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2-49話:理を越える才能

 焚き火の爆ぜる音が、夜の静寂の中に規則正しく響いている。 火の粉を見つめていたミレイユが、ふと思いついたように、しかしどこかもじもじとした様子で口を開いた。


「あの、レオさん、アリーシャさん……。お二人はどうして、旅をしようと思ったのですか?」

 

その問いに、レオは少し照れくさそうに頭を掻いた。


「旅、か。最初から冒険者を目指してたわけじゃないんだ。もともとは討伐依頼で王都からアルカナに来ていて、それが終わって……今は、なんていうか色んなことが重なって、こうして旅みたいな形になってるんだけど」


 レオは隠し事をするのが苦手だった。彼はミレイユという「仲間」を信頼し、自分の出自――かつて「無能」と蔑まれたこと、武器すら持てない劣等職だと判定されたこと、そして今手にしている錬金銃のことまで、包み隠さず全てを話した。


「そ、そうだったんですね……。なんだか、変なことを聞いてしまってごめんなさい」


 ミレイユは申し訳なさそうに肩をすくめた。自分も「落ちこぼれ」として扱われていたが、目の前の優しい少年がそれ以上に過酷なレッテルを貼られていたことに、胸が痛んだのだ。


「いいんだよ。一緒に旅をするんだし、どこかできちんと話さなきゃと思っていたからさ」


 レオが爽やかに笑うと、横で聞いていたアリーシャが、以前から気になっていた疑問を口にした。


「それにしても、マスター。以前から見ていて不思議だったのですが……マスターが錬成するあの『魔導弾』、どのような種類でも作れるのですか? 戦闘中に瞬時に新しい弾を生み出す姿は、騎士の目から見ても驚異的です」

「うーん……。エイトリでネネリに武器を作ってもらってる時も、夢中で弾を錬成したんだけどさ。後で気づいたんだ……ある程度の種類なら、素材を必要としないんだよね。魔力を込めて、完成形を強くイメージするだけで、『形』になるっていうか」

 

 その言葉に、ミレイユが「えっ」と声を上げ、身を乗り出した。


「それって、とんでもないことじゃないですか!?」

「え、そうなの?」

「そうです! 私も専門は魔導研究ですが、錬金術師や鍛冶師といった『生産系』の職業は、等価交換……つまり、材料となる素材が絶対に必要なはずです。なのに、レオさんは魔力とイメージだけで物質を作り上げている。それはもう、世界の理を無視しているというか……とても『劣等職』なんて呼べるレベルじゃありません。凄まじい潜在能力を秘めているとしか!」


 ミレイユの口調が、いつになく早口になる。研究員のスイッチが入ったのか、普段の気弱な少女とは別人のように、知識を淡々と、かつ熱烈に語り始めた。レオは(ミレイユって、こういう話になると食いついてくるんだな……)と感心しながらも、少し圧倒されていた。


「確かに。言われてみれば、マスターは『ディメンション・ドロウ』も『錬成』も、スキルの固有名を叫ばずに発動されていますよね?」

 

 アリーシャの言葉に、レオは「ん? こんな感じ?」と、無造作に空間から弾丸を取り出してみせた。


「す、すごすぎます……!」


  ミレイユが椅子から落ちんばかりに驚く。


「え? 普通じゃないの?」

「普通ではありません! 私たちだってスキルを使う時は『シールドバッシュ』や『ジャッジメントクライム』と口に出します。そうすることで自分に発動を自覚させ、魔力をその術式に固定するんです。言わば、自らへの暗示のようなものですね」


  アリーシャの説明に、ミレイユも激しく頷く。


「魔法も同じです! 私がさっき使った『エアカッター』や、『ファイアボール』とかも、名前を呼称しないと発動は極めて難しいです。上位魔法になれば、さらに長い詠唱で魔力を練り上げる前準備が必要になるのに……」

「……全然知らなかった。これって、そんなにすごいことだったんだね」


  レオは自分の掌を見つめ、柄にもなく少しだけ誇らしい気持ちになった。自分が「当たり前」だと思っていたことが、実は特別な力だった。それは「無能」と呼ばれ続けた彼にとって、何よりの救いだった。


「あ……そうだ。これを見て」


 レオはふと思い出し、自分のバッグから一冊の古びた本を取り出した。亡き母の形見である、錬金術の魔導書だ。焚き火の光の下で、二人に中が見えるように本を開き、錬成のページを指差した。

 そこには、驚くべき記述があった。


『術者本人の霊格レベルおよび技術力が対象を超越する場合、物質的代価(素材)を必要とせず、エーテルによる直接構成を可能とする』


 つまり、作るアイテムのランクが術者のレベル以下であれば、素材なしで「無」から「有」を生み出せるというのだ。


「すごい! すごすぎます、この記述! というか、なんでレオさんはこんな国宝級の本を持っているんですか!?」


興奮が絶頂に達したミレイユが、レオの顔のすぐ近くまで迫る。


「ち、近い! ミレイユ、近いよ!」

「……近すぎますっ!」


 慌てて後ろにのけぞるレオと、反射的にミレイユの肩を掴んで引き剥がすアリーシャの声が重なった。      アリーシャは「あ……」と、無意識に独占欲(?)を滲ませてしまった自分に気づき、頬を朱に染めた。


「これは、死んだ母さんの形見なんだ。なんで母さんがこれを持ってたのかは分からないけど……あの日から、僕が一番大事にしている本なんだよ」


 ミレイユは少し冷静さを取り戻し、敬意を込めて本を見つめた。


「……もしよければ、今度じっくり見させてもらってもいいですか? その、研究者として……」

「ああ、もちろん。ミレイユなら歓迎だよ」

 

 研究魂に火がつき、キラキラと目を輝かせるミレイユ。その様子を横目で見ていたアリーシャは、コホン、とわざとらしく大きな咳払いをした。


「……そろそろ夜も更けてきました。明日の移動もありますし、今日のお話はこのあたりにして休みましょうか、マスター?」

「お、おう、そうだね。じゃあ、各自テントに入ろうか」


 アリーシャに促され、レオとミレイユはそれぞれのテントへと向かった。 アリーシャは夜風に吹かれながら、内心でホッと胸をなでおろしていた。ミレイユの研究熱心さは頼もしいが、レオとの距離感が近すぎるのは、どうにも心臓に悪い。


(マスターは無自覚すぎます……。ですが、あの本の秘密。そしてマスターの力……。この旅は、思っていたよりもずっと大きな意味を持つことになりそうですね)


 アリーシャは最後に一度、夜空の月を見上げ、静かにテントの幕を閉じた。焚き火の残り火が三人の心を温かく包んでいた。


読んでいただきありがとうございます。次話も読んでいただけると嬉しいです。

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