3-9話:信頼
戦場は、もはや一つの生命体のように蠢いていた。鉄の匂いと魔物の腐臭が混じり合う中、レオの瞳は戦況を冷徹に、かつ熱く捉えていた。
「アリーシャ! ジークとライラと共に、ここの防衛をお願いします! あとはジークの指示に従って!」
レオが叫ぶと、アリーシャは白銀の盾を構え直し、凛とした声で応えた。
「はい! わかりました! 命に代えても全力を尽くします!」
続けて、レオは後方から追いついたセレスへと視線を向ける。
「セレスさん! 僕と一緒に、まだ助けられる人たちを救いましょう!」
ジークが槍で迫りくる魔物を一刀両断にしながら、ニヤリと笑って横槍を入れた。
「いいぜ、その方が邪魔なヤツがいなくなって、俺たちも心置きなく暴れられる。……行ってこい!」
「わかったわ、レオ君。援護をお願いね!」
セレスが聖杖を握りしめる。レオは頷くと、錬金銃『ツイン・レゾナンス』に特別な弾丸を装填した。
「皆さん、行きますよ……! 『フルドーピング・バレット』!!」
放たれた弾丸は空中で霧散し、味方全員を包み込むような光の粒子へと変わった。アクセル(速度)、ブースト(攻撃)、ガード(防御)――レオがこれまでの経験を注ぎ込んで開発した、全ステータス上昇の混合強化弾だ。
「おいおい、また新しいヤバいのを作りやがったのか!」
身体中に溢れる力に、ジークが驚愕の声を上げる。
「もうこの際ですから、イメージ付くものを片っ端から形にしてみました! 素材も前回の大規模戦闘でたっぷり回収できましたから!」
レオが不敵に笑う。その姿には、かつての頼りなさは微塵もなかった。
「よし、いくぜ! 野郎ども、死ぬんじゃねぇぞ!!」
ジークの咆哮を合図に、強化されたアリーシャとライラが続く。三人の「Sランク級」の突進は、まるで荒れ狂う嵐のように魔物の群れを粉砕していった。
「僕らも行きましょう!」
レオはセレスと共に、倒れ伏した兵士たちの間を縫うように走る。息のある者を見つけてはセレスが癒やし、レオが退路を確保して砦内へ避難するよう指示を飛ばす。
だが、地獄の戦場は彼らを簡単には逃がさない。
「ウガアァァァッ!!」
咆哮と共に、五体の巨躯を誇るオークがレオたちを獲物と定め、猛然と襲いかかってきた。セレスは今まさに重傷を負った兵士の治療中で、一歩も動くことができない。
「レオ! セレス! オークがそっちに行ったぞ!!」
遠くでオーガの群れと交戦中のジークが叫ぶが、彼らもまた敵の厚い壁に阻まれ、すぐには駆けつけられない距離だ。
「マスター!!」
オークの棍棒が届きそうな距離まで迫るのを見て、アリーシャが悲鳴に近い声を上げる。
しかし、レオは動かない。 ツイン・レゾナンスを構えたまま、まるで石像のように静止し、オークの足音だけを数えていた。
(まだだ……もう少し。極限まで引き付けて……一網打尽にする……!)
心臓の鼓動が耳元で大きく鳴る。オークの醜悪な顔の皺まで見えるほどの至近距離。 振り上げられる五本の棍棒が、レオとセレスの頭上を覆い尽くそうとしたその瞬間――。
「今だ……! 『グラビティ・アンカー』!!」
レオの引き鉄が引かれた。 着弾した地面から黒紫色の重力波動が爆発的に広がる。次の瞬間、五体のオークは目に見えない巨大な不可視の手に押し潰されたかのように、地面へと叩きつけられた。
「グガッ!? ガアァッ……!」
骨の砕ける音が響き、オークたちは地面に「張り付け」の状態となり、指一本動かすことができない。そこへ――。
「――『ラピッドシャワー』!!」
空を切り裂く黄金の雨。 城壁の上から放たれた無数の魔矢が、身動きの取れないオークたちの急所を正確無比に射抜いていく。断末魔を上げる暇もなく、五体のオークは物言わぬ肉塊へと変わった。
レオが振り返り、城壁の上を見上げる。 そこには、弓を構えたまま白い歯を見せて笑い、親指を立てているカイトの姿があった。
「援護はまかせな! いいタイミングだったぜ、レオ!」
得意げに叫ぶカイトに、レオもまた力強く親指を立てて応えた。
絶望の戦場に、確かな「信頼」の鎖が繋がっていく。 レオたちの反撃は、まだ始まったばかりだ。
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