25話 受付と商人貴族
村からずっと道なりに走ってきたが、無事ついたようだ。冒険者学園は俺の住んでいた城と比べても遜色ないほどの大きさだ。煉瓦造りの校舎は全体的に黒く不気味なオーラを漂わせている。雰囲気で言うと、ホグ○ーツっぽいかな?
学園の門の前には多くの子供が列になっていた。どれも俺と同じように幼くあたりをキョロキョロと見ているので同い年だろう…そっと列の最後尾に並ぶとすぐに列が解消していき、俺の番になった。
列の前の子供は門番のような男たちと何か会話を、その後右側に向かっていく。皆同じ紺色のコートを着ているのだが…もしかして規定とかあるんじゃないよな?…
あたりをキョロキョロと見ていると、一人の門番風の男が話しかけてきた
「ふむ、その格好だと冒険者学園の入学者かな?」
「は、はい…」
「そうかそうかでは、あっちで受付してくれ。すぐそこだ、ほら」
男は満面の笑みで、優しく左側を指差す。降り向くと簡素な机が数個並べら、その1つ1つに女性が座っていた。皆、魔女のようなとんがり帽子をかぶっている。おお!なんか受付っぽいな!
「あ、あの…コートとか着てないんですけど…」
「ああ!大丈夫だよ、あのコートは技術系の生徒だからね。この学園は商業ギルドに所属する生徒もいるからね。彼らは実技試験はなく、筆記試験のみだから分かりやすくするためにコートを事前に配布していたんだ」
「そうですか…ありがとうございました!」
「うん!頑張るんだぞ!」
俺は軽くお辞儀をすると、教えられた受付に向かう。受付には誰も並んでいなかったので、適当に開いている受付に並ぶと、すぐにとんがり帽子のメガネっ娘に話しかける。その瞬間、メガネが赤く光ったと思うと、頭にアナウンスが響く。
『スキル「鑑定」が行なわれました。スキルレベルが所持するスキル「偽装」の方が高いため偽装したステータスを開示します』
鑑定?ああ、ステータスを見るスキルか!よかった…偽装しておいて…あ!偽装したステータスのスキルレベルって5のままじゃなかったか?まあ、シリウスには知られているわけだし、隠せば余計こじれるか?…
目の前の女はありえないものを見るように、俺を見てくる。俺は無表情で女に問いかける
「どうかしましたか?」
「い、いえ…お名前は?」
「ディルです…」
フレネームで言うべきか悩んだが、結局名前だけにした。名前聞く意味あるのか?ステータスを見たんだろ?ああ、試験の成り代りを防ぐのか…
女は名簿のようなもので俺の名前を探しているようだ。
「はい…えーディル君ですね…ディル=アヴィオ…え?」
女は俺の名前の途中で時が止まったように動かなくなった。アホみたいに大口を開けて目を見開く。馬鹿面だな…
すると、隣で受付をしていた女性が話しかける。
「どうかしたの?…」
「き、きいてくだしゃい…こ、こ、こ、この子…」
メガネっ子は名簿の一部に指をさし、隣の受付の女に見せる。すると、隣の女も理解できたようで顔がどんどん真っ青になっていく。
「どうかしましたか?…」
「ひ、ひぃ!いえ、なんでもありましぇん!ま、誠に申し訳ごじゃいません!」
「あー…大丈夫ですか?…」
「馬鹿、代わりなさい…さあ、あんたは後ろに水でも飲んできなさい。後は私が何とかするわ」
すると、隣の受付の女がメガネっ子から名簿を奪い俺に向き合う。代わった女性は真っ直ぐ俺を見つめてくる。綺麗な白い肌に薄い唇。茶髪を短く切りそろえられ清潔感がする。うん!綺麗系だな。
「失礼しました。私は、冒険者科 高級生7年のソフランと申します。失礼な態度を取ってしまい申し訳ございません。ここではいくら王子でも権力は使えません。ですから、彼女のことをどうかお許しください」
「え?…あーはい…許す?…その態度って俺の家のせいですか?…」
「はい。アヴィオールと言えば先代魔王を倒した元勇者ウェッタ様が治める国。現勇者であるアクィラ様もいらしゃいますし、この学園の理事長であるシリウス様もお住いの国。騎士の国…戦争を左右する国ですから…」
「そうなんですか…ですが、ここではただの生徒です。平等に扱ってください」
その一言を聞いたソフランは、少し固まるとすぐに吹き出した。さっきまでの真面目な表情からの、笑顔は反則だろうぉ。
「はい!…では、失礼ながらディル君と呼ばせていただきます。では、こちらを」
ソフランは何か白い布を手渡してきた。受け取り広げてみるとゼッケンのようで、デカデカと26番と書かれていた。
「そちらをつけていただいて、このまま奥に行ってくださいね。そこで他の受験者と集まってもらい、ある程度の人数が集まり次第実技試験を始めます。実技試験は一人ずつ取得しているスキルにあった担当教員と模擬戦闘。その後、魔感玉による魔力属性と現段階の魔力値を測定します。」
「わかりました。では、失礼します」
「頑張ってくださいね」
△
ソフランが入っていた通りに真直ぐ歩いていると、同じようにゼッケンをつけた子供たちが集まっていた。100くらいか…?子供たちは列になっているようで、先頭にはプラカードを持った大人が立っている。プラカードには「剣術」や「槍術」など書かれていたので、自分の所持するスキルの列に並べばいいのようだ。
「剣術」が一番多く、その次に双剣術が多いな…まあ、俺は剣術かな〜槍でもいいんだけど、あんまり訓練してこなかったからな。そう考えていると、後ろから何かで小突かれる感覚があったので振り向く。そこには少し太ったガメツイ顔のガキが、持っていた剣の鞘先で俺を突いていた。後ろには仲間なのかニヤニヤと笑顔を作るメガネをかけたガキがいる。
「おい、お前いい剣を持ってるじゃんか。貸せよ」
「…?」
「おい、聞こえないのかよ!そんな見っともない格好して、よくこの学園に入学しようと思ったな。早く、それをよこせ!」
ガメツイた顔のガキが黙っている俺にキレたのか、腰に差した剣を奪おうと手を伸ばしてきた。
俺はすぐに野性的格闘で対応しようと考えていると、俺の前に並んでいた生徒が俺とガキの前に割り込んできた。
「よさないか!見っともないぞ!…ったく…その剣が争いの元だな?…」
前にいた生徒は、俺の顔を見るとすぐに反らし、ガキの方を見る。ガキは見られていることを気にしてか胸を張っている。あーウゼェ…その後、生徒は大きくため息をつくと俺に向き直った。
「君は、服装から下人だろう?だったら、貴族の言うことは聞かないといけないぞ。早くその腰に差した剣を彼に渡しなさい。下人は貴族に無償奉公するのが務めだろう!」
「は?…」
意味がわからん!こいつ俺を助けるために割り込んできたんじゃないのかよ。人を見た目で判断しやがって、いっその事俺の身分言ってやろうかな…あ、血が繋がってないんだよねーこれって権力の効果あるのかな?
「貴様、下人の分際で口ごたえするか…フッガー家の僕に!」
フッガー家?いや、貴族の家名言われても知らねーよ…城で他の貴族集めてパーティしてたけど、俺出席してないし。
ウォッカと訓練してたし…ウォッカが可哀想だと、料理を持ってきて一緒に食べたな…やべ、泣けてくる…
「説明します。フッガー家は交易で利益を出し多くの富を蓄えている商人貴族です。その富から、フッガー家のあるマラカイト皇国の経済を支配しているので、国を支配しているようなものです。彼はその次男坊ケル=フッガーですね。長男が家を継ぐようで、次男のケルは冒険者にでもさせるのでしょう』
あ、ありがとう…って、どこまで知ってるんだ?スキルとかの説明用かと思っていたが、貴族の事まで説明できるとか有能すぎる。
『ありがとうございます』
おお!デレたよ!初デレ!これは…いい…何がいいかというとわからないが…いい!
『…』
黙ったー黙ったよ!いや、これは照れているな?照れているな!可愛い!めっちゃ可愛い!
頭の中でずっと、アナウンスを褒めているが表情は無表情だ。目の前の生徒…ケルがため息をつくと、俺の剣を奪おうと触ってきた。
「何をしているんですか?12番」
声をかけてきたのは先ほどの受付をしていたソフランだった。ソフランは大きくため息をつくと、冷徹な目で俺たちを見下ろす。ケルは俺を睨むと剣から手を離し腕を組む
「ここでは貴族の立場は関係ありません。皆平等。冒険者はランクが全てです。次このようなことがあったら、先生に報告します。」
すると、ケルが片方の口角を上げ気に食わなそうな表情でソフランを睨む。まるで虫ケラを見るような目だ。この目見たことあるなーああ!アクィラが俺にする目だ!懐かしいなぁ〜
「農民出が偉そうに…特待生だからって調子に乗りやがって…」
「なんですって…?」
ソフランは先ほどまでの冷徹な態度が嘘のように、感情的に拳を固く握りしめ、歯を食いしばっている。今にも殴りかかりそうな勢いのソフランと、未だそれに気づかず文句を垂れ流すケル。完全に空気なガメツイた顔のガキ…と、俺…
はぁ…
「誠に申し訳ございませんでした。ケル様。この剣は大切な恩師から授かった大事な剣。この剣は私の命そのものです。お譲するわけにはいきません。私の命は私の生まれ育った国の領主であるウェッタ様のもの。」
突然流暢に話し始めた俺に驚いているのか、ケルとソフランは固まって俺を見てくる。俺はガメツイた顔の貴族のガキの元に行くと腰を曲げ頭を下げる。
「申し訳ございません。しかし、それでもこの剣が欲しいというならお渡しします。しかし、それはウェッタ様の持ち物に手をつけることになります。」
「………」
俺は出せる最も低い声で落ちをつける。表情は無表情なら威圧感も出るだろう。頼むぞ「狂言」
腰から剣「星斬り」を抜き、そっと献上するように両手で持つ
「どうぞ、お納め下さい」
「っ!そ、そんなもの要らん!し、しまえ…」
「で、ですが…」
「いいと言っているだろう!早くしまえ!」
一度食い下がってから、諦める。やっぱ、はいそうですか。なんて言って腰にすぐに戻したら感じ悪いよね〜
そっと残念そうな表情を作り、腰に素早く戻す。そのあとは同じような無表情だ。
「ケル様ですよね?噂は私の元まで来ております。先ほどの失礼な態度申し訳ありません。今後はこのようなことはないよう心がけます。その広い心で今回の件お許しいただけないでしょうか」
「あ、ああ!そこまで謝るなら許してやろう…しかし、次はないぞ!」
「はい、しかと胸に焼き付けます。それと、失礼ですが後が詰まっております。前にお進みいただいても…」
「ああ!わかっている!」
意識が完璧にソフランから移ったので、そっとソフランの手を握って最後尾まで下がる。なるべくケルにばれないように。ソフランはおとなしく俺についてくる。
最後尾までくるとソフランの手を離し向き合う。
「さっきは助けていただいてありがとうございます」
「なぜ、身分を明かさないのですか?…おかしいです…」
何か納得していない、そんな表情のソフラン。さっきケルが農民出とか言っていたな…コンプレックスでもあるのか?…まあ、貴族に対していいイメージはないよな。さっきの貴族の態度も悪かったし。
「身分を明かさない理由ですか。…話せば長くなるのですが…簡単にまとめると、私はアヴィオール家と血が繋がっていないんです。」
「それって…」
大きく目を見開き驚いているソフラン。
「あまり話したくないので、これ以上は…」
「……」
黙って口を閉じて固まるソフラン。列が進んだので、俺は前に移動するがソフランは固まったままだ。
何か悪いことをした気分だ…




