27話 ディルの実力
実技試験の列に並ぶこと20分程か…俺の後ろに誰も並ばず、俺が最後のようだ。そういえばカフはどこにいるのだろうか…ゴタゴタがあったせいで、列に並んでいたかわからないな。まあ、あいつはどっかでまた会いそうな気がするしいいか。
のんきに待っていると、俺の番が来たようだ。真面目そうな長身の男が、俺のゼッケンに描かれている番号を呼ぶ。
「最後だな…26番!こちらに」
「はい…」
呼ばれたので、軽く返事をしながら、前に出る。模擬戦闘の相手は教員のようで赤い革ジャンに燃えるような赤の髪色をした30代前半ほどの若い男だった。俺の前の模擬試験の様子を見ていたが、若い男はどうやらスキルは発動させていないようで剣を片手で持ち、受験生の剣を去なす。まあ、どれも初心者のようなものでスキルレベルもさほど高くないと思うし、なんせ6歳の体じゃ身体能力も高が知れている。
男はあくびをかみ殺しながら、片目を閉じ剣の腹で肩をたたく。
「お前で最後か?…はぁ…メンドクセェ」
「アニス先生。そういう態度は、悪影響です。しっかり仕事は全うしてください!」
「分かってるっつーの…ったく。ほら、ガキ。来い。」
構えもせず、再びあくびをする。俺は長身の男から模擬戦闘用の木製の剣を受け取る。どれくらい強いか知らないけど、そこまで余裕があるなら僕ちゃん、少し本気出しちゃうよ??
俺は剣を両手で構えスキル「剣術」を発動させる。先ほどもらった『吸成力』のリングのせいでフルパワーではないがそれでも、ちゃんと構えていないと痛い目にあうと思う。
しかし、それでも男はちゃんと構えないので一気に詰め寄り切り掛かる。
「なっ!」
男は俺の袈裟懸けの速さに反応し、すぐに木刀で受け止める。おお!いい反射神経だな。
男は軽く舌打ちすると、力を込めて俺を押し返そうとしてくる。力でいうと、断然俺の方が弱い。本気を出せばどうかわからないが、体格差は埋められない。そこで俺は、あえて力を抜く。俺を押し切ろうと、力を入れ踏ん張った男は勢いのまま体勢が崩れた。一瞬で男の、剣を持つ右側に移動する。男はとっさに肘を入れてくる前に、下から男の前腕をつかみ捻りあげる。
「いてててて…」
そのまま男の腕を後ろで押さえると、すぐに首に木刀を近づける。男は額に脂汗をかきながら、俺を睨みつけてくる。
長身の男は目を見開き、そのまま固まっている。周りには他のスキルの模擬戦闘を終えた教員が見物人になっていた。
「ま、まいった…」
俺は腕を離し、持っていた剣を器用に回すと、地面につきさした。男は腕がまだ痛むのか、肩を回しながら俺を見てくる。その目には怒りはなく、少し満足している、そんなような目だった。
「お前、すごいな。最近のやつは剣技ばっかり使ってきやがるが、お前は剣技を使わず俺を倒した。しかも、完璧にな。手も足も出なかったぜ。…おい!こいつはAだ。メモしておけ」
「は、はい!」
長身の男がすぐにすぐに持っていた紙に何かを書き始める。周りで見ていた他の教員が笑顔で拍手を送ってくる。やべ照れくさいや…
俺が照れていると、男が俺に手を差し出してくる。俺も手を差し出し握る。
「俺は「迷宮探索学II」「迷宮探索学I」を教えているアニスだ。1年だと「対人戦闘学基礎」を教えてる。よろしくな。」
「はい。私はディルと言います。よろしくお願いします!」
「そうか!それでディルは、誰に剣術を習ったんだ?」
「ご存知かわかりませんが、ウォッカという騎士の方に…」
「う、ウォッカ!?あ、あの「拳骨ハンマー」のウォッカ!?」
拳骨ハンマー…そういえばウォッカが使ってたハンマーも握りこぶしをかたどったハンマーだったな。それにしても拳骨ハンマーか…いいセンスだな。
「たぶん、そうですね…」
「ってことは、お前…お前が学園長が入学させた例の王族の…」
アニスの表情が強張る、先ほどより脂汗をかいている…こういうのが、めんどくさいんだよな…アニスに声をかけようと、一歩近づいた瞬間集まっていた教員の中の一人の男が大声で騒ぐ。
「おい!君!急げ!冒険者化の筆記試験が始まるぞ!」
「で、ですが、魔力の審査が…」
「んなもんは、後でいい!急ぎ給え!」
声をかけてくれた男が前を行くので、その後をついて走る。アニスが何かいそうとしていたが、聞き取ることができなかった。まあ、入学すればいつでも聞く機会はあるだろう。
「負けたな!しかも手も足も出せずに!傑作だな!…ん?どうかしたのか?」
「あのガキが、「例のガキ」だ…」
「ま、まさか…」
「急いで筆記試験の監督に伝えろ!もし何かあったら…学園が終わるぞ…」
「む、無理だ!試験中は入室は絶対にできない。モールス様の魔法がかけられている。安心しろ!おそらく試験は受けられる!」
△
「ここだ!早く入りなさい!一番う後ろの席でいいから、とにかく席に着くんだ!」
「は、はい!」
男の後を追って、案内され着いたのは大きな大学の講義室のように傾斜のある、すり鉢のような教室だ。前に黒板があり、その前にある椅子に白髪の老人が座っていた。俺が当たりをキョロキョロしているとい、監視官なのか、腕に腕章を通した女が注意してくる。
「そこの君。早く着席しなさい。もうすぐ始まります。もしテスト中に着席していなかった場合、その時点でテストは無効になりますよ」
冷たい目で俺を注意する女監視官。俺は先ほど言われた通り、後ろの席に座る。すると、同時にどこからかチャイムがなった。すると、黒板の前に座っていた老人が立ち上がり、当たりを見渡すと指をそっと弾く。パチンと弾ける音がすると、一瞬で教室全体に薄い青色の膜が包んでいく。あれは…魔法?
そして、老人は弾いた指を開き手をそっと動かす。それ同時に端の席から机の上に一枚の紙が浮かび上がってきた。その横には羽ペンと黒インクが出現する。これで書けってか?
当たりを見ると皆必死にな形相で紙に向き合っている。俺も開いてみる。
「はぁ…」
筆記試験は3科目あり、「数学」「歴史」「薬草学」この世界はだいぶ遅れているようで、数学の問題は四則演算と初歩の数学程度。歴史はシリウスとの会話で物語のように聞かせられていたので余裕だ。問題は薬草学…だが…
『お答えします。1問のイラストは「薬草」。2問目は「八角芽」の効用は、40度のお湯に溶かすと心爆病患者の心の臓の膨張を抑える特効薬になりまうす。3問の「マンドレイク」の採取方法は…』
どうやら、最強の相棒カンペのおかげで問題ではないようだ…
てか、なんでも答えれるのがすごいよな…これなら勉強しなくても良くないか?…まあ、良いけど…
そのおかげで皆が頭を抱えている中、俺はひたすらペンを動かしていく。テストを書き終わ得たので、机の上に突っ伏す。
俺が起きる頃、ちょうどテストが終わったようでチャイムが鳴る。はぁ〜眠い…
なにやら女監視官が俺を睨んでくるが、無視だ。真面目な人なのだろう。テストをその場に残したまま皆退出していくので、俺も皆の後ろをついていく。
どうやら、これで入学試験は終わったようで皆が一喜一憂していた。俺は来た道を戻り、模擬戦闘をした土とに出てきた。片付けをしているようで、先ほどの教員が机や椅子をどこかへ運んでいた。その中にアニスがいたので話しかける。
「アニス先生。先ほど途中で筆記試験に移ってしまったので、今からでも間に合いますか?」
「お、おお!ああ、間に合うぞ…合います…」
「口調は改めないでください。ここでは平等ですよね?」
「ハハッ!確かにそうだ!教鞭を振るってから、冒険者の頃の活気な部分まで引っ込んじまって仕方がねぇ。待ってろ…お!ソフラン!今手に持ってるやつを持ってこい」
アニスは片付けをしている人たちから、ソフランを呼び出した。ソフランさんは小さな水晶のような無色透明な球体を持ってきた。俺と目が合う…あ、顔をそらされた…
「はい。どうぞ…」
「おう。サンキュー。ディル、こいつを掴んでみろ」
アニスはソフランから受け取った水晶玉を俺に渡してくる。俺はそっと水晶玉を受け取ると眺める。すると水晶玉がうっすらと光始める。まるで魂記録のあの光のような…
「ん?おお、全属性を持ってるみたいだな!よかったな!」
アニスが俺の肩をビシバシと叩いてくる。笑顔なので悪気はないみたいだが…痛い
全属性…か。まあ、魔法は奪ってたし、あんまり考えてなかったな…
『説明します。魔法の全属性持ちは少ないですが存在します。しかし、器用貧乏になりやすく、魔法の入手が難しくなります。』
ふーん…まあ、少なくてもいるならいいか…
アニスが腕を組んで何か考えているようなそぶりをする。
「それにしても見たことない光だったな!初めてだ!まあ、あれくらいの光だったら魔力は500程度か?どう思うソフラン」
「そうですね…それくらいでいいかと」
「よし。それじゃあ、今のを試験表に書いておいてくれ。俺は帰る」
「はい。お疲れさまでした」
ソフランは軽く頭を下げると、アニスはどこかへ走り去った。姿が見えなくなると、ソフランは頭を上げ俺が持つ水晶を取り上げる。
「お疲れさまでした。どうでしたか?入学試験は」
「ぼちぼちですよ。結果は「神のみぞ知る」って感じですかね…」
「ふふふ。そうですか。そろそろ発表があると思いますよ。案内をいたしますよ。いきましょう」
「ソフランさん。いや、ソフラン先輩。後輩に敬語はおかしくありませんか?」
「そうですね。行こっか、ディル君」
「はい!」




