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26話 閑話 受付嬢の出会い

私の名前はソフラン。この学園に入学してから、すでに7年もの歳月が過ぎていました。今の年齢は13歳。

まだまだ子供ですが、それでも高級生。多くの後輩を持つ先輩なのだ。しっかりしなければ。

私は貧しい農村で生まれました。頭が良かった私は、昔村の税の管理を任されました。その時、村に税を徴収しに来た役人が余分に税を取り、懐に入れていると暴き問い詰め国に報告しました。数日後、事実確認が行われその役人は裁かれ、私の元にはその報酬は国から出ました。村は私を讃え、私のために報酬を使い学園に入学させてくれました。それから村の人たちに学費を払わせるわけにはいかない。その一心で特待生と呼ばれる成績上位者の特権、学費無償、寮費無償を目指し猛勉強をし、7年連続特待生になっている。

そんな私は、貴族の子供が嫌いです。貴族の子供は偉くもないのに、親の権力を使って我が物顔でいるのが嫌でした。私も色々と厄介ごとに巻き込まれました。はぁ…

今は落ち着いてきて、現在はボランティアとして入学生の受付をすることになった。お昼を過ぎたあたりになると、受付に来る入学生が減ってきた。喉乾いたし裏でジュースでも飲もうかな…そう考えていた時、彼がやってきました。

真っ白な…まるで穢れを知らない雪のように綺麗な白い髪に、透き通った海のような蒼い瞳をした可愛らしい少年が受付にきました。私のところに来ないかな〜なんて思っていましたが、少年が並んだのは隣の受付だった。あー惜しい!

横目で少年を見ていると、冷静な表情…なんか孤独感がある表情だな。

すると、隣で受付をしていた少女が固まって震えていました。何かおかしい…そう思った私はすぐに少女に話しかけました。


「どうかしたの?…」


「き、きいてくだしゃい…こ、こ、こ、この子…」


震えのせいか、うまく話せていない。魔法か何かの精神攻撃にでもあったのか…そう心配すると、少女は私に受験者リストの名簿を指差し私に見せてきました。その瞬間私の感情は、場違いなものだと理解しました。


ディル=アヴィオール


この世界でもっとも権力を持つ国。ギルドが唯一、慎重になる国の国王の苗字。勇者の国だ…

その苗字があるということは、その子供…つまり、王子ということだ。一瞬で顔の血が引いていく。体が冷たくなってくる。


「どうかしましたか?


まだ声変わりしていない高い可愛らしい声だ。しかし少女には悪魔の声にしか聞こえなかったのだろう。震える少女…王子を待たせてしまっている。腹を立てて殺されても仕方がない。


「馬鹿、代わりなさい…さあ、あんたは後ろに水でも飲んできなさい。後は私が何とかするわ」


女の子から名簿を受け取ると、無理やり後ろに下がらせます。少年は未だ表情を変えていないので、感情がわからない…


「失礼しました。私は、冒険者科 高級生7年のソフランと申します。失礼な態度を取ってしまい申し訳ございません。ここではいくら王子でも権力は使えません。ですから、彼女のことをどうかお許しください」


「え?…あーはい…許す?…その態度って俺の家のせいですか?…」


私の言っていることが理解できていないようだ。しかし、とてもいい声…ずっと聞いていたくなるような綺麗な声…


「はい。アヴィオールと言えば先代魔王を倒した元勇者ウェッタ様が治める国。現勇者であるアクィラ様もいらしゃいますし、この学園の理事長であるシリウス様もお住いの国。騎士の国…戦争を左右する国ですから…」


「そうなんですか…ですが、ここではただの生徒です。平等に扱ってください」


一瞬理解できなかった。貴族とはいつも権力を使って、自分がしたいことをする。私は王族には関わったことは一度もありませんが、貴族以上の権力を持つ王族は貴族の親玉のようなイメージでした。しかし、少年は権力を使わず自分から平等を求める。感心と同時に、何か裏があるのではないか?そう疑ってしましたが、何かバカらしく思えてきました。すると、自然と吹き出してしました。少し少年の表情が和らいだ気がします。


「はい!…では、失礼ながらディル君と呼ばせていただきます。では、こちらを」


普通なら君づけなんてしてはいけないだろう。それに受付をして、初めて名前を呼んだな…

受付番号のか書かれたゼッケンを手渡すと、少年は何なのかわからなかったのかすぐにゼッケンを眺める。実に可愛い…


「そちらをつけていただいて、このまま奥に行ってくださいね。そこで他の受験者と集まってもらい、ある程度の人数が集まり次第実技試験を始めます。実技試験は一人ずつ取得しているスキルにあった担当教員と模擬戦闘。その後、魔感玉による魔力属性と現段階の魔力値を測定します。」


「わかりました。では、失礼します」


少年はきちんと深いお辞儀をしてくれました。貴族の人にお辞儀をされたのは初めてです。

小さいのに、幼さを感じない…どこか私と同い年…いや、年上の感じがします。私は初めて心から、応援したくなった。


「頑張ってくださいね」




その後、受付交代の時間になりました。私は裏に戻った先の受付の少女のもとに向かう。

控え室には、心配そうに震える少女が座っていました。私はスタッフ専用のドリンクを二つ持ち少女の横に座る。


「ほら、飲みなさい…」


「はい…」


少女にジュースを渡す。りんごとみかんのジュースしかなかったが、私はリンゴ派なので渡したのはみかんだ。

そっと飲み口に唇を当て、ジュースを飲み干す。かなりのどが渇いていたようで一気に飲んでも飲み足りなかった。


「その…あの王族の…私はど、どうなるのでしょうか…」


「ああ。なんか、気にしていなようだったわよ。許すも何もね?」


「そ、それは本当ですか!?」


「ええ。嘘ついてどうするのよ。それ飲まないなら、私にくれない?」


少女はみかんジュースを数秒見つめると、一気に飲み干した。どうやら、相当私に飲まれたくなかったようだ…


「ふふふ…どう?落ち着いたかしら?」


「ま、まだですけど、さっきより吹っ切れました!」


「そう。なら、良かった。休んだ分、しっかり働きなさいよ?」


「はい!」



休憩室で少し休んだ後、私はあの少年…ディルが気になって実技訓練の列を見学している。

例年以上に志願者が多く、試験が少し難しくなるそうだ。まあ、仕方ないだろう。ディルは大丈夫だろうか…頭は良さそうだったけど、実技が心配ね…確か、腰に剣を差していたから「剣術」かしら…確か、担当はシークレスト先生だったかしら…

列を見て、ディルを探していると何か貴族がもめているようだった。ここは上級生として止めに入らなければ…

もめているところに向かうと、そこにディルの姿があった。どうやら、絡まれているようだ。しかし、ディル自体はたいして困っていないような感じだ。

しかし、私は怒っていました。こんな可愛い子に…しかも王族なのに絡むバカは誰だと…


「何をしているんですか?12番」


怒りのせいか、声が低くなり睨むような目をしてしまった。12番…頭の中で先の受験者リストを思い出す。そこには面倒な名前が書いてあった。


ケル=フッガー


富で国を動かせるほどの力を持つ貴族の次男。家に置いておくのが面倒だから、入学させたのだろうと、先生が言っていたな…それに要注意だとも。自分から絡んでしまったか…


「農民出が偉そうに…特待生だからって調子に乗りやがって…」


「なんですって…?」


私は一瞬で頭に血が上た。農民の何が悪い。一人の女に仕送りするために、村中が必死に働くほど貧しい村だが、それが何だ。ここは実力主義の冒険者を育てる学園だ!つい、怒りのままケルを殴ろうとした時、私を察してか黙っていたディルが間に入ってきた。


そのままディルは、流暢に話しをまとめていく。自分を下に相手を持ち上げる。しかし、何も反論できないように。

完璧な言葉の壁。しかし、私は再び理解できなかった。なぜ、ここまで自分を隠す必要がある?自分の家のことを言えば済む話、いや、ケルだってタダでは済まないのに…なぜ?

話が済むと、ディルはその小さな手で私の手を掴むどっかへ連れていく。手は温かく、どこか冷たかった。

ディルが手を離したのは、列の最後尾まで来た時だった。名残惜しいが、仕方がない。

するとディルは私に頭を下げて感謝をしてきた。


「さっきは助けていただいてありがとうございます」


理解できない。なぜ感謝する?私は何もできなかったじゃないか…感情のままケルを殴ろうとし、それを止めたのはディルじゃないか…時感謝するのは私の方だろう…


「なぜ、身分を明かさないのですか?…おかしいです…」


感謝より、前に口から出たのは疑問だった。すると、ディルはどこか寂しそうな表情になると口を開いた。

そして私は後悔する。


「身分を明かさない理由ですか。…話せば長くなるのですが…簡単にまとめると、私はアヴィオール家と血が繋がっていないんです。」


血が繋がっていないのに、苗字を持つ。それって…


「それって…」


私が続けようとすると、ディルが言葉を遮る。


「あまり話したくないので、これ以上は…」


私は最低だ…


「……」


ディルは何も言わずに列の前に進む。私はその小さな背中を見つめることしかできなかった。


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