無いの?」

「冷蔵庫?何かしらそれ?」


 どうやらこの世界には冷蔵庫が無いらしい。


「何か、氷の魔石使って箱の中に冷気流しっぱなしとか…」


 この世界ならそれくらい有りそうな気もするけど。


「アハハ、マシロったら。氷の魔石なんてレア物過ぎて庶民が持てる物じゃ無いのよ?でも確かにそうね、普及してくれたらそう言う物も出来そうなんだけど…」

「そしたら楽だねぇ…ま、現実には無理だね」

「うーん…じゃあ氷の魔法で氷出すとか?」

「氷属性なんてそう居ないわよ。昨日あったのだって、偶然近くに氷売りが来てたから買ったのよ」

「え?そうなの?」


 ん?私の属性、最後の一つって確か…。


「あの、私、氷属性付いてるみたいなんだけど…」

「はぇ?」


 お姉ちゃんが何とも間抜けな声を出す。


「そう言えばそうじゃないか!ステータスに氷属性って!」


 エマさんが嬉しそうに声を上げる。


「…もうそれくらいじゃ驚かないわ、えぇ。もう何て言われても驚かない気がしてる…マシロだもの」


 呆れ顔のお姉ちゃんがそんな事を言ってきた。そう言われても私は何も知らないし私は何も悪くない…多分。


「えーっと…とりあえず氷、出してみようか…?」

「…えぇ、そうね。そうね、うん…じゃあお願いしていいかしら?」


 若干の間が気になるがとりあえずかき氷に使われるくらいの大きさの氷をイメージして前に手を突き出す。


「氷…氷出ろ…」


 だが昼と違って上手く魔法が使えない。何かやり方が悪いのだろうか。


「マシロ、もしやりにくかったら魔術名を言うのも一つの手だよ。氷魔法は水魔法なんかのよくある魔法と違って少しばっかり難しいらしいからねぇ。イメージはそのままで、試しに”クリエイトアイス”って言ってごらん」


 エマさんが助言してくれる。私は言われた通りに唱える。


「く、クリエイトアイス!」


 すると目の前にイメージした通りの氷が現れた。


「出来た!けど、どうして…」

「魔術名って言うのは魔法の種類分けだけじゃなくて、魔法補助の役割りもあるんだよ」

「補助?」

「魔術名って言うのは、それ自体がその魔法を使う為の…口頭の魔法陣って言えば分かりやすいかね?概念を説明するのは難しいねぇ…。まぁとにかく、最初からイメージだけでやろうなんて余程の天才くらいさ」


 エマさんは苦笑しながら教えてくれた。

 なるほど、つまり魔術名が魔法陣代わりで、そこにイメージと魔力を込めて思い通りの魔法を発動させる…って感じかな。


「うーん、まぁ気になるなら図書館に行けば良いと思うわ。きっと私達より簡単に分かりやすく説明されてる本があるわよ」


 図書館と言われてあの女性を思い出した。

 が、それについて質問する前に「それじゃ早速冷やして来るわね」と言ってお姉ちゃんはキッチンの方へ行ってしまった。まぁいいか。


「じゃあ今日はもうお風呂入って寝ちゃいなさい。先に行ってお湯張っておくから」

「ありがとうございます、お言葉に甘えてそうしますね」


 私は着替えを取りに行く為、一度自室に戻ってから 風呂場に向かった。

 脱衣所にはまだエマさんが居て、タオルを置いてくれているところだった。


「エマさん、そのタオルってどこから出しているんですか?」

「これはそこの棚から出してるんだよ」


 エマさんが指す方向には小さめの戸棚があった。上に付いていたから気付かなかった。


「そんな所に…あ、これからは自分でタオル出すので大丈夫です。ありがとうございます」

「そうかい?じゃあそれで頼むね。そろそろお湯も溜まる頃だろうからサッと流して温まりなさいね」

「はい」


 エマさんが出て行ったところで服を脱ぎ、脱衣所から風呂場に移った。

 まだ若干慣れない手付きでシャワーを出し、棚の石鹸を泡立てる。


「あーわだて〜あわわ〜だてあわ〜♪」


 特に何の意味もない即興歌を口ずさみながら体と頭を洗い、シャワーで流したところで湯船に足先だけ浸からせる。丁度良い温度だ。


「はぁぁ〜、生き返るぅ〜…」


 肩まで湯に浸からせると疲れという疲れが少しずつ消え、全身から力が抜ける。


 美味しいご飯、温かいお風呂、快適な部屋。何これ天国?改めて考えてみても環境に恵まれ過ぎでは?

 それに優しい家族、自分のお店まで…。


「…私、今…幸せだなぁ…」


 最初は戸惑ったし元の世界が恋しくなったりした。施設のみんな、学校の友達、その他の知り合い…もう会えないのかもと思うと寂しくない訳じゃない。

 けどこの世界では元の世界みたいに多くの事を我慢しなくていいし、何より私を本当に大切にしてくれる家族が居る。もう私は、誰にも引き取られない施設の残り物じゃないんだ。


 私、この世界で暮らしたい。戻りたくないなぁ…。


「なーんて、戻れるかも分からないけど。戻れないならそれで全然…」


 そう言いかけた時だった。


「今この世界で暮らしたいって言いましたよね!言質取りましたよ!」

「っ!?な、なな、こ、声、何!?」


 急な大声に驚いて心臓が止まりそうになる。一体何だと思いながらも怖過ぎて身動きが取れないでいた。


「しかも戻りたくないとも言いましたよね!言いましたよね!?」

「きゃっ!?」


 突然目の前に何かが現れ、今度こそ本当に心臓が止まったかと思った。

 目の前にあるのは黄色い光の玉。それが瞬く間に光の粒子になっていき、変形していく。

 それが何なのか理解した時、また目の前の()は言った。


「この世界で暮らしたい、って言いましたよね?」


 全長15cm程度の小さな少女は、自分の体とそう変わらない大きさの両羽をパタパタと動かしながら輝かしい笑顔でそう言った。

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