78話
ラッテは巻き込まれやすい体質なのかもしれません。
ラッテを見送りながら、俺も風呂場に向かう。この屋敷の風呂場はかなりでかく、小学校の体育館が入るくらいだろう。湯の種類は特にないが、いろいろとお湯に手を加えていてある。これはじぃの父親のこだわりで分けているそうで、昔は冷え性の侍女のために柑橘類の果実を浮かた風呂を作ったり、兵士の疲れを取るために風呂に塩を入れたりしていたそうだ。最近までは一つの浴槽しかお湯をためていなかったが、奴隷が増えたので全ての浴槽にお湯を張っているそうだ。
「さて、今日は何風呂に入るかな〜」
風呂場についた俺はすぐに脱衣所で服を脱ぎ浴場に入る。脱衣所の作りがロッカーに服を入れる方法になっていてどこか前世のスーパー銭湯を思い出す作りだ。入浴剤にしろ脱衣所にしろ、どうも日本っぽい…もしかしたらじぃの父親は転生した人間かもな…今度詳しく聞いてみるか。
軽く体を流し、体を洗ってからいつも入る風呂に浸かる。ここは『毒消し根』と呼ばれる生姜に似たもの風呂だ。匂いもいいし、前世の雰囲気がするからどこか落ち着く。
「フゥ…」
「おや、珍しな。主人」
その声と共に俺の浸かる風呂に津波が起きる。体に力を入れ、流されないようにしながら発生源の方に顔を向ける。そこには鋭く尖った牙全開の笑顔を見せる龍人のベルドだった。ベルドは俺の隣に座る。確か、薬師だったな…
「ベルドか…どうだ?ここには慣れたか?」
「まだ慣れないことは多いが、奴隷商にいた頃より数千倍はいい。逆に何かあるのではないかと疑ってしまうほどだ」
「ははは。そうか。まあ、何もする気はないぞ…ただ、きちんと働いてはもうらがな」
「ああ。マリアさんには、毎日一定品質の薬を渡している。」
自信満々の顔で頷くベルドの表情から、不満はないのだろう。マリアも結構考えているんだな…今度マリアに薬を見せてもらうか…
「それで主人に頼みがあるのだが、薬品を入れる試験官を増やして欲しい。ドワーフならすぐに作れると思う…」
「自分で頼みに行けばいいじゃないか」
「うーむ…あまり接点がないのでな…話すのも風呂場か食堂だけだし…」
「わかった。俺から話をしておこう。」
安堵した表情に変わったベルトを見て一息つく。正直、ベルトと会話をしていると少し緊張する。どこか俺より強いというか…顔が怖いというか…気配がすごい。それにしても奴隷同士で会話とかないのか…それはそれで困るな…じぃに相談してみるか。
「さて、俺はもう出るとする。」
十分体が温まったので風呂から出る。何かベルトが話しかけようとしていたが、どうも表情から言いにくいことのようで面倒ごとの匂いしかしないので逃げた。
△
風呂から出た俺はのんびりと廊下を歩きながら、装備を整える。あの魔族からラスティの体を奪い返し、バクの息の根を止める…そのいい案を考える。シリウスの聖魔法が効かなかったことから、魔族のみ攻撃を与えるのはきついか…
なら…どうするか…記憶…体を乗っ取る…ああ!わからん!ラスティの体を傷つけるわけにはいかない…
俺が考え事をしていると、気配察知で前から多くの蝙蝠となって飛んでくるじぃを確認し、その場で待つ。しばらくすると蝙蝠が見え始め、多くの蝙蝠が俺の前で集まり一瞬でじぃが現れる
「申し訳ありません…すでにカーミラがサリバンに接触しておりました…。サリバンはこちらに向かっているそうです」
「争う気か?…」
「いえ…どうやら話を聞きに来るそうです。まあ、奴は熱い性格ですが無闇矢鱈に争うような男ではありません。」
「そうか…ならいいが…」
「それと、バクの件なのですが先ほど思い出しまして…参考になるかわかりませんが、奴は記憶を見てスキルなどを知って戦います。その際その記憶にはスキルなどの記憶以外に『想い出』なども一緒に見てしまい、感情移入しやすいようで昔…「はぁはぁ…ディル様!ら、ラスティ様がお嬢様が…お嬢様が!こられました!!是非お会いしたいとっ?」
エルフの奴隷侍女のステルが興奮気味に俺に報告してくる。目の前のじぃは話の間に入られたことで一瞬不機嫌な顔をしたが、ステルの興奮に押されたようで大人しくなる。俺はステルの報告を聞いてつい反射的に両肩を掴む。全身の血の流れが速くなるのがわかる。掴まれたステルの顔が苦痛に歪む
「それは本当か?…」
「は…はい!今ラッテに案内をさせております!」
「馬鹿!あいつはラスティじゃない!ラスティの面を被った敵だ!」
俺がそう叫ぶと、ステルとじぃが目を見開く。俺はステルの方を離すと、すぐに駆け出す。それにじぃも続く。
一人その場で固まったステルはワナワナと震えながらへたり込む。
「そんな…いえ…でも…そんな…まさか…」
『盗み聞き』スキルは小声だったステルの声も聞きのがさなかった。俺はいつの間にか全身を蝙蝠に変え廊下を飛行していた。俺とじぃが変化した蝙蝠は、バタバタと翼の音が長い廊下に響く。
△
私はラッテ!洗濯のお仕事をしている最中に、ステルおばちゃんに言われてお客様をお連れしています!確か、ひっろーいお部屋に案内すればいいんだよね?いやー初めてこう言う事するからわかんないけど、失礼のないように頑張らなくちゃ!
「エルフのお客様!こっちです!こっちです!」
「ああ、わかった」
エルフのお客様は足が遅いです!体も小さくて、まだ子供です!でも、なんか態度がでかくて、少し嫌な気配するけど多分気のせいだと思う!あまりの遅さに顔を後ろに回して、ついてきているか見ながら案内する!
「お、お前…気持ち悪いな…こっちを見ずに前をみろよ」
「し、失礼いたしました!」
なぜか怒られてしまった…でも気持ち悪いってひどいと思う!遅いから心配してたのに!でも、相手はお客様…我慢我慢!首を戻して、まっすぐ前を見る
「それにしてもこの屋敷は変わらねーな…反吐がでるぜ」
「吐くならトイレでお願いします…片付けが大変なので…あ!トイレでも詰まっちゃうと、それはそれで大変なので袋にお願いします!」
「そういう意味じゃねーよ…それにしても新しいメイドってこんなガキかよ。」
何か聞こえましたけど、無視をします!マリアさまに言われました!嫌なことを言われたら、それは自分じゃないと思えです!私じゃないー!私じゃないー!
…
「おい!聞いてんのかよ!おい!」
「へぇ?…は、はい!」
「もういい、用済みだ。俺はこの屋敷を知ってるし、案内なんていらない」
なら、それを早く言えばよかったじゃん!そうすれば私はお洗濯できたのに!もう!
でも、ダメ!態度に出しちゃダメ!でも、もう案内しなくていいなら帰っていいんだよね?
振り返りそっとエルフのお客様に頭を下げてから、その場を立ち去ろうとした時、何かが動く音が聞こえたのでその場を飛び退きました!すぐに自分がいた位置を見ると、そこは地面が真っ赤でドロドロな液体になっていました!危ないかったな!もう!
「ほぉ…やるじゃん。まずはお前から殺してやるよ…」