プロローグ:折れた剣と、父の教え
結構前から設定をしていまして、そろそろ書いても大丈夫かな?と思いぼちぼち書いてます。よければ読んでいただけたら嬉しいです!
ヴァレンタイン辺境伯領の春は、冷たい風が吹く。 名門武家として知られるこの家では、十歳を迎える子供は「信託の儀」を受け、その才能を証明しなければならない。
「……【アルケミスト(錬金術師)】。戦闘能力、皆無。適性、なし」
儀式を執り行った神官の冷ややかな声が、広間に響いた。 その瞬間、参列していた親族たちから失笑が漏れる。
「錬金術師だと? ヴァレンタインの血も汚れたものだな。剣も魔法も使えぬ『劣等職』か」 「さすがは側室の子だ。期待するだけ時間の無駄だったな」
正妻エレオノーラの冷酷な嘲笑。その隣で、既に「騎士」と「魔法使い」の信託を受け、将来を嘱望されている二人の兄、ジークハルトとアルフォンスが、汚物を見るような目で僕を見下ろしていた。
僕は震える拳を握りしめ、ただ一人、玉座に座る父・ギルバートを見上げた。 父は無表情のまま、低く、重い声で告げた。
「……レオ。明日から、裏山の修練場へ来い。稽古をつける」
それが、僕に許された唯一の「情け」だった。
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それから毎日、夜明け前に起きては、僕は父と向かい合った。 「騎士の信託」を得られなかった僕の腕は細く、ヴァレンタイン家に伝わる重い鋼鉄の剣を振るうたびに、手首が悲鳴を上げた。
「足の踏み込みが甘い。手首の返しは最小限に。無駄な動きを削ぎ落とせ」
父は一切の容赦がなかった。 兄たちが受けている華やかな「奥義」の伝授とは程遠い、基礎中の基礎。ひたすら木刀を振り、型を繰り返すだけの日々。
「お父様……僕は、剣の才能がないのに、どうしてこれを……っ」
泥まみれになり、息を切らして問いかけた僕に、父は視線を逸らしたまま答えた。
「……才能など関係ない。この『型』を体に刻め。いつか、お前が自分だけの戦い方を見つけた時、その手首の返しが、踏み込みの一歩が、お前の命を救うことになる」
その言葉の真意を、当時の僕は理解できなかった。 ただ、正妻たちの嫌がらせを避けるようにして行われるこの二人きりの稽古だけが、僕にとって父との唯一の繋がりだった。
そんなある夜。 僕は、亡き母セレナが遺した唯一の形見である、小さな古文書を開いた。 そこには、今の時代では廃れてしまった「魔導具と錬金術の融合」についての記述があった。
『物質を再構築し、理を調律する。それは死者を蘇らせる術ではない。今、目の前にある命を、最大限に輝かせるための術である』
ページをめくる指が止まる。 頭の中に、父から教わった「手首の返し」と、この書物に記された「機構」が、火花を散らすように結びついた。
剣が振れないのなら、剣の速さを超えるものを、僕の手で造ればいい。 父の教えてくれた「型」を、錬金術という力で爆発させるための「器」を。
僕は、月明かりの下で図面を引き始めた。 まだ誰も見たことのない、六つの命を装填する「銃」という名の魔導具。
「……見ていて、お父様。僕は、僕のやり方で、ヴァレンタインの戦律を支配してみせる」
これが、後に「最速のリロード」と呼ばれる伝説の始まりだとは、まだ誰も知らなかった。




