第17話 英雄譚に隠された真実(★)
2020.1.9
タイトル変更、および改稿(ほぼ差し替え)しましたm(__)m
詳しくは後書きにて。
「……やれっつってんだよ」
「は、はいっ!!?」
ブツブツと独り言を呟いていたと思えば、いきなりの勇者話……ミテュラの突拍子のない発案に、アシュラは勿論、フォルテュナとククルも全く意味が分からなかった。
「あの、ミテュラさん……何故いきなり勇者なんですか?」
「ククルにも全くわからないのですぅ……」
誰だってこういう反応をするだろう。
だがこうなる事は、ミテュラ自身もわかっていた。
「あっははは……突然ごめんなさいね。ちゃんと説明するわ」
ミテュラは元居た切り株に座る。3人もそれに倣い、各自が座っていた切り株に腰を落とした。
思わぬ勇者話に、アシュラは内心、心を躍らせる。
フォルテュナ達は、有耶無耶になっていたミテュラの話が聞ける事に、興味津々といった様子だ。
ミテュラは、3人の意識がしっかり自分に向いたのを確かめる。
「かなり昔の話から始めるわね。特にアシュラは天上界の事については何も知らないはずだから、しっかりと聞いてちょうだい」
「「はい」」
「わかりました、母さん」
目を瞑り、過去を思い出すように、ミテュラはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「創造神……シヴァは、気まぐれでこの世界を想像した。そして数えきれない程の種族をも創りだした。その中で文明を持ち繁栄に成功した種族が、亜人族、獣人族、魔族、そして人族。この4種族に、彼は世界の覇権争いを嗾けたの。彼が娯楽として楽しむ為に……」
アシュラにとっては驚きの事実。これまで一生懸命生きてきたこの世界が、創造神によって、娯楽として創られたというのだ。
フォルテュナとククルにとっては、幼少の頃から聞かされていた話なので、別段気にしている様子はなかったが。
「4種族の覇権争いによって世界が混沌としていた頃、シヴァの護衛として任務を全うしていた私は、彼から箱庭の監視役という勅令を受けて、この世界に顕現したわ。その時降り立ったのが、この人族が支配する大陸だった」
スッとミテュラは瞑っていた目を開く。その視線ははフォルテュナに向いた。
「人族は他の種族と違って、個々の能力は至って平凡。身体能力も魔力も微々たるこの種族は、最も人口を増やし、数と組織力によって文明を築き上げた。その根源には、神という存在が欠かせないものとなっていたわ。それが―――」
「運命の神ティミスの存在、ですね」
ミテュラの言葉を引き継ぐように、フォルテュナが口を開いた。
「そう。この国名の由来となっている運命の神ティミス……貴女の母親のね」
「「……はい?」」
アシュラは知らなくて当然だが、ククルにとっても初耳だったようだ。
「あら、アシュラはともかく、ククルさんは知らなかったの?」
「‥…知らなかったのですぅ」
「そう……でもしょげる事はないわよ。これはシヴァによって隠蔽された事。その事もこれから話すから、ちゃんと聞いてね」
「はいなのですぅ」
ククルはミテュラの言葉を信じて顔をあげた。
フォルテュナも黙ってミテュラが話始めるのを待っている。
彼女も知らない事が多いのかも知れない。その目には鬼気迫るものがあった。
「ティミスは人族に覇権争いを促すために、天啓を授けた神族。その後もシヴァの伝令役として、人族に天啓を与え続け、いつしか人族の守護神として崇められる存在になっていた。そしてティミスもまた、自分を崇める人族の力になりたいと思い、司る『運命』の力を行使して、人族の覇権争いに陰ながら尽力したの」
ミテュラは一呼吸置いた。
その表情は、昔を懐かしむのではなく、悲しみに満ちていた。
「シヴァに無断で顕現して人族と寝食を共にしていたティミスを、見て見ぬふりをする訳にはいかなかった私は、彼女と接触し、ひたすら説得したわ。だけど、最終的に説得させられたのは私の方だった……」
「……どういう事ですか、母さん」
「彼女に諭されたのよ。『箱庭が創られた世界だとしても、この世界に生きる命はこの世界の人々のもの。それを娯楽だと弄ぶ事は、例え創造神様でも許される行為ではないわ』ってね」
「でも、人族に与してたんでしょ? 他の種族との争いに加担したら……」
「ティミスが人族に促していたのは、覇権争いを血で血を洗うものではなく、全種族共存という道だったの。勿論、世界の支配者となる為に、他種族はそれを簡単に受け入れてはくれなかった。それでも、いつの日か誰もが平穏な暮らしが出来る世界を作る為に、彼女は奮闘していたのよ。そして私もまた、彼女の想いに感銘を受けて、監視役としての任を放って、彼女の力になったのよ」
3人の知らない、天上界では隠蔽されていた真実。
アシュラは目を通した歴史書とは違う事に、ククルは天上界で習った事とは違う事に、そしてフォルテュナは母親の優しさに感極まって涙が頬を伝っていた。
しかし、ここまでの事なら何も隠蔽される程ではない。
強いて言うなら、神族が余計な入れ知恵をしたというところだが、隠蔽するにはいささか弱すぎる。問題は、その後にある事は、誰の目にも明白である。
「私は武力で人族を脅かす輩を徹底的に排除したわ。監視役として顕現していた私の能力は何の制限も受けず、その上ティミスの恩恵を受けた事によって極限にまで能力が向上し、思う存分に力を振るったわ。勿論、命までは取らなかったわよ? それこそティミスが最も嫌っていた事だったからね。やがて『銀髪銀眼の女戦士』なんて呼ばれ始めた私は、亜人族、獣人族の武力勢力を次々と抑えつけ、最後に魔族の統括者の元へと向かったわ。全てが順調、あともう少しで和平に手が届くところだった」
「だったって、確か勇者が大魔王と打倒して、世界が平和になったんじゃ……」
届いたのではないと語るミテュラの表情が、あからさまに曇った。
「結論はもう少し先よ……続きを話すわね。魔族領に単身押し入った私は、魔族の統括者に会う事ができたわ。話し合いの場が用意されていて、すんなりと和平の約束を交わす事が出来ると思ってた。でもそれが油断を誘う罠だったの。完全に気を緩めてしまった私は拘束されてしまった」
「拘束って……固有能力に母ティミスの恩恵まで受けてて、ですか?」
フォルテュナが疑問を持つ。それだけミテュラの能力がズバ抜けてるからだ。
「そうよ。皆も覚えておいてね、油断すれば能力なんて関係なくやられるわよ」
3人は黙って頷く。
「拘束された私は、そのまま別室に連行されたわ。そしてそこにいたのは、魔族の王……そして人族の希望である運命の神ティミスだった」
「嘘っ!!!!!」
フォルテュナが立ち上がり、ティミスの言葉を否定した。
「どうしてそこに母がいたんですか!? 私には信じられません!!」
彼女の肩が、手が、怒りで打ち震えている。
自分の母親がそんな事するはずがないと、必死で抵抗する。
だがミテュラは、そんな彼女の感情を受け止め、諭す。
「私だって信じられなかったわ……でもそこに居たのは、紛れもなく彼女本人だった」
「だったらどうして……」
「拘束された私に、彼女は言ったわ。『常にシヴァ様の傍に居られる貴女が羨ましい、シヴァ様に頼られる貴女が妬ましい』……ってね。これは推測だけど、ティミスは魔王によって心の歪みにつけこまれ、何らかの方法で服従、もしくは洗脳されたのか……正直、それは私にもわからないの」
「そ……そんな……」
フォルテュナは青褪めた顔で座っていた切り株に座り込んだ。
アシュラとククルが、左右に寄り添い、フォルテュナの身体を支える。
「私はその後、魔王によって呪術を掛けられたわ。『厄反射』といってね。魔族対象に神族の能力が発動しない呪い。それを直接心臓に刻み込まれてしまった」
ミテュラは上着をはだけると、左胸の乳房の上に六芒星の形をした黒い模様があった。
「そしてもうひとつ、魔王は私に呪術を掛けた。その効果は……少し長くなるから後でお話するわ」
ミテュラは気づかれない程度にアシュラを一瞥し、再び話を始めた。
「魔王とティミスによって私は投獄されたわ。でもその後脱出するのは簡単だった。魔王の呪術によって、魔族に対して能力を発動できなくなったけど、それ以外はいつも通りだった。監視の目を盗んで、私は脱出に成功した。そして私は人族領、ティミスの居た街に帰還したわ。でも……そこには不思議な光景が広がっていた。街中が、魔王討伐の歓喜に包まれていたのよ。最初は状況が掴めずに混乱したけど、すぐに理解したわ。これはティミスが何かした……ってね。よくみれば街の大通りではパレードが行われていて……そこには、私と同じ容姿の、私じゃない何かが、英雄として街中から祝福されていた……それが今なお語り継がれる【魔王を討伐せし勇者】の正体なのよ」
皆、言葉を失った。
ずっと英雄譚として語られてきた勇者は偽物だった。
「そ、それじゃ……天啓によって建国した勇者って……」
「おそらくその偽物……魔王とティミスによって創られた架空の勇者ね」
世界を救った英雄と謳われている勇者は偽物だった事、それに対して神であるティミスが一枚噛んでいる事に、皆は黙り込んでしまった。
「そしてフォルテュナさん……貴女の母ティミスはまだこの世界の何処かに潜伏しているわ。その証拠に、彼女から受けた恩恵が、私の中でまだ生きているの。神族の恩恵は、死ぬもしくは直接解除されない限り、ずっと付与されたまま。これこそ、ティミスが生存している何よりの証拠と言えるわ」
フォルテュナの眼が見開き、力強く言葉を発した。
「……私、母を探します!! 探して直接話を聞きたい!!」
ミテュラは黙って頷いた。そういうだろうと予想出来てた事だ。
「私はそれを止める権利を有していない。そもそも止めるつもりもないけど。だけどね、今のままでは全員弱すぎるのよ。魔王と直接対峙した私だからこそわかる。だから私がこれから皆を徹底的に鍛えてあげるわ。どうかしら?」
3人は顔を見合わせ、頷く。その眼は逞しく力強い光が宿っていた。
「「「よろしくお願いします!!」」」
「任せなさい。この私がみっちり鍛えてあげるわ」
こうしてミテュラを中心に、3人は戦闘に於いてその頭角を現す事になる。
「お義……ミテュラさん、ひとつだけ聞いてもいいですぅ?」
「何? ククルさん」
「アシュラさんに勇者やってみない? って……結局何だったのですぅ?」
「ただの口説き文句よ。『へい彼女、一緒にお茶しない?』みたいな。」
「それ、全然意味がわからないですぅ」
「もう、小さい事は気にしたら負けよ! 魔王なんて倒しちゃえばいいのよ!!」
「……そんな簡単に出来るなら、ミテュラさんが倒してるんじゃ……」
「あまり小さい事気にしてると、大きくなれないゾ☆」
「大きなお世話ですぅ!!!」
最後は格好がつかないミテュラでしたとさ。
ようやく更新できました。
この回が最も厄介だと思っていたので、ちょっとホッとしていますね。
今話につきましては、改稿といより、ほぼ差し替えとなりました。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございますm(__)m