3-5.反旗
マーラはスラーレンを出てワリキュールの大使館に着いた。既に陽は落ちていた。
同行してきたソドルが、ハユナとエランデルから戻ってきたマユナから今まで得た情報を聞いた。
「なに、ワリキュールを監視する者がいる?」
ソドルはマーラに
「こっちに潜入させていた者の情報があります」
と言うと
「今日は長旅で疲れたわ。話は明日聞くことにする」
とマーラは答えた。
そしてマーラは翌朝、怒りをぶちまけた。
「何をしてくれて居るのよ!」
ハユナからワリキュールを監視する者と闘ったことを聞いたマーラは激高した。
「ワリキュールでの潜入捜査は許可したけど、怪しい者を相手にするなんて、計画を潰す行為でしょう!」
マーラはソドルを叱責した。
「その者がワリキュールの国王側の見張りなら、ワリキュールの国王に取入ることが出来なくなるわ」
マーラは膝の力が抜けるようにテーブルに手をついて体を支えた。
「こちら側の動向を知られないうちに倒してしまおうと考えたので」
ハユナの考えに
「反対よ。何もしないほうが良かったのよ。こっちに敵意があることを教えることになるでしょう?たとえ、その者を倒して口封じしたとしても。・・しかも一人じゃなかったんでしょう?大使館まで設けた意味がないわ。それに宮殿に飛んできた飛行船を奪おうなどと軽率なこともして」
マーラはこらえていた怒りをソドルにぶつけた。
「返す言葉はありません」
「エランデルの情報は? 掴んできたんでしょうね」
「それが・・エランデルでもハーロック伯爵さえ知る者はいませんでした」
とマユナが答えた。
「ワリキュールでもエランデルでもハーロックの情報が得られないなんて・・なにしているのよ!」
マーラは怒鳴った後
「ハーロックは魔王でもなく、魔術師でもなく、ほんとうに只の伯爵かも知れないわね」
と椅子にへたるように座った。
「・・で、どうします?」
ソドルもマーラの思いを理解出来なかったことを反省した。
「もうひとつの計画を実行する。ぼやぼやしているとハーロックに知れてしまうわ。そうなればスラーレン奪還は不可能になる」
「しかしマユナの調査によれば、ハーロックはエランデルでも知る者はいないとのこと。ハンス伯爵の言ったエランデル国の伯爵というものまやかしかも」
「それはハーロックが市井に身を隠しているからよ。ハーロックはこのワリキュールのどこかに居るはず。ブランド家に集めてもらっている革命軍はどのくらい集まっているかしら」
「こちらに来る前に確認したところ、既に1000名は確保したとか、その中には魔術師もいます」
「直ぐにスラーレンに戻るわよ。そして王宮を奪還するわよ」
「予定は10000名だったはず」
「計画ではね。でも、そんな余裕は無くなるわ。戻って第二の計画を実行する」
◇
スラーレン法国では。
リンメイは貴族街に潜入し、数箇所で集会が行われているのを知った。
「王家奪還に協力する者は仕度せよ。みんなで押し寄せれば魔王も怖くない」
リンメイはとぼけて
「何の集まり?」
と聞いた。
「宮殿から魔王である国王を追い出してスラーレン王家を復活させるんだ。ドルイン様が決起したのよ」
「ブランド家の?」
スラーレン御三家のひとつ、ブランド家のドルインが決起したとの情報はリンメイを驚かせた。
オルコックが決起して、マーラが裏で動くというならわかるが、ブランド家はスラーレン御三家の末弟。王家の奪還は難しい。
リンメイは真意を確かめるためにブランド家の館に潜入した。
「ドルイン殿、マーラ嬢の使いが急ぎ戻って来て、宮殿の奇襲攻撃の準備をとの事です」
「第一の計画は諦めたか。私もそんなまだるっこしい計画は、もともと反対だったがな。シルビアも結局失敗している。直ぐに第二計画の準備に入ろう」
ドルインは館に武装した貴族を集めさせ、戦でもするかのように準備をはじめた。
「第二計画って・・」
リンメイは数か所で集会を持ったのは計画のための兵を集めることだと推察した。そして、その目的はヒュンケルの居る宮殿を襲うこと。
ドルインはマーラと手を組んで王家奪還を計画したようだった。
リンメイはドルインの計画を確認し、ヒュンケルに知らせようとドルインの館を出た。しかし
「潜入者か。ヒュンケル側だとすると魔族か」
と見つかった。
リンメイは倒すか逃げるか迷った。
「ここで倒しているうちに、新たな追っ手が来たら・・」
リンメイは情報を掴んだこともあり、逃げることにした。だが・・。
行く手を結界で閉ざされた。
「上位魔術師?」
「逃がさない」
追っ手がリンメイに追いついたところで
「エレキットパワー(電撃)」
を追っ手に放った。
追っ手がひるんだ隙にリンメイは逃げ延びようとした。だがもう一人の追っ手も現われた。
追っ手の速さはリンメイに引けを取らない。しかし負けるわけにはいかない。宮殿に向かって逃げた。
「マジックショッカー」
追っ手が逃がすまいと魔法攻撃を放ってくる。足を撃たれてリンメイは倒れこんだ。
「大人しく捕縛されれば命はとらないわ」
「ドルインもしくはソドルに仕える魔術師?」
リンメイは追っ手に聞いた。
「魔族ではないようね。誰の手先かしら?」
追っ手がリンメイを捕まえようとしたところに
「そうはさせないわ」
シズが現われた。
「インパクトバレット」
シズは追っ手に衝撃弾を浴びせて倒した。
リンメイに攻撃されて後からやってきた追っ手にも「エレキングショッカー」を浴びせて倒した。
リンメイは唖然とした。
「私もヒュンケル様に仕える魔族。このくらいは容易よ。怪我したようね。ごめんなさい、治癒魔法は使えないの」
シズはそう言うとリンメイを起こして
「テレポーション」
宮殿に転移した。
そこにヒュンケルも待っていた。
「怪我をしたのか。大丈夫か?」
ヒュンケルがリンメイを心配して声をかけてくれた。
「リンメイに万が一のことがあったらハーロックに申し訳ない」
「大したことはありません。私のミスですから・・」
リンメイはそう答えて攻撃をうけた足をさすった。そして
「彼女も魔法を?・・」
リンメイはシズが魔法を使って助けてくれたので驚いていた。
「シズは魔族だが、少々魔法も使える」
ヒュンケルが教えてくれた。
「ありがとう。転移も出来るんだ」
「遠くは使えませんよ」
シズは笑顔でこたえた。
リンメイは
「貴族たちがここに奇襲攻撃をかけてきます」
とヒュンケルに言った。
「多くの者を集めています。その中には魔術師も居ます」
「遂に決起したのか。人族との争いは避けたかった。・・だが、向こうから仕掛けて来る以上、避けられないか。シズ、応戦準備」
ヒュンケルがシズに言うと
「人族を生かして追い返すのは不可能かと思います」
とシズがこたえた。
「仕方ないだろう。我々がここを引き払うか、押しかけてくる者を殺すしかない」
ヒュンケルたち魔王軍とスラーレン貴族たち反乱軍の攻防の幕が切って落とされようとしていた。




