41話 シリウスの決断
俺が剣を坊主頭の男にむけると、男は額に脂汗をかきながら固まる。一歩でも動いたら服を斬り裂いて素っ裸にしてやろうと考えていると、物凄い殺気が一気伝わってくる。空気が軋む感じがわかる…俺はゆっくりとその殺気を出す元を見る。
「何をしている…」
すると、シリウスが威圧のある低い言葉でそう言うと部屋が一気に静かになった。部屋が暗く冷たい牢屋に思えてくる…俺は剣を持っていたので剣術の追加スキルで助かったのだろう…威圧が消えたので、腰に剣を戻し席に座る。坊主頭の男は、その場でヘナヘナとしゃがみこむ。それからシリウスは大きくため息をつくと今度は俺を鋭く睨んでくる。あの目だ。城で馬に乗った時にされたあの目だ…こっからは真面目な話みたいだな…
「では、ディル。ブラッディピクシーがなぜあの部屋にいたのか説明できるか?」
「いいえ、わかりません。私が駆けつけた時にはすでにカフが部屋から出てきていましたから」
「それは私も居たから…本当…」
隣にいたラスティが援護してくる。そうだよな、ついてきてたもんな。
「そうか…うーむ…まあ、良い。まあ、これくらいでいいじゃろ。他のものはディルに何かあるか?」
シリウスが当たりを見渡しながら、そう言うと、シリウスから見て右側に座ったロン毛の男が手を挙げる。あまり瞬きをしないせいか、目が蛇に似ている…服装から教員か?…
「それでは、俺から。どうしてそんな時間に廊下を歩いていたんだ?連絡があったはずだぞ?自室に待機と。それに校舎はかなり離れているよな?」
「はい。それは…魔族というものを見てみたかったからです。純粋な興味本位と自分の力が役に立つのではないかという慢心です…それに関しては申し訳ありません…」
俺が素直にロン毛の男に頭を下げる。こう言う言い訳しか思い浮かばん…
すると、横でしゃがんでいた坊主頭の男が立ち上がり大きい声で叫び出す。
「調子に乗りやがって…多少スキルレベルが上だからって…そうだ!お前が終生の森のを守ればいいじゃねーか。」
「確かにそうだな…剣術がそこまでなら大丈夫では?」
「ああ!そうだ!やてみろよ!」
男の叫び声に便乗して、その場にいたほとんどの人間がそう言ってくる。終生の森を守る?何の話だ?
すると、坊主頭の男が周りを掻き立てながら調子に乗ってきた。ゆっくりと、シリウスの元に近づいていく。おそらく、あの殺気が怖いのだろう
「で、どうですか?シリウス様!名案っしょ?みなさん、賛成のようですが?」
「うむ…じゃが」
シリウスが渋っていると、好機と捉えたのかシリウスに追い打ちをかけてくる。パッと見だが、コルク、アニス、ウルサ、それとシリウスの隣に座っている老人は何も言っていない…反対なのか?
「では、どうするのですか?今年なったばかりの終生に、終生の森を守らせるのですか?高級生と同じようなものなのに??そんなの見殺しにするようなものですよね!理事長でもあるお方が、そんな考えでいいのですか?」
この坊主…ぶっ殺してやりてぇ…便乗している奴らも丸ごと殺したいな…
すると、シリウスはまっすぐ坊主を見る。一瞬で坊主が固まる。
「では、もしディルが失敗したら賛成したものがすべて責任を取るということでいいかの?」
「な、何を言ってるんですか!シリウス様!失敗したら、こいつのせいでしょ?」
「ん?ワシはみんなの意見を聞いて結論を出すつもりじゃが、君がディルならできると思うから推薦しておるのじゃろ?ん?違うかね?」
「う、う…」
顔がどんどん青くなっていく。よく色が変わる猿だな…シリウスは止めの一言を言う。
「言葉には責任を持て小童。それに、賛成した者もだ…」
再びとてつもない殺気が部屋に充満する。しかし、先とは違い苦し紛れに坊主頭が言葉を発する。
「で、では…誰が終生の森を?」
シリウスは苦虫を潰したような顔をすると、俺を真っ直ぐ見てくる。
「くっ…わかった。ディルよ。やってくれぬか?…ワシの首をかけてディルを推薦しよう」
「ヒャッハー!こりゃまたデカく出ましたね!シリウス様!ガキに学園の理事長という席をかけるとは!」
坊主が先ほどまでの態度を覆し、手を叩いて喜んでいる。あれに似てるな猿の人形でシンバル持ってるやつ。本当に癪にさわるやつだ…シリウスは深くため息をつく
「話は決まった。では、風紀員は昨日と同じく森の警備を。ディル…頼むぞ?…」
「はい…」
▽
話が終わったようで、俺は装備を整えて終生の森に三時まで待機と指示を受けた。今の時刻は2時半程度だ。
「すまない…ディル…私のせいだ…」
カフが申し訳なさそうに頭を下げる。
「そんなことはないさ。それにしてもあの猿…殺したいな…」
「同感…」
「ラージアス先輩だろ…あの人は噂だと「死装束」とかいう変な集団の一員らしい…」
「『死装束』…」
かつて城にいた時に時によく話に出てきてたな…面倒な奴らだ。正直、何がしたいのかさっぱりだ。もしかしてピクシーも、そいつらじゃないか?…
「そうだ、ディル。私の装備を使うといい。身長は同じくらいだから入るだろう」
「おお、ありがたい。借りる」
「おお!では、持ってくる!部屋にいてくれ!すぐ行くから!」
カフはとびっきりの笑顔を浮かべると、走って去っていった。よく道を覚えているもんだな…
完璧にカフの姿が見えなくなると、横にいたラスティがひっついてくる
「ディルは…死なない…私が治すから…」
「おう。頼むぞ…ってお前も来るのか?」
「当然…奴隷だもの。それにディルが死んだら…魔剣士になれない」
「ははは!そんな約束したな!なら…頑張ろうな?」
「ん…」
何だかんだ言ってラスティは結構しおらしい。そんでいて、結構頼りになるからな…
それから無駄話をしながら歩いていると自室についた。すでに部屋の前ではカフが重そうな装備を抱えて待っていた。
「遅い!」
「すまん…それか?」
「ああ…オリハルコンでできている。まあ、終生の森の魔物ではあまり意味はないかもしれないが…」
「着るだけでもかなり違うだろう。さあ、中に入ろうぜ。時間がない…」
俺が扉を開けると、二人が先に部屋に入った。俺もあとに続いて入る。
部屋の中央にある机にカフが装備を置く。フルアーマーではなく、動きやすそうな軽装だ。早速その場で着替えてみる。このオリハルコンという非常に硬い金属で、魔法に耐性があるそうだ。
「どうだ?」
「似合っているよ!ぴったしじゃないか!」
「まあ、それは褒め言葉として言っていいのかな?…まあ、いいか。さて、そろそろ行くな」
「うん…頑張って。無茶はせずに!」
「おう。」
俺は星斬りを携え、部屋を出る。その後ろには、ラスティも付いている。
さあ、いっちょやりますか!
▽
「はぁ…はぁ…はぁはぁ…お前は、何者だ…はぁ…」
「知る必要はないよ。ぜーんぶ忘れるんだよ…」
「何を言って…くっ…」
「勇者の記憶はどんな味なんだよ…楽しみだよ」




