3-4.ヒュンケル
リンメイはヒュンケルに
「部屋は宮殿内に用意させるが、もし街中がいいなら、ハーロックが使っている家を使ってもいい。衛兵隊だったミリアの家だ。彼女はハーロックがスラーレンに来たときに知り合ったらしい。その彼女はハーロックの館に行ったが、今はエドワールというところで衛兵をしていると聞いて居る」
と言われた。
リンメイはスラーレン法国で衛兵隊に所属していたミリアとユリカが雅則たちの館に来て、今はエドワールに移ったことを聞いていた。
「ハーロック様が誰とでも仲良くなってしまうのを不思議に思っているんですけど。・・では、その家を借りていいですか?」
「いいとも。そこに転移して連れていってやろう」
ヒュンケルが魔法陣を出した。すると周りの景色が変わった。そこは宮殿の中ではなく、ある家の前だった。
「これが転移魔法?」
リンメイははじめて転移魔法を体感した。
「ここがミリアの家だ。今は誰も住んでいない。衛兵隊には客が住むからと伝えておくから」
宮殿に戻ろうとするヒュンケルに
「ヒュンケル国王は本当に魔王なんですか?」
とリンメイは引き止めて聞いた。
「そうだ。それまでは近くのロワール城に住んでいた」
「ハーロック様はワリキュールで魔王を名乗ってますが、異世界からの転移者だと明かしてくれました。どうして魔王のヒュンケル国王と仲がいいんですか?」
「それにはいきさつがあってね。ハーロックからスラーレンの国王に推薦されたが、正直そんな考えは毛頭無かった。正体を明かせば私も異世界から転移してきた者なんだ」
「え?・・」
「自分でも驚いているが、ロワール城に魔王ヒュンケルとして転移してきた。そしてスラーレン法国にやってきた雅則と出会った」
ヒュンケルが雅則との出会いから話してくれた。
「ハーロックもはじめはプロティナを助けて、そのまま女王で居させたが、マルケドーラ帝国が進攻してきて、穏健派のプロティナでは帝国に国を奪われるところだった。そこでハーロックと私で帝国を潰し、私が国王を務めることになった」
「そうだったんですか」
ヒュンケルは続けてプロティナについても話してくれた。
「スラーレン御三家の長女、プロティナは父である国王が亡くなった後、大神官アスターの後押しもあって女王に就いたが、それに不満を持つ者は多かったようだ。妹のシルビアや弟のマクレスはワリキュールに乗り込んでハーロックに倒された。おばのマーガレットにも裏切られ、天涯孤独になった。今は第3の塔で過ごしている」
「そうだったんですか。私は王家の事情を知らずに、父がシャドーコープスの一員だったので、父が亡くなったあと、シルビアに拾ってもらい今に至っています」
「なるほど。それで今はハーロックのもとにいるわけだ」
「恥ずかしい話です。迷惑をかけたにも関わらず、ハーロック様は私を何度も助けてくれました。父がシャドーコープスの一員だったことが・・」
「シャドーコープスは、もともと前の国王が護衛と情報集めに作った組織らしい。だがプロティナが女王になったことで活躍の場を失い、マーガレット側についたらしい」
「そして私は、プロティナ様を玉座から下ろすための道具にされました」
「リンメイも苦労してきたようだな。ハーロックはそれを察してリンメイを助けたのだろう」
「私がスラーレンに戻ってきたのは、マーラに仕えるソドルが父の仇なのではと思って探りに来ました」
「そうだったか。ハーロックはマーラが何かを企んでると思っている。それと私はリンメイの身を守ってくれるように言われているが、私は貴族たちから疎まれ、自由に動けない。リンメイのほうから遠慮なく頼ってほしい」
「はい」
◇
リンメイはミリアの家で心を落ち着かせた。天涯孤独になったリンメイはスラーレンに戻ることは考えていなかった。冒険者として新しい生き方をはじめてから、魔獣に襲われ重症を負い、雅則に助けられた。そして父の仇であるソドルの名を耳にしてスラーレン法国に戻ってきた。
雅則もヒュンケルも力になってくれる。雅則に出会えたことで、人生の転機を迎えたような気分だった。
ソドルも確認しなければならないが、マーラの動きも気になる。マーラは父も親しかったオルコック・アレイン・スラーレンの娘。15歳の成人になったばかり。
本来、国王になるはずだったオルコックに代わり、エクレール家のプロティナが女王として玉座に座った。マーラはそれも不満に思っているのだろう。何かを計画しているようだった。
◇
リンメイはオルコックを訪ねた。幼い頃から懇意にしている人物だ。
「リンメイか。どうしたかと思っていた。元気だったか」
「はい」
「また誰かに仕えているか?」
「いえ今は誰にも。スラーレンからも離れていました。・・マーラお嬢様は? 確か成人になる歳かと・・」
「うむ。成人になって張り切ってワリキュール国への親善大使を務めた。今はワリキュールに大使館を設けさせ、そこに行っている。私が不甲斐ないぶん、マーラが何とかしてくれようとしている」
「そうですか」
「だが気がかりなのだ。マーラは私に相談なしに事を進めている。リンメイ、もしマーラが何かをしようとしているなら、その情報を私に教えて欲しい。マーラを政に携わらせるつもりはないのだが、本人はやる気で困っているのだ」
「・・はい。失礼します」
リンメイはマーラが父親の不甲斐なさに不満を抱いているのだろうと思った。
オルコックは穏健な人柄で、父とも親交があった。リンメイも可愛がってもらったこともある。だが、人の上に立つには何かが欠けているような気もしないでもなかった。




