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君の事なんて  作者:
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曲がった思い

「ねぇ、今日も泊まらないの?」


 私はシャワーを浴びたその人にそう聞いた。

 その一言が最近は当たり前の言葉になっていた。

 その言葉に対して返ってくる言葉もいつも決まっていた……。


「うん。 最近、嫁がピリピリしててさ……、だからやめとくわ……」



 ほらね……。



 でも、だからってすがったりはしない。

 私もどっちでもいいから。

 そう聞くのが義務みたいな……何となくそういつも聞いてるだけ。


 仕事帰りのその人はサラッと汗を流し、決まって私にくっついて甘えてくる。


 それが【合図】だった。




「ちょっと……重いーー。 これ、やらせてよーー」


 食器を洗ってる最中の私を後ろから抱きしめた。

 首筋に顔を絡ませ強引にキスを迫ろうとする。

 途中になるのは嫌だった。

 【終わった後】、またキッチンに戻って食器を洗うのは現実に戻される気がして何だか嫌なのだ……。



「それ、後でもいいでしょ……? ほら……」


 ふわっと抱き抱えられベッドまで連れてこられた。

 またいつもの様に始まるんだ……。


 こんな関係が五年も続いている。

 いい訳ない……。

 私もわかっている。

 けれど、この人が私を求めて来る時だけ、自分は必要とされている感覚になれるのだ。


 相手を嫌いな訳ではない。

 五年も関係が続いていれば情も出てくるし、求めてくれる気持ちも嬉しい。

 ただ、そこに恋愛の好きという気持ちがあるかと言えばそれはなかった……。


 不倫……だけど、セフレ寄りの不倫……なのかも知れない……。


 それは相手も同じだと思う。



(もえ)……、好きだよ……」



「……好きってしてる時しか言わない……」



「何? どうしたの? そんな事ないよ。 好きだからここに来るんでしょ? 萌に会いたいんだよ」


 珍しく少し攻撃した。

 そう思ってたとしても目的はわかっている。

 今はそれでいいと思っていた。

 けれど、私ももう34……。

 周りの友達は結婚して子供が生まれて『家庭』というものを築いていっている。


 自分はどうかな……。

 誰かと結婚なんて……考えられなかった。

 あったかい家庭なんて想像もできない。

 一人がいい、一人でいい。

 その時、その時に彼氏がいたらそれでいいや……。

 焦っていないけれど、この人とはもういい加減にしないと……。

 少しずつ今の関係を解消する事を考え始めていた。



「やっぱり萌じゃなきゃダメなんだ……」


 そう言って抱きしめられる力の強さに、関係を断ち切ろうと思いつつも幸せを感じていた。

 その時だけ、その瞬間だけでも、自分を求める人がいる事が嬉しかった。




 私は、永井萌(ながいもえ)、34歳。

 製造会社の事務員をしている。

 周りには一人同世代の同僚がいるだけで、パートのおばちゃんや年配のおじさんばかりだった。


 毎年、新入社員は入ってくる。

 けれど、仕事がキツいのか辞める人が多い。

 夏のある時、新入社員の人に呼び止められ告白をされた事があった。

 付き合うとかはもちろん、その人を男性として意識した事がなかったし、入社してまだ数ヶ月、私も挨拶程度でそんなに話した事がないのに、私の何を好きなんだろう……という疑問から断った。

 その彼も今は辞めてもういない……。

 


「また断ったのーー?」



「はっちゃん……またって2回目なだけでしょ……。 それに普通、断るでしょ、入社してまだ数ヶ月だよ……。 私もよく知らないし……」



「でも、ちょっとかっこよかったと思うけどーー」



「そんな人にも裏切られた事、ありますから……。 顔で判断しちゃダメだ……!」


 はっちゃん、市原初美(いちはらはつみ)は、1つ歳下の同僚。

 はっちゃんとは同世代がはっちゃんしかいないのもあっていつも一緒にいる。

 話す内容にも困らない。

 仲良くしてもらっている。


 不倫相手の金子さんと会ったのもはっちゃんがきっかけだった。

 はっちゃんがSNSで趣味のマラソン大会の写真をアップしたのを同じマラソン大会に出ていた金子さんが見てはっちゃんとSNS上での交流が始まった。

 はっちゃんと金子さんが初めて飲みに行く約束をしたらしいが一人は不安だからと呼ばれたのが私だった……。


「初美ちゃんは今日初めて会ったのに初めての感じがしないなぁ……。 よく話すからかな? 隣の友達の名前はなんていうの?」



「あ、初めまして。 はっちゃんの同僚の永井です。」



「あ、こちらこそ初めまして。 金子章司(かねこしょうじ)っていいます」



「今日、ついて来ちゃってすみません……」



「いえいえ! 永井さんも俺と仲良くしてくださいね」



 それが金子さんとの出会いだった。

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