第94話 夜の道
装備屋の主人とソーンで選んだ厳選素材詰め合わせセットについては、持ち運びやすいように紐で縛ってくれた。
アイリさんも、心行くまで鑑賞できたことで、とてもご機嫌で宿に帰ると率先して荷物を部屋まで運んであげるとソーン達に伝えて、足取り軽く去っていった。
強がりをみせていたミリアも流石にちょっと疲れがでてきたのか、顔色があまり良くないことに気づいたアルフが、まかせてくれとミリアを説得して部屋へと連れていく。
ソーンはそんなミリアが心配ではあったが、先に用事をすませておこうと、宿の隣の大木のところへ伺うと、丁度、ハンナがいて木の上に向かって声をかけている。
「えっと、それがいいです。その赤い奴で、それと・・・その隣も・・・わぁ、ありがとう」
その様子をしばらくみていると、するすると木の上から赤い果実が満載の籠が下りてくる。
それを笑顔で受け取ったハンナが何度もお辞儀をして、宿の方へとかえっていくところでソーンとすれ違った。
「あっ、ソーンさん。お帰りなさい。ユキヒメさんに手伝ってもらって普段取れない木の上の方の果実を分けてもらったんです。日が当たってとてもよく熟してて美味しそうなんですよ」
満面の笑みでそう答える宿の娘に、つられるように笑顔で挨拶を返した後にソーンが木の下へとたどり着いた。
すると、音も無くすーっと白い巨体が下りて来て、念話を語りかけてきた。
『ん・・・ソーン何か用。娘みたいに果実がいる?』
「えーと、ハンナさんのお手伝いしてあげたんだね。ありがとうヒメ。それで用というか、お土産をね、持ってきたんだ」
そういって、手にしていたずっしりとした、金属素材の塊をヒメにみせる。
『・・・色々混ざってる・・・美味しそう。これ貰っていいの・・・』
興味深そうに、お土産に手をのばす白大蜘蛛に、そうだよと留守番とお手伝いのお礼かなと伝える。
『ん・・・大事に食べる。ありがとうソーン』
そういうと、早速味見したいのか木の上に、降りてきたときと同じく、するすると上っていった。
「えーと、落ち着いて食べてね?うん」
その姿を見送ってから、ソーンも宿へとはいっていった。
___夕食時には、クーマも帰ってきたので、もう一つのお土産の果実の詰め合わせを見せると、こちらも喜んで上で食べると籠ごと持って窓から外へ飛んで行った。
「えーと、みんな上の方で食べると美味しくなるのかな・・・今度聞いてみよう」
宿の女将のお勧めの料理をたらふく食べて、今日の部屋割りにそって、2部屋に分かれたソーン達は、昼間の疲れがでたのと、
体を拭くためにお湯を借りてくるところで、またバタバタと駆け回った関係から、暗くなると自然とベッドに潜り込んで眠りについていた。
___窓の隙間から時折、はいってくる冷たい風が、昼間の熱気をはらんだ部屋の温度を冷ますようで、心地よい空気を運んでくる。
豪快にベッドに大の字で眠るアイリと、寝入る時とほぼ同じ姿勢ですやすやと眠るマイのベッドの間で、暗闇の中、おもむろに上体を起こす姿があった。
そのまま、足を降ろして、枕元の腰ベルトを拾って、壁にかけていた灰色の外套を音も無く素早く羽織る。
そーっと、扉をあけて、ソーンが宿の外へと抜け出した。
大人しく寝ていたのだが、昼間のことがどうしても気になって目が覚めてしまったので、ソーンは確認しなくてはと行動に移した。
皆に相談しようとも一瞬思ったがそれだと、何故か上手くいかない気がしたので、申し訳なかったがこっそりと来てしまった、アイリさんの言葉を借りると冒険者だったら仕方ないよね。
「・・・えーと、たしかこの辺りに・・・」
月明かりの中、宿をでて通りを1本入ったところで、昼間に訪れた装備屋の石造りの壁の前までやってきた。
なんの変哲もない壁の一角が、
ソーンが見つめる目の前では、ゆらゆらと揺らめく黒いひずみの中、
下へと続く石造りの階段が存在していた。
「これ、皆見えてないみたいだった・・・なんだろう前にも」
傍によって横から見てもただの石の壁のように見えるが、正面からみると、薄暗い闇の中へと続く階段がみえる。
「・・・ここまで来たんだし、ヨシッ、探索開始だぞ」
黒い歪みの中へと灰色の外套をひるがえし銀色の髪の少年が吸い込まれていく。
ゆらゆらと揺れるその黒い口が、飲み込んだ獲物を確認して、ゆっくりと閉じられていき、後には、石のざらざらとした壁が静かに佇んでいた。
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