11話 国王と魔法使い
女騎士は廊下を走っている。いつもなら亀の歩みのようにゆっくりと俺に衝撃を与えないように歩いてくれるのだが、今は急いでいるようで俺を強く抱きしめながら廊下を全速力だ。
息が切れて、疲れているようだが無理やり酸素を吸い込み、足に無理を言わせ走っている。そして、とある扉につくと、やっと足を止め息を整える。
「はぁはぁ…ゴホンっ!…ローズだ!シリウス!入るぞ!」
女騎士は相手の返答を待たずに、そのまま扉を蹴り開ける。まあ、両手は俺を抱いてるせいで埋まってるからな…
バンっと大きな音と共に扉が開く。女騎士は部屋の奥で椅子に座っていた老人を見つけると、ゆっくりと進んでいく。老人は閉じていた目を片方だけ開け、女騎士を見る。ん?この老人…最初に俺を見つけたやつだ…
女騎士は血だらけな俺を抱いていたせいで、抱いていた腕が真っ赤になっている。女騎士は老人の前まで来ると俺を老人に見せる。やっと老人が両目を開き俺を見つめる。
「その子じゃったか。まだ幼かったが仕方あるまい。」
「いや、この子じゃなかった。モルツが私の部屋で死んでいて、そして部屋に見たこともない魔物がこの子を襲おうとしていて、何とか私が助けたが。…おそらく魔物がモルツを殺したのだろ…」
「魔物…おそらく、その魔物が闇の魔法を使ったのだろう。しかし、ワシの結界をすり抜け屋敷に入るとは…いや、誰かに手引きされたのでは?…ふむ。興味深い…闇魔法を使える者がこの城に居るのか…ワシも魔力の感知が緩くなったものだな!ハハハ。」
老人は独り言をぶつぶつというと、突然笑い始めた。な、なんだ…こいつ
女騎士はため息をつくと、老人を一喝する。
「シリウス!魔力感知などの話は関係ないだろ!今はこの状況を考えろ!」
「そうじゃな。モルツ…ああ、あの若き貴族の。なぜ、主の部屋に居たのじゃ?」
「この子を抱かせてやる話で部屋に招いたのだが…シリウスとの魔法の鍛錬の為モルツにこの子を託して出てきたのだ…」
「何!?主の部屋に一人にしたのか!」
「す、すまない…そして、アレを…モルツはアレを…持っていた…」
「はぁ…主はアレの存在をきちんと理解できるのか?なぜ主の父親は、主に託したのか、疑問じゃな」
「す、すまない…」
「それで、アレはどうしたんだ?まさかそのままなんて事は無いよのぉ?」
「ヒャッ!」
女騎士は俺を、机に置きそのままどこかへ走っていった。どこか…まあ、十中八九自分の部屋だろうな。それにしても、あの紙はかなり重要な物だったのか…[黒い吃驚箱]に入れておけばよかったか?…まあ、いい
老人は俺の首根っこを掴むと俺の目をまじまじと見つめてくる。
「怪我はしておらんようじゃな。うむ、血だけか…ん?まさか…のぉ。」
一瞬眉間にしわが寄ったがすぐに、戻った。なんだこの爺…なんかわかるのか?…
老人と見つめあう事数分、バタバタとした足音と共に再び扉が蹴り開けられ女騎士が入ってきた。その手には血で汚れた茶色い紙が握られていた。老人は俺を机の上に置く。
「はぁはぁ…今私の部屋にこれを置いておくわけにはいかない。そこでシリウスにこれを預かってほしい。」
「まあ、仕方ないのぉ。ホレ、貸してみなさい」
老人は女騎士から紙を受け取ると、再び何か分からない言葉をつぶやく。すると、紙が一瞬で消えた。どうやら、魔法のようだ…かなりすごいな…てか、こいつのスキル欲しいっ!
どうやら俺の思いが伝わったのか、少し怪訝そうな表情を俺に向けるがすぐに目を反らした。
「シリウス…今回の件はどうすればいいと思う…」
「ワシ頼みか…まあ、死人が出ている以上、時間が経っては貴族どもがまた騒ぐだろう。すぐに勇者とウォッカの奴を起こして、兵を出させるのじゃ。その魔物がまだ居るかも知れんだろうし…ワシはこの子を連れて国王に話をしてくる」
「お、お父様にか!?」
「ああ。それしかないじゃろ…これから騒ぎになるのじゃ、一番理解していなければならんじゃろ。さあ、すぐに行け…」
「あ、ああ。わかった…」
女騎士は再び走って、部屋から出ていった。老人は軽くため息をつくと椅子から立ち上がりかけてあった黒いローブを羽織り、その横に立てかけてあった杖を持ちもう片方で俺を抱くとそのまま部屋から出ていった。どこいくねん…
△
老人に連れていかれて、数分が経った。俺を抱いている右手はコートに遮られ辺りが見えない。状況や向かっている処が分からないので怖い…でも、国王に会わせると言っていたし心配はしていないが…
しばらく老人の緩やかな歩みの衝撃が心地よく眠くなってくると、突然衝撃がなくなった。どうやら立ち止まったようだ。しかし、依然と前は見えない…
老人が持っている杖でコンコンと扉をたたく。すると、奥から渋低い声がする
「シリウスか。入れ」
老人は杖で扉のノブを叩くと、ひとりでにノブが回り重々しい扉が勝手に開く。老人は当たり前のように空いた扉を進む。部屋の奥まで来ると俺をコートから出した。やっと、周りが見渡せるようになり辺りを確認する。
大きなベッドに、白く大きな机。フカフカで高そうな絨毯が敷いてある。壁は多くの本が綺麗になれべられている。老人はベッドに向かう。
ベッドには半身を起こした眼光鋭い爺がいた。いや、爺じゃないな…おっさん?
老人は俺をベッドに置くと近くにあった椅子に腰かける。おっさんは、興味深そうに真っ直ぐ俺を見てくる。まるで蛇に睨まれたカエルのように動けずひたすらおっさんの目を見つめた。あまりの迫力に汗が止まらない…
やがて、おっさんは俺を首根っこを掴み寄せてくる
「して、シリウス。こんな時間に何のようじゃ?」
「すまんな。お主の娘の部屋で殺人が起こってな。それだけならまだしも、その死体が[畏怖召喚陣]を持ったまま死んでおってな…」
「そうか…死装束が動き出したか…して、[畏怖召喚陣]は今どこに?」
「ワシが預かっておる。それと、その殺人を犯したのが魔物でな、ローズが何とかしようとしたみたいなのじゃが逃げたそうじゃ。今兵を出して魔物を捜索、討伐の指示をだした」
「魔物か。厄介なものを出してきたな。」
「しかし、死装束の連中が魔物を召喚できるとは思えんのじゃ…魔物召喚は魔族の闇魔法のみじゃぞ?それを人間の組織が魔法陣も使わず、ワシの結界内で使用したなど正直有り得ん。」
「うむ。それはおかしい話じゃな。では、死装束の仕業では無いと?」
「いや、[畏怖召喚陣]を奪おうとした死体は死装束だろうのぉ…」
「では、別の組織の可能性があるという事か…まあ、調べさせよう。」
「そして、そこのガキなのじゃが…何かありそうでな。早急にステータスを調べたいのじゃが」
「わかった。許可を出しておこう。」
「そうか。では、頼んだぞ。国王よ」
老人は椅子から立ち上がると、ベッドの上の俺を掴み上げそのまま部屋から出ていく。国王はまっすぐに俺を見つめてくる。俺も負けじと見つめ続ける。
しかし、嫌な予感的中だな…ステータスの確認が明日か…まあ、スキルは奪ったんだ。何とかなるだろ。
それにしても国王の前では言葉は隠さないんだな。女騎士とは「アレ」って言っていたのに。それにしても[畏怖召喚陣]か…名前がそそるな。もう一つ、死装束だっけか?めんどくさいことにならなければいいけど…
はぁ…




