61話 モールスと技術生
気配察知に近づく気配が一つあったので、目を覚ます。時刻は午前9時になっており、普通の生徒ならすでに授業に出ているだろう。部屋の前を素通りするなら、通路なので仕方がないがこの部屋は角部屋になっている。と、いうことは俺に用がある人間しかいないわけだ。
俺はもしもを考え、ラスティを起こさぬようにベッドから抜け出し、『黒い吃驚箱』から「星斬り」を取り出し腰に差す。気配は扉の前で止まると、数回扉をノックする。
「我が名はモールス。この部屋の主、ディルに用があり参った。」
かすれた声が扉の向こうから聞こえる。老年な声だ。
モールス…確か、戦闘魔法学と防衛魔法学とか、魔法に関しての授業をすべて請け負う先生だったな…入試の時にソフランに聞いたけどよく分からない人だと聞いていたが…何の用だ?…
俺はゆっくりと待っていたこと気付かれないよう、自然に且つ警戒しながら扉を開ける。すると、そこには入試の筆記試験で答案用紙を出していた老人が立っていた。相変わらずの無表情で、何を考えているか分からない。
「はい…なんでしょうか」
「事情があったにせよ、授業選択を決定せよ。古き友の頼み、君に助言するため参った。」
「わ、わかりました…と、とりあえず中へどうぞ」
「失礼する。して、君…少し闇が強いように感じるが。…気のせいか。」
モールスは何やらブツブツと言いながら、部屋に入ってくる。闇が強い?…ま、まあ…バレちゃいないだろ…
リビングにある机には昨日カフが持ってきたバスケットが置いてある。朝飯分も入っていると言われたので、そのままにしてあったが、すぐに退かそうとするとモールスが俺の腕を掴んでくる。
「それは…飯か。」
「え…ええ。」
「少し分けてもらえぬか。栄養が足りておらぬのだ。」
「ど、どうぞ?」
俺はバスケットを開き、モールスに向ける。すると、モールスはバスケットに手を入れサンドイッチを取り出し、腰から杖を抜くと何かを詠唱する。詠唱が終わると、サンドイッチはよく分からない数個の粒になった。突然の魔法に驚いていると、モールスはそのまま粒を一粒飲み込んだ。
「今のは?…」
「栄養を補給しただけだ。ありがとう。さて、強化を決めるぞ。」
栄養を補給…おそらく、サンドイッチを栄養ごとに分解してサプリメントのようにしたのだろう…本当に人間か?…
俺の考えなど一切知らないモールスは椅子に座ると再び筆記試験の時のように紙が机の上に現れる。表になっているようでこれが時間割になるようだ。その横には薄い冊子も現れた。
「これに授業を埋めていく。授業は必修科目はすでに埋めてある。選択科目については自分の好きなものを取ればいい。これにまとめてある。参考にしたまえ」
冊子を受け取るとパラパラと中を見る。選択科目の単位取得条件などが書かれているが、ほとんど筆記試験での点数みたいだ。出席はあまり関係ないみたいだな…
「あまり深く考えんでも、いい。どうせ来年、再来年もある」
「そうですか…」
特にこだわりもないので、興味のあるものを選択する。主に歴史が多いな…次は特殊魔法やら陣魔法などを取った。もちろん「錬金術」はとってある。
すべて埋める終わると、モールスは記入漏れがないか目で確認する。それと同時に寝ていたラスティが起き始めた。
「其方はラスティ・ネイルだな。其方の部屋にも行ったが留守だったのでここにきたが…ちょうどいい。其方もまだ出していないな。提出してもらう」
「…それと同じ…」
ラスティは目をこすりながらモールスが持っている俺の時間割を指差す。モールスは短く「相、分かった。」というとそのまま席を立った。
「我のようは済んだので失礼する。恋愛に現を抜かさず勉強に励むことをお勧めする。ではな」
そういうとモールスはゆっくりと部屋から出て行った。なんだったんだ?…まあ、いいけど…って、最後のセリフだと俺とラスティの関係を勘違いしていないか!?…はぁ…
「今の人は?…」
「偉い人だよ。まあ、いいけどさ。腹減ったな。飯でも食いに行くか」
「うん…」
なんでもないこの会話から何かがすでに始まっていたりしてな。さあ、飯食い行こう!
▽
食堂に移動し遅めの朝食を食べている。食堂には人気が少なく、今くらいが食べやすい。ふと、視線を横に向けると女の子が机の上で何かを必死に書いていた。つなぎの上に白衣を着、眼鏡をかけた女の子に興味が湧きそっと話しかける。
「何をしているんだ?」
「ん?何だ、君は…今真剣に悩んでいるのだよ。これができれば世紀の大発明というのに…全く。自分が嫌になる」
そう言って女の子は書いていたペンで頭を掻き、その後唇を尖らし、鼻と口の間にペンを挟んで腕を組む。中に着ているつなぎには、金槌と剣が描かれているワッペンがあった。技術生か…そういえば誰とも関わってこなかったな…
俺の向かいに座るラスティはデザートのプリンに夢中だ。
「俺の名前はディル。一年だ。よろしく。そんで、中身を少し教えてくれないか?一人より二人で考えた方がいいだろ?」
「そうだな。私はアインだ。今中級生3年だ。内容だが、私は今来年に開かれる文化祭の技術生の作品発表会に出す作品を作っている。魔力に反応する防具などだ。魔物の素材を使えば、魔物の力を一部残せるのは知っているだろ?サラマンダーの防具は火に強く、絶対に燃えない。このような力を人間が防具に付与できれば世界は変わるだろ…」
そんなこと可能なのか?…てか、付与魔法ってないのか?
『可能です。ですが、今はまだ開発されていませんね。付与魔法はありますが、仲間にかける支援魔法ですのであまり効果は続きません。それに物にはかけられません』
まじか!ファンタジーの王道じゃんかよ。できるようになったら、どうなるんだ?…
『世界が変わるでしょう。その技術を独占しようと戦争が起こる可能性もあります。』
まじかよ…危険すぎね?…この研究はやめさせた方がいいか?
『いいえ。別にいいのでは?遅かれ早かれ生まれる技術ですし、ギルドが管理しているこの学園なら国は手を出せませんから。一番安全です』
そうか…だが、この女のこが目のつけどころがいいな。戦争が起こるかのうせいがある技術を作ろうとするか…
一枚噛ませてもらうか。
『了解しました。サポートいたします。』




