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忘れていたもの

作者: WAIai
掲載日:2026/08/17

ー誰か1人でいいから、誰か。

いつもいつも、そう思ってきた。

自分は何者なのか、自分を大切にしてくれる人は誰か。いつも疑問だらけだった。

もちろん答えをくれる人はおらず。そのうち家をあけるようになった。

冷たくて、寒い家。

人の温もりなんて全くない家。

子どもの頃から一人ぼっちで、すでに冷めていた。

ー早く大人にならないかな。

そうすれば、周りの大人に喧嘩を売れるのに。

俺はここにいるぞって、主張できるのに。

聞く耳すらもたず、誰も、いや、全員、逃げていたのかもしれない。

ー逃げるくらいなら、子どもなんか作るな、バーカ。

まるで宇宙人と暮らしているような、そんな妙な感覚。

ずっと、すっと1人で部屋にいて、ベッドに横たわる。

部屋にはものが少なかった。

親にねだったことがないのもそうだが、いつ自分がいなくってもいいように、部屋は静かな檻だった。

「ー外へ行こう」

そう決めると、肌寒いのでジャンパーを着、外へ出て行く。

ポケットに手を突っ込み、どこに行く当てもなく、ふらつく。

鈴のついた猫を見かけ、「お前のほうが幸せそうだ」と呟く。

帰る場所があるのはいいけとだ。

帰る場所がないことは、淋しいことだ。

子どもの頃からそう思ってきたので、諦めていた、色んなものを。

お金がないわけではないが、テーブルの上に置かれた冷めたお金。

愛情ではなく、義務からのお金。

死んでもらったら困るから、置かれているお金。

「…そんなに、早く死んで欲しいのかよ」

独りごちると、ぽつりと冷たいものが当たった。

自分の涙かと思ったが、そんなものはとっくに乾いている。

小さい頃から泣いて、泣いて、そしてやめた。

誰も悲鳴に気づいてくれない、誰も暖かい手なんか差し出してくれない。

「ーさて、どうするか」

ヤンキーの仲間と雨宿りを求めて、カラオケがどこかに行こうとするのだが、何となく、そんな気分でもなかった。

雨が優しく降る中、誰を庇うでもなく、普通に歩いて行く。

空を見上げれば、自分の心のように、灰色と黒色の混じった雲が、空を占領しようとしている。

俺も飲まれるかもしれないから、何か悪さをしようと考えたが、警察に捕まるのは面倒くさいので、足を止める。

ふうと息を吐き出すと、雨はひどくなり、俺を殺そうとしているように、攻撃してくる。

馬鹿げた妄想に、「はっ」と笑うと、髪をかき上げる。

するとその時、

「お兄ちゃん、はい」

雨具を着た子どもがやって来て、傘を差し出してくる。

「え」と戸惑うと、後ろに母親がいるようで、頭を下げてくる。

年は20代くらいだろうか。

少しふっくらした女性で、綺麗というよりも可愛い感じだった。

「ーあの、良かったらどうぞ」

「え…、でも」

「いいから。風邪をひかないように」

「お兄ちゃん、めっ!! お母さんの言う通りにするの」

少女は大人ぶって指を立てると、傘を渡してくる。

自然と受け取ってしまい、ほんのりと暖かいのに気づく。

ー何だ、これ。何で暖かいんだ?

意味が分からず、傘を持ったままでいると、少女がそれを奪い、広げてくれる。

「はい!! もう濡れなくていいから、寒くないよ」

「寒い…?」

そんな感覚はなく、不思議な状態だった。

何故、傘をさしただけだけで、暖かく感じるのか。

何故、親子を見るとほっとするのか。

自分でも涙を流しているわけが分からなかった。

「傘は返さなくていいよ。じゃあね」

少女が手を振って行ってしまう。

途中、母親が振り返り、一度だけ頭を下げると、子どもと跳ねるように歩いて行く。

歌を歌っているようだった。

ーあれが…親子か。

自分にはないもの、本当は自分に必要なもの、それが何なのか分かった気がした。

しかし大きくなった俺を構ってくれる人間なんか、周りにはいない。

「いないと思っていたんだけどな…」

訂正し、見知らぬ他人の温もりを感じるなんて、思いもしなかった。

特別なことではなく、ただ傘を借りただけなのに、何で心がこんなにも潤ってくるのか。

自分でも止められず、涙が溶けて水になったかのようだった。

「雨、雨、ふれふれ、母さんが…」

1人で歌い出すと、傘をくるくると回す。

自分を中心に世界が回っているような気がして、目に冷たいものが当たる。

ー人間、色んなのがいるんだな。

そう思うと、今、1番会いたい人ー恋人に電話する。

「もしもし? うちに行ってもいい?」

許可が出たので、俺は軽くスキップしてみたり、小走りしてみたりと、子どもの心に戻ったかのように、遊びながら、行くのだった。




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