37話 森の警備 カフの思い
カフ視点です。
風の音、風に吹かれ葉が揺れる音、鳥のような鳴き声や獣の遠吠えが聴こえる。
決して静まり返る事はなく、何かの音が私の鼓膜を振動させる。
「兄様、風紀員おめでとうございます。」
「何を言いっている。カフも風紀員じゃないか。それにそう、固くなるなよ。ここは家ではないんだぞ?あのクソ親父もいない…」
「そう…ですよね。それと、父上のことをクソ親父と言っていたことは報告しますね」
「ま、待て!それはやめてくれ。頼む!」
「ははは。冗談ですよ。それにしても、冷えますね…」
「そうか…なら、いいんだが。」
気を紛らわせようと必死に話題をつなげる。兄様も雰囲気を変えようと冗談まで行ってくるほどだ。
周りにいる他の風紀員は皆黙っている…。自然と話も途切れ完全に話題が切れる。
「そういえば、カフの友人にディルというやつがいるだろう?」
「え、ええ…」
「あいつは何か普通のやつじゃない。気をつけろよ…まあ、危ない感じはないんだが…見た目以上の力を持ている」
「わかっています…」
どうやら、ディルの秘密はバレていないようだ。それにディルが危ないやつには思えない…まあ、危険なやつだ。おそらくもっと秘密があるだろうし、あの無表情だ。でも、きっと私はディルと対等な友だ。そして、初めての友だ。
そんな時、耳を劈くような悲鳴が聞こえた。私は兄様と顔を見合わせると、うなずき合い担当の先生のところに向かう。薬草医学?と?の若干二十代の女教員だ。
「こ、これはシェダル君!ど、ど、どうすれば!い、今のは」
「プレント先生。今の悲鳴はおそらく高級生の寮からです。俺がが向かいます。先生は他の先生に連絡を」
「は、はい!お、お、お、お願いしましゅ!」
女教員は手に持った杖を両手で持ち、戸惑っているようだったが許可は得た。兄様はすぐに校舎の中に入っていくので、その後を必死に追いかける。階段を4回廊下を2回走ったところで悲鳴が出たであろう廊下に着いた。兄様は警戒しながら廊下を進む。すると、一部屋だけ部屋の扉は少し開いた。
「ここですかね…」
「ああ。おそらく。しかし、ドアが開いているのは不自然だ…」
兄様と二人で中に入ると、女性が倒れており、その両手両足を小さな赤色の小人が綱引きのように引張程る。総勢10匹程度か…小人、赤い肌に飛び出さんばかりに膨らんだ眼。その背中には薄い虫のような羽が4枚生えている。
「これは…」
私は小人の正体が理解できたが、同時に恐怖した。
『ブラッディピクシー』だ。赤い血を好み、魔族から人、竜までも集団で襲いかかり鮮血で周囲を染め上げ死ぬまで襲いかかってくる肉食の精霊の一種だ。ギルドでの討伐ランクは黒だ、8年生でも討伐は出来ないだろう。
私が棒立ちで固まっていると、兄様は素早く女性の腕を引っ張るピクシーに切り掛かり、女性から手を離させる。小人と言っても力は竜種のうろこすら引き剥がすレベルだ。ひとたまりもない。
兄様はすぐに女の子の足側にいるピクシーにも切りかかろうとするが、腕を持ていたピクシーが兄様に襲いかかってくる。手や足、背中と高速で飛びながら確実に噛み付いてくる。肉が持って行かれ血が流れる。
「くっ…」
兄様は痛みに歯をくいしばると、女の子の足もとのピクしーを蹴り上げる。ピクシーは力や魔法では敵わないが体重そのものが軽いので、勢いがあると動かすことができる。兄様は必死に襲い来るピクシーを払う。すでにピクシーは標的を女性から兄様に切り替えている
「カフっ!早く、その人をっ!連れて行け!こいつらにお前は見えていない!早く行けっ!」
ブラッディピクしーの生体は未だ謎の部分が多く、自身に攻撃してこないものは、視界に入らない。
私は必死に女性を抱え上げ、部屋からでる。身長の差で動かすことも厳しいはずなのに、自然と力が湧き出る。私はそのまま女性を持ちあげると部屋から飛び出した。
「はぁはぁ…兄様!早く!」
「無理だ!扉を閉めろっ早く!…こいつらが逃げ出したら犠牲者が増える!」
「で、ですが…それでは!」
私が兄様の言葉に反論しようと声を出すと、ピクシーの数匹が声に気付き扉の方に飛んできた。私は恐怖から扉を閉めてしまった…この扉は自動ロックがかかりこの部屋の持ち主でないと、開けることはできない…頭の中では理解できているのに扉を無理矢理開けようとする…くそっ!くそっ!
「兄様!兄様!…開けっ!くそっ!このままだと…兄様が!」
こんな状況で、私は…俺はどうすればいいんだ。俺は…何に何ができた?…姫様とここまで来た時、オークに襲われた…私はオークにすら恐れていた。初の戦闘…習っていた事を忘れ、必死に剣を振るっていただけだった…
あの時、もしもディルが通り掛からなかったら俺は死んでいた…なら、今度は兄様が死にかけている…ディル…助けてくれ…
「ディル…」
言葉が出ていた…自然と…しかし、その言葉に返してくれない。兄様…
「呼んだか?」
すぐに振り返ると、そこには相変わらず何を考えているかわからない表情の俺の親友が立っていた。




