10話 偽装男と初めての殺人
「ヘルポッケ パルペコ?」
「……」
「ペルコッコ ぺルぺコ!」
「…」
さっきから黒い怪物が一生懸命話しかけてくる。何やら伝えたいことがあるようで手足をバタバタしながら近づいてくる。うーん…怖くはないが…行動がどことなく懐いている犬のようで敵意は感じない
『お答えします。あれは『影の操り人形』です。使用者の影を使って作り出します。形状は使い手が頭の中に浮かべた形状で出現します。意思は使用者がどう「作りたいか」でいくらでも変わりますが、思った通りに作り出す事は難しいですね。しかし、影でできているので実態が無く触ることはできません。意思の疎通は頭の中で話しかければできますし、何なら言葉を喋れるように作れます』
うーん…なんとも使いにくい魔法なのだろ…
俺の考え次第で姿を変えることも、意志を持たせることもできるらしいが…実態が無いのは痛いな。
まあ、意志の疎通が出来るなら使い道はあるな…お!いいこと思いついた…
【大丈夫か?…伝わってるか?】
【はい。伝わっています】
【そうか。】
目の前の怪物が意思の疎通が出来たことが嬉しいのかその場で腕を振り回しながら、喜んでいるようだ。お、おう…。それにしても声が案外やさしいな。男ともとれるし女の声にも思えるな。しかし、こいつは俺の言う事なら何でも聞くのか?
【聞きます】
【そうか…これからよろしくな。】
【はいでは…】
怪物はそっと近くの影に触れるとそのまま吸い込まれて消えた。姿を消すのも楽だな…
やばい…眠くなってきた…これだから赤ん坊の体は…くそ
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ゆさゆさと体がゆっくりと揺らされるので、徐々に眠気が覚めていく。
目をゆっくり開くと、俺は女騎士に抱っこされながら子守唄を歌っていた。
「あー…起こしちゃったね~ごめんね…」
女騎士が本当に申し訳なさそうな表情で謝る。結構可愛いよな…俺がこうして生まれ変わる前の年齢の少し上…20代前半ってところか?この前から、待女や他の人間に対して少し口調が厳しいから立場は結構上なのか?まあ、いいか…
ふと、視線を女騎士から部屋に向けると、何とも言えない幸せそうな表情で俺と女騎士を眺めている男の姿があった。さらさらとした金髪に動きやすそうな服装。安そうに見えないが、高そうにも見えない服だな。だが、イケメン男が来ているせいか少し気品を感じるものがある。
男がそっと、近づいてくる。ゆっくりと指を俺の頬に当てると、余計笑顔になる。
「可愛いですね。ぷにぷにだ!しかし、綺麗な銀髪ですね…しかし、ローズ様の義妹は澄んだ赤髪では?」
「そ、それは…夫の方が銀髪じゃないかっ!それに、先祖返りという可能性もあるだろう?」
何とも鋭い男だ…なかなか侮れん…しかし、この声は『影盗聴』で聞いた声だ。確かスキル[偽装]を持っている男だろう…
しかし、なぜこの男は[偽装]なんてスキルを持っているんだ?…まあ、いい。殺して奪うしか方法はないが、女騎士の前で奪うのは無理があるな…さて、どうしたものか。
俺が考えていると、ふと偽装男が何かを思い出したような表情で女騎士に話しかける。
「そうだ、ローズ様。シリウス様が、お話があるとか言っておりましたが…「あ!魔法の鍛錬の日だった!」
「ろ、ローズ様?…」
「すまない!モルツ君!この子を頼む!」
女騎士は抱いていた俺を男に優しく素早く渡すと鬼気迫る顔で部屋から出ていった。男は唖然とした表情で女騎士を見送った。バタバタ…バタン…と女騎士が出ていき扉が完璧に閉まると、突如男の表情が変わった。
前髪を片手でかき上げると、丸かった目が鋭くなった。一瞬だな…何だこいつ…ものすごい違和感と、先ほどのタイミングのよく女騎士を部屋から出したな…どこか計画的なものを感じる。
すると、男は俺を乱暴にベビーベッドに放り投げると、俺への興味は完全になく、男は部屋にある女騎士のクローゼットをあさり始めた。しかし、ばら撒くのではなくもとに戻せるようにズラして何かを探している。
男は独り言を繰り返す…
「ない…ない…ない…チクショ…どこだ!!時間が無いんだ…」
何を探してるんだ?女騎士から何を奪おうとしてるんだ?
男は調べた棚を戻している。証拠を隠すように…こいつ、動きに無駄がない。おそらくだが、いいことでは決してないだろう
よし!殺そう…盗みを働く男なんだし、殺して奪えば俺も女騎士もハッピーじゃん?
男の様子を観察していると、最後に俺のベビーベッドの下の棚の捜索に移った。
「あった!よし…これで…」
「おぎゃーおぎゃー!」
男が目的のものを見つけたようで、そのタイミングと同時に俺は初めて赤ん坊らしく泣いてみた。やべ、棒読み過ぎたか?怪しまれなければいいが…と、思ったが、男は焦ったように俺を抱きかかえると乱暴にあやす。痛い痛い…
「くっそ…ほらほら!頼むから黙ってくれ!頼むって!」
「おぎゃー!おぎゃー!」
男はかなり焦っているようで、汗が止まらないようだ。俺を抱える腕からも蒸れた熱が伝わってくる。気持ち悪いな…よし…では…
「…(闇刃)」
俺を黒い何かが俺を包む。男も驚いたようで、落とさないが戸惑っているようだ。
「なっ!なんなんだ!…こ、このガキっ!」
スパっ…という音が鳴ると、男は何も言わなくなった。男は俺を睨むので、俺は満面の笑みを見せる。子供にしては気持ちが悪いか?…しかし、笑ってしまうのだから仕方ないだろ?
ゆっくりと男の体が力なく倒れていく。俺は男の体に落ちたおかげで衝撃はあまりなかったが、俺が落ちた衝撃で男の体が縦に分かれた。真っ二つだ…てか、結構強かったんだな…
俺は男の体に触れる。すると、男の胸の辺りから小さな光が現れる。しかし、デュークと比べるととても小さい光だ。俺はそっと光を握ると、頭の中に声が響く。いつもの無機質な女の声だ。
『《魂記録》を吸収しました。《魂記録》からスキルを吸収しました』
そうやら、奪えたようだ。よっこらせっ!よっこらせ…
男の死体から頑張って這い出るが、男の血で俺の体は真っ赤に染まる。そういえば男が盗んだ物ってなんなんだ?
ふと、男の腕を見ると何かの紙を持っていた。俺がその紙を見ようと腕に向かうが、バタバタと足音が聞こえてくる。や、やばいな…こうなったら…
「おぎゃー!おぎゃー!」
俺が泣けば、泣くほど足音がドンドン大きく早くなってくる。バンっ!と大きな音を立てて扉が蹴り開けられ、女騎士が入ってきた。それと同時に俺は『影の操り人形』を作り出す。
すると、先ほどと同じ怪物が影から生まれた。怪物は嬉しそうに俺に近づいてくる。女騎士は目の前で俺に近づく怪物を見ると、顔色を変え俺に覆いかぶさり、そのまま体中を床にぶつけ転がりながら俺を助けてくれた…ありがたいけど…
女騎士は怪物を警戒しながら距離を取る。俺はその間に頭の中で怪物と会話をする。
【聞こえるか!】
【はい!】
【すまんが、言う事を聞いてくれ!すぐに壁をすり抜けて逃げろ。すり抜けたらそのまま消えてくれ!】
【はい!】
「貴様!何者だ!…」
女騎士は俺をそっと壁側に降ろすと腰から剣を抜き、俺を守るように怪物に剣を構えるが怪物は俺の言う通りゆっくりと壁に向かって行く。女騎士は進行を止めようと斬りかかるが実態がないためただ空振るだけだ。怪物はそのまま壁を通り抜けていった。女騎士は数分警戒したが怪物が戻ってこないことを確認すると剣を仕舞い俺を抱きかかえたまま、倒れている男のもとに向かう。
「こ、これは…なぜ…モルツが…っ!」
女騎士は状況が読めていないようだが、男の腕にもつ紙を見て表情を変えた。
そして、俺を抱いたままどこかへ歩いていく。なんでだろ…なんかやばい気がする…




