57話 真実とプロキオン
ベテルギウスは頭を押さえながら、大声で叫ぶ。何が起こってるんだ?…
魔力が切れたせいで体がうまく動かせない俺は、その場で寝転ぶ。ここまで魔力がなくなったのは初めてだ。
すると、白々しい声が頭に響く
『説明します。ベテルギウスに魔法を使用しました。勝手な判断をしてしまい申し訳ありません。』
ったく…はぁ…最近感情的になったと思ったら、これかよ…。まあ、いいけどさ…それで、ベテルギウスはどうなったんだ?
『説明します。ベテルギウスは現在『天啓』を受けています。私の一部が真実を見せています。これで、未来は変わります』
未来が変わる?…どういうことだ?…
『説明することはできません。ですが、未来のためです。』
ロット…お前は何なんだ?…
『……』
答えないか…これからベテルギウスと俺は関係があるのか…
『未来のため』その言葉の意味がわからないまま、動かない体のまま目の前のベテルギウスを見つめる
▽
突然小童から、光輝く何かがワシに入ってくる、とっさのことで魔法防御ができなかった。大量の魔法がわしの体の中をかけ潜り最後、わしの頭の中に集まっていく。苦しくはないが、焼けるように暑い。
すると、突然頭の中から声が聞こえ始めた。少し高い声は女とも男とも取れる声だ…声に表情はなく、感情がわからない。
『迷い子よ。其方をきちんとした道を歩めるよう真実を教えてあげましょう
『なんじゃ、お前は誰じゃ!』
『私はXXX。さあ、真実を知りたいならば大きく頷くのです』
『真実…それは、クラリスの死についてか?…』
『ええ。真実を知ったとしても他言は許されません。うちに秘めるのです。出来ますか?』
『できる。じゃから…教えてくれ…シリウスにもプロキオンにも誓おう!』
『聞き入れました。では、真実を…』
そう聞こえた瞬間、目の前がブラックアウトする。
そして、頭に多くの映像が流れる。見るのではなく、思い出すように流れてくる。
数時間経しやっと、全ての情報を見れたようで、頭が軽くなる。しかし、その分怒りが湧いてくる。全てを知ったせいで、知らなければよかったことまで知ってしまった。
『すべてを知った其方は自分の思った通りに行動するのです。道には出ています。踏み外さぬよう慎重にゆっくりと判断しなさい。』
頭に聞こえていた声がやむ。何か心が澄んでいるのか、目に映る光景が華やいで見える…
何じゃったんだ?…あの声は…そして、これが事実なら…
▽
突然ベテルギウスが静かに目を閉じていた。それも一瞬、すぐに目を開き当たりを見渡す。
俺は魔力がないせいで、未だ動けない。ベテルギウスは俺を見つけるとゆっくりと寄ってくる。この状況で攻撃されたら終わりだ…どうする?…
「主人よ…さっきはすまなかった。疑ってしまった…」
「どうしたんだ?…何があったか教えてくれないか?…」
素直に頭を下げるベテルギウスに理解できなかった。先までの怒っている様子はなく、今は奴隷商であった時のベテルギウスのようだ。
ベテルギウスは俺の発言に少し、考えるようなそぶりをすると口を開いた
「すまぬが、それは言えないのじゃ…約束でな。」
「そうか…まあ、いいさ。戻るか…」
「そうじゃな…なら、わしが今度は送っていこう。よっと」
ベテルギウスはそっと中指で引っ掻くように爪を立てながらゆっくりと下ろしていく。すると、空間に細い切れ目のような線が出来た。ベテルギウスは、そっと切れ目に手を突っ込む。手を入れているのに、その先に手がないってのは結構滑稽に映るもんだな…
しばらく、何かを探しているような顔をすると、すぐに何かをつかんだのかそのまま腕を引き抜く。かなり大きいのか切れ目が足りず空間がゆがんでいる。それでもベテルギウスは無理やり引き抜く。すると、スポンといい音がなると大きな自動車が出てきた。あれだ、前世のオフロードを走る車だ…なぜこんなものが?…
「こ、これは?…」
「これは『車』というやつじゃ。わしの友であるプロキオンが作った傑作の一つじゃ。」
ベテルギウスは運転席に座った。俺も歩ける程度に回復したので自力で助手席に座る。扉の位置も何もかも前世と同じ仕様だ…どうなってるんだ?もしかして、プロキオンは俺と同じ転生者なのか?…
「おお、主人はすごいな。初めて乗るものは、いつもあけ方がわからぬのじゃが…まあ、良い、つかまっておれ…行くぞ!」
ベテルギウスは魔力を込めた腕でハンドルを握り、魔力を込めた足でアクセルを踏んでいる。すると、車が進み始めた。徐々にスピードが上がり100キロほど出ていると思う。しかし、乗り心地が最悪だ…グラグラ揺れて乗れたものじゃない。しかし、運転しているベテルギウスは楽しそうにノリノリで運転している。
はぁ…しばらく、運転していると屋敷までの続く道についた。この時点で、闇が濃くなっているので魔力が回復し始めた。
「この車は扱う魔力によって形状が変わるのじゃが、主人の『闇魔法』ではどうなるか試してもらえぬか?」
「あー…ああ。わかった。」
ベテルギウスは車を止めると、すぐに運転席をたったので俺は横にずれて運転席に座る。ベテルギウスは外から回って車に乗り込む。俺は回復した魔力を闇魔力にして手足にかけると急に車が低くなっていく。大きかったタイヤは小さくなり全体的にスマートな形になる。シートも革のような質感に変わる。一番変わったのは運転の仕方だ。SUVがセダンに変わったようなもんだ。
「なんじゃ、この形は…しかし、実に乗りやすいのぉ…」
正直運転したことがなんだが…まあ、そこはノリでいくか。軽くアクセルを踏んで車を走らせる。初めてにしてはかなり美味いんじゃないか?…横にいるベテルギウスも驚いているし。
あっという間に屋敷までつき、空いていた門からそのまま入る。すると、何事かとじぃが飛び出してきた。俺はドアを開けて車から降りる。
「今帰ったよ。いやー楽しかった」
「楽しんでもらえて何よりじゃ。そうじゃ、あの『車』を主人にやろう。有意義に使ってくれ」
「本当か?なら、ありがたくもらう。…それと、これからよろしくな」
「…うむ、こちらこそよろしく頼む…」
俺が差し出した手をベテルギウスが握る。暖かな手だった。
「そうだ、そのプロキオンってのはどういうやつなんだ?…」
「プロキオンは、人見知りのガキですぞ。まあ、魔道具をたくさん作っておりますな…例えば…洗濯機などからこのような車まで幅広いですな。それがどうかしたのか?」
「いいや…今度会ってみたいなと思ってな」