第17話《姉の金銭感覚→マルシェに移動》
「一旦これくらいにしとくわ」
「あら?もういいの?」
「えぇ、クローゼットの空きが大丈夫か心配だし」
「なるほどね。ではお会計の方お願い致します」
にこやかに会話をする店員達を前に、対する私は憔悴しきっていた。次々渡される服を着ては脱ぎ着ては脱ぎ…。普段軽装何着かと制服くらいしか着ない私には正直キツかった。
服自体は可愛いし見てて楽しい。だが、ただ見て楽しむのと着せ替え人形になるのでは訳が違う。
しかもこの姉、試着した服の九割を買うと言い出したのだ。流石に駄目だと疲労しきった体で抗議したが聞いてもらえなかった。
「では、お会計が総額金貨13枚と銀貨6枚になりまして、そこから高額支払い割引で…締めて金貨13枚と銀貨3枚で御座います」
「ブッ!…き、金貨が何枚ですって!?」
きっとこの世界の一般市民では有り得ないであろう額に思わず吹き出し、口調が変わる。元の世界にしたってそんな大金を服屋で使うほど私に余裕は無い。服に使うくらいなら是非とも食費に回したい。
「何か問題でも御座いましたか?」
不思議そうな目で私を見るフリージアさんとリリーお姉ちゃん。いや私が貴女達をそんな目で見たい。
「お姉ちゃん、いくら何でも…!」
まさか妹に良い所を見せたいからって無理してるんじゃ…。この姉なら十分有り得ると思う。
「確かに一回の買い物じゃ多過ぎるかしら。でもウチは配達もしっかりしてるから大丈夫よ!」
「そっちじゃない!」
「え?」
考えたくなかったが、この雰囲気だと恐らくここはブランド店だ。エマさんと買い物に来た時に気付けなかったのは、銀貨1枚の寝巻きもあったから。
何で店の外観とか雰囲気で分からなかったんだろう…明らかに街で見た他の服屋と比べて異質だったのに。
「…もしかしてお会計気にしてるの?」
リリーお姉ちゃんが遠慮がちに聞いてくる。
私が無言で頷くとフッと息を吐いてニコニコと笑顔でこう言った。
「大丈夫よ!見習いと言っても大きな仕事が任せられないだけで普段は普通に仕事してるから!これでも結構貰ってるのよ?」
私は提示された会計金額を思い出しながらお姉ちゃんを見る。確かにこんな職場で働いてるなら給料が良いのにも頷ける。それにしても、だ。
「これは買って貰い過ぎだよ…」
勿論、出して貰った分は後々返していくつもりだが、こんなに高額となると返済終了がいつになるか目処が立たない。この世界のアルバイトがどれくらいの時給なのかも分からないのに。
「姉妹記念にプレゼントしたいの!…ダメ、かしら?」
瞳を潤ませ上目遣いで私を見るお姉ちゃん。なるほど、確かにこれは末っ子だ。今はもう姉だが。
「お願いよう…可愛い妹の為に何かしてあげたいの…それとも私、そんなに頼りない…?」
更に自分の指を私の指に絡ませてくる。
ここまで迫られたら駄目な事も駄目だと言えなくなる。近過ぎる美人顔と有無を言わさない物言いに負けてしまった。
「わ、分かったから、ちょっと離れて…」
「ほんと?じゃあフリージア、配達の手配よろしく頼むわね!また明日工房で会いましょ!」
「お任せ下さいませ。ご機嫌ようリリー、妹様」
ペコリと頭を下げるフリージアさんに見送られ、急に元に戻ったお姉ちゃんに引きずられ店の外に出た。
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「それにしても楽しかったわね!満足満足!」
「そうだね…」
現在、私達は大通りを散策している。
「靴やアクセサリーも欲しいわね!…欲しいでしょ?」と、お姉ちゃんが言い出したからだ。
結局靴を二足とアクセサリー数点を見繕って貰い、今は雑貨屋に居る。
正直、雑貨屋で色々な物を見ていた方が性に合うので、やっと落ち着いて物を見れそうだ。
「この雑貨屋さん、結構大きいんだね」
専門店に行かなくても、拘らなければ必要な物が全て揃いそうだ。お金が貯まったらまた来ようと思う。
「そうね、結構大きい方だと思うわ。王都はもっと大きいけど」
「へー」
王都かぁ…いつか機会があれば行ってみたいけど。
お姉ちゃんはまだ私の物を買うつもりだったらしいが今度はしっかりと断った。代わりに自分の物を買ってたみたいだけど、帰りの荷物が心配だ。
「マシロ、どこか行ってみたい所はある?」
それなりに満足したのか、お姉ちゃんは私に聞いてきた。
「うーん…食料調達出来る所と…あと、図書館に行ってみたい」
趣味の料理をするには食料が要る。道具は先程の雑貨屋で揃えられるとして、ちゃんとした食材が欲しい。
「じゃあ先に市場に行きましょっか!」
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市場は大通りを抜けた所にあった。大通りをもう一方に行った先には何があるのか聞くと、この街の門があるとの事だった。
門は前に聞いた草原の方にある一つだけではないらしい。
「大通りみたいな流行りの目玉店とか老舗は無いけど、普段使う食材を揃えるならここに限るわ。家庭料理も店で出す料理も、大抵はここで食材を揃えるものよ」
なるほど、時間のせいかもしれないが確かに大通りより賑わっている。
「それに、大通りの店とは違って可愛い子には負けてくれたりするしね☆」
パチッ、と片目を瞑って意味深に笑って見せるお姉ちゃん。きっと経験があるんだろう。羨ましい限りだ。
「あ、ついでにお昼の材料でも買っちゃうのはどう?食べたい物あれば好きなの作るわよ?」
「!ほんと?でも、今日は私も作りたい」
この世界に来てから、毎日の様にやっていた料理をしていない。趣味も兼ねての事だったので出来ないのは少し辛かった。
「マシロ、料理出来るの?」
「大好き!昔から趣味なんだよね」
「そうだったのね、さっきの雑貨屋でエプロン見てくれば良かったわ…」
「いや、無くても支障はないし自分で買うから…気にしないで」
そんな事を話しながら歩いていると、不意にお姉ちゃんが立ち止まった。
「?お姉ちゃん?」
「野菜を買うならこのお店よ」
お姉ちゃんが指差しながら言った。どうやら買い物するのに良い店を教えてくれる気らしい。
「それからお肉ならそこの店、他の店とは違って、たまに川魚なんかも売られてるの。海は勿論だけど川もそれなりに遠いから…売られてる日はかなり貴重ね」
ふむふむ、と頷きながら言われた事を記憶していく。
「卵なんかはもう少し先だから近くに来たら教えるわね」
「ありがと、かなり助かるよ〜」
衛生面やら新鮮さがまだ信用出来ず、物の相場が把握出来てない世界において、良い店の情報は重要だと思う。元の世界でも勿論重要だったけど。
「ふふ、どういたしまして。ところでお昼は何にする?」
お姉ちゃんが聞いてくる。何だか最初に比べて随分砕けた物言いになった気がするのは気の所為だろうか。結構グイグイ来る人だけど、それなりに気を使わせていたのかもしれない。砕けてきたのは私もだけど。
「うーん、普段何食べてるの?」
「そうねぇ…家だとパン中心に付け合せ数種類のワンプレートで済ませちゃうわね。ウチのは美味しいけど保存が効かないパンだから、午前の売れ残りを食べちゃうのよ」
「保存が効くパンもあるの?」
「えぇ、乾燥ぎみで硬いパンだけど。長旅の食料に使われる事が多いわ」
少し嫌そうな顔をして話してる辺り、美味しくはないのだろう。そりゃそうだ、パン屋の焼きたてパンを毎日食べてたら保存の効く市販のパンはそれなりの味にしか思えない。それも売れ行き上々で生き残ってるパン屋のパンなら尚更。
「でも、ちょっと興味はあるなぁ…」
何でも一度は食べてみたい精神である私の好奇心がうずく。
「えー…ウチのパン食べてた方が絶対良いのに…」
何とも言えない顔をするお姉ちゃんに苦笑いして見せる。
「興味あるだけだよ。それよりパンの付け合せ、何が売れ残ってても良いようにスクランブルエッグと何かサラダと…あ、そうだ。ハム…えーっと、薄切りの燻製肉とかってある?あればそれで野菜巻きたいんだけど」
何でも好きな物と言われたのでお言葉に甘えて付け合せについて意見してみる。
施設では質より量だったのでお姉ちゃんが言うようなカフェランチ的な物は食べた事が無く、知識としてパンに合うだろうなと思う無難な物をチョイスしてみた。
「干し肉のこと?」
干し肉だと多分ビーフジャーキーになってしまう。と、言う事はハムやベーコンは無いのだろうか。パンに合うのに…残念。
「ちょっと違うかなぁ…」
作り方さえ分かれば、肉の新鮮具合によっては作るんだけど。
仕方なくこの青果店ではレタスだけを、肉屋ではササミを購入した。ちゃんと部位ごとに売られているのはありがたかった。
【モニカ・ウィルネス値段相場(一枚あたり)】
ブラウス→銀貨3〜5枚
その他トップス→銀貨2〜5枚
スカート→銀貨2〜5枚
ワンピース→銀貨3〜8枚
上着→銀貨5枚〜金貨1枚
ドレス→金貨2〜5枚
その他→物による
※婦人服専門店です。
【よくある服屋値段相場(一枚あたり)】
シャツ類→銅貨8枚
その他トップス→銅貨5枚
ボトムス→銅貨5枚
上着→銅貨3枚〜銀貨1枚
バッグ類→銅貨3枚
【食材値段相場(100gあたり)】
レタス→銅貨1枚
鶏肉?(ササミ)→銅貨2枚




