第18話《値切りワザとエルフ族》
ユニーク数が1000を超えました!
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「卵はこれくらいの色味で柄が密集し過ぎない物を選ぶといいわ」
お姉ちゃんが卵を一つ、手に取りながら教えてくれた。
私達は今、卵と乳製品を扱うお店に来ている。他の店のような露店とは違い、屋内店舗だった。店番には人の良さそうなお兄さんが居る。
「あんまり色が濃かったり薄かったりすると古い卵だし、柄が密集してるのは育ち過ぎててたまーに雛が出てくるのよねぇ…」
「なるほど〜」
ところで気になるのが卵の見た目である。大きさは普通の卵だが、イースターエッグか?と問いたくなる程カラフルだった。流石に人間が手を加えた様な柄ではないが、祭りで売ってる水ヨーヨーに似た シンプルな柄が入っている。
他の食材は(見た目は)元の世界の物と大差無いのに、卵は明らかに違う。
「…ちなみにこれ、何の卵?」
見た目からして聞くのが怖いが、余りに気になり過ぎて聞いてしまった。後悔しなければ良いのだが。
「これはエッグコケコの卵ね。これはレッドクエール、これは…あら珍しい、コカトリスの卵じゃない」
そうだろうとは思ってたけど名前からして明らかに魔物だ。これ魔物の卵だ。コカトリスとかよく使われる鳥系モンスターの名前三位以内に入ってそうなアレじゃないですか。
「おっ!お嬢ちゃん買ってく?今朝冒険者ギルドから仕入れたばかりの新鮮なヤツだよ!」
店番のお兄さんがすかさず声を掛けてきた。今まで他のお客さんの相手をしていたと言うのによく反応出来たな、と感心してしまう。流石、この店という店でごった返しの市場で生き残れるわけだ。
「うーん、おいくら?」
「コカトリスの卵は中々入らないからなぁ、金貨1枚でどうだ?」
高っ!!卵一個に金貨1枚って!!
「あら、それはちょっとぼったくり過ぎじゃないかしら?」
お姉ちゃんの目が鋭く光る。
「コカトリスの卵って、ギルド買取の時には銀貨5枚でしょう?そこから仕入れたなら高く見積っても仕入れ価格は銀貨7枚の筈よ。銀貨3枚分も儲けようって言うのは少し多すぎじゃなくて?」
お姉ちゃんが連ねる言葉にお兄さんは若干表情を硬くする。そこでやっとお姉ちゃんはニッコリ笑って見せた。
「だからお兄さん、負けてくれないかしら?」
「やー、お嬢ちゃん慣れてるねぇ…そんだけ言われちゃ負けざるを得ないってもんだよ。銀貨9枚でどうだ?」
「お兄さん、仕入れ価格はいくらだったの?答え合わせがしたいわ」
「そりゃあ言えねーよ」
そりゃそうだ。それを教えてしまったら適正価格で売ることになる。中々手に入らない商品なら、ここぞとばかりに儲けたい筈だ。
「あら、教えてくれたらレッドクエールの卵3パックくらい買おうと思ったのに」
「なっ…!そりゃ本当かい…!?」
「えぇ、いつも売れ残って処分されて勿体無いんですもの。小さいけど美味しいのに」
「そう言うなら毎日買ってってくれよぉ…」
「アッハハ、そんなに毎日は要らないわよ!」
会話から察するにレッドクエールの卵とやらはそこまで売れないらしい。見た目は鮮やかな赤色で大きさは鶉の卵って感じだから、味もそうなのだろうか。それなのに鶏の卵くらいのエッグコケコの方が安い。普通は使い勝手のいい後者を選ぶわけだ。
「くっ…教えるから絶対買ってくれよな!」
おっと、いつの間にかお兄さんが折れたらしい。
「約束は守るわよ」
「…仕入れ価格は銀貨5枚と銅貨6枚だ。ほら、言ったんだから──」
「銀貨5枚と銅貨7枚」
「へっ?」
お兄さんが間抜けな声を出す中、お姉ちゃんがコカトリスの卵を指差しながらもう一度言う。
「銀貨5枚、銅貨7枚」
有無を言わさない笑顔でお姉ちゃんは繰り返す。この笑顔はお姉ちゃんの武器なのかもしれない。
「お、お嬢ちゃんそれはいくらなんでも!それじゃあ商売上がったりだ!」
「そうね、じゃあ銀貨5枚と銅貨8枚」
「駄目だ駄目だ!」
「銀貨5枚と銅貨9枚」
「まだだ!」
これじゃあどっちが店側か分からない。値切る側が値段を提示していくなんて話、あるだろうか。
「銀貨7枚!これ以上は私も譲らないわよ」
「うーん…仕方ねぇ、負けたよ。銀貨7枚な」
「うふふ、お兄さんありがとう!」
どうやら決着が着いたらしい。客側がドアインザフェイスの心理戦を持ち掛けるなんて思わなかった。お姉ちゃんはかなりこの手のやり取りには慣れているらしい。それともこの世界の一般市民は皆お姉ちゃんの様な事が出来るのだろうか。
「コカトリスの卵一つとレッドクエールの卵3パック、あとはエッグコケコの卵4つで銀貨8枚、銅貨6枚、鉄貨2枚だ」
「はい、丁度ね」
「毎度あり!あ、そっちの嬢ちゃんも今度近く通った時にでも買ってくれよな!出来れば値切らずに!」
お兄さんの最後の言葉に苦笑いするしかない。結局、最初提示された値段より銀貨3枚も安く買われてしまったのだから。
今度用があって来た時は、せめて普通の物はそのままの値段で買おうと心に決めた。
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「うふふ、何にしようかしら。シンプルに焼きたいけどそれなりに手も加えたいし…」
先程から戦利品をどの様に調理するか悩むお姉ちゃんは楽しそうだ。お姉ちゃんの時計で時刻は10時頃を指している。まだ時間には余裕があるので調味料や香辛料、ハーブ類を揃えてるというハーブ屋に行った。
「いらっしゃいませぇ〜」
ハーブ屋は露店だった。屋根からは乾燥ハーブが吊るされ、目の前には沢山の壺が並んでいる。
「あっ、リリ〜!元気にしてたぁ?」
ハーブ屋の店主は間延びした声で挨拶をする。お姉ちゃんと顔見知りらしい。ひょっこり出てきた姿を確認する。
「あれ?…子供?」
声の主はまだ十にも見えない子供だった。見た目は中性的で性別の判別はつかない。先程はしゃがんでいたのではなく、背が届かなくて見えなかったらしい。うんしょと台に上り、やっと目線が同じくらいになっている。
「子供じゃないよ〜?僕はハドラス。本名は長いから、省略してハドラス・エルシェントって名乗ることが多いかなぁ〜?」
「私はマシロ、よろしくね。ハドラス…くん?っていくつなの?」
「うーん…多分120歳くらい〜?忘れちゃったから、またギルド行ってステータス見なきゃなぁ」
「ひゃっ、く!?」
「ハドラスはエルフなのよ」
「エルフ…!?」
「ほらハドラス、帽子取ってみてよ」
エルフと呼ばれたその人が言われたように帽子を取ると、ぴょこっと可愛らしく三角形に飛び出た耳が見えた。
「まぁ〜信じられないよねぇ〜。120でこの姿ってビックリだよねぇ〜」
続けてハドラスさんは言う。
「昔ちょこーっとだけ時の女神様怒らせちゃったら姿形を子供にされちゃったぁ☆」
「め、女神様を怒らせる…」
このエルフ、中々とんでもない事をやらかしているらしい。
「それよりハドラス、そろそろ塩が切れそうだから一袋欲しいんだけどいいかしら?」
「おっけー、ついでにハーブはいかが〜?今なら良質なローズマリーが一束鉄貨5枚だよ〜!」
「あら安い。じゃあそれもお願い」
「毎度あり〜」
サクサクと買い物が終わり、ハドラスさんは品物を包んでいる。
「そう言えばリリー、マシロちゃんって新しい友達〜?」
「いいえ、妹よ!とっても可愛いの!良くしてあげてね!」
「ふ〜ん…」
「さ、そろそろ帰りましょ。またねハドラス」
「うん。さよならハドラスさん」
「あ、待って〜マシロちゃん」
お姉ちゃんと店を後にしようとした時、ハドラスさんが呼び止めてきた。
「はい?」
「”ここに居る理由を知りたくない?”…ってことで、時間あればおいでよ〜サービスするからさぁ〜」
一瞬、意味深な笑みを浮かべたかと思えば、また元の優しげな笑顔に戻る。
「?」
お姉ちゃんは不思議そうな顔をしているが、私にはしっかりと心当たりがあった。
「なーに?ハドラス。そろそろお昼だから帰らなくちゃ」
「そうだねぇ、ごめんよ〜」
二人は穏やかな会話をしているが私は何て返せばいいのか分からなかった。
結局そのままお姉ちゃんに手を取られ店を後にする。振り向くとハドラスさんは笑顔で手を振っていた。微かにしか聞こえなかったが、ハドラスさんが何か言うのを私は聞き逃さなかった。
「また来てね」
そこに間延びした口調は無かった。
【よくある店の卵(一個)】
エッグコケコ→鉄貨3枚
レッドクエール→鉄貨5枚
コカトリス→店による
【ハドラスのハーブ屋の商品(100g)】
塩→銅貨1枚
胡椒→銀貨2枚
ローズマリー→銅貨1枚
※一束で100gくらい。




