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第74話 巣を抜けて

___アルフとアイリが身を挺して盾になり、じりじりと白い巨体を押し返す。


 ソーンは、今にも飛びつかれそうな獲物になった動く石像ゴゴに馬車の陰に隠れるようお願いした。


 その間に白い前足を両手で掴んで落ち着くよう白大蜘蛛ユキヒメに必死で声をかけつづけて、

 なんとか正気を取り戻すことができた。



 肩で息をしながら、ソーンは、あらためて話しはじめた。


「えーと、ユキヒメ・・・どうしたのかな?」



 すると、プルプルと小さく震えながら、なんだか地面すれすれまで身体を沈ませた白大蜘蛛がぽつりぽつりと答えを返した。


『・・・ゴ、ゴメンネ・・・ミスリル鉱石の塊ガ・・・美味しそうデ』


 

 それには、ソーンが諭すように答える。

「駄目だよ!ゴゴさんは仲間なんだからそんな目でみちゃ。これからは、ちゃんと我慢できるって約束できる?」



 少し間をあけてだが返事があった。

『・・・ん。頑張ル・・・』


 それを聞いて、ソーンは皆に事情を説明した後、申し訳なさそうに馬車の陰に座り込んでいた、ゴゴに謝罪した。



 先ほどの情熱がくすぶり、まだちょっと、そわそわしているユキヒメの視界にゴゴが入らないように皆でカバーしながら、出発の準備を進める。




___街道をふさぐように折り重なっていた白いベールが大勢の蜘蛛達によって撤去されていく。

 白い霧が晴れていくかのように、徐々に白い世界に色がつき、見慣れた街道沿いの景色へと戻っていく。


 それにつれて白いベールで隠されていた、馬車の残骸がいくつも姿を現した、結構な数の商隊がここに捕まっていたようだ。

 目につくところは蜘蛛達に混ざって一緒に片づけて街道を通れるように仮復旧をした。


 ベールの撤去が済んだ蜘蛛達が谷の巣へと戻っていく中で、何匹かがソーン達の馬車の近くへやってきた。

 すると、ユキヒメと大顎を鳴らして合図を交わしたあと、何かを置いていった。


 「これは何だろう?丸い鉄の塊?」

 不思議そうな顔でソーンが白大蜘蛛ユキヒメに尋ねると


 その丸い塊に近づきながらユキヒメが答えた。

『・・・弁当・・・保存食』


 そう答えた後、鉄の塊を大顎で持ち上げて馬車の屋根付近にある手すりの側面に、自らの腹部から操ってのばした糸で器用に縫いつけていく。

 結構な重量物のはずだが、白い糸を何重にも重ねることで、がっしりと固定されているように見える。交換条件の1つである蜘蛛の糸は想像以上に価値が高そうだ。


 バランスが悪くならないようにぐるりと反対側にまわりながら、同じように塊を吊していく、それにあわせて反対側に隠れていたゴゴもあわてて移動する。


 全て吊し終わったのか、ユキヒメがソーンの近くにやってきて、うなづいた。



「そうだね、街道の方も通れるようになったみたいだし、馬車の残骸については、ギルド長に伝えて指示を仰ごうか。じゃあ、そろそろ・・・」


 そうソーンが答えたところで、ユキヒメが振り返って、今度はゆっくりと馬車の側にいるゴゴに近づいていった。


 一瞬、ソーン達も身構えてしまったが、今度は大丈夫だと見守った。

 

 あんまり近づくのは、やっぱりまだ我慢できなくなるのか、プルプルと震えた後、ちょっと離れたところで立ち止まったユキヒメは、するすると糸をのばしてゴゴの右手の同じ場所へ巻き付けていく。

 しばらくして腕輪のようになったのを確認して納得したのか、糸を切り離した。

 蜘蛛の糸の腕輪を不思議そうにみているゴゴを尻目に、ソーンに呟いた。


『・・・コレで我慢スル・・・』


 それを聞いたソーンはゴゴに、ユキヒメの贈り物だと思うので大事にして欲しいと伝えた。


「ソウデスカアリガトウ、ユキヒメサン。・・・ソレデハ出発デスネ、後ノ事ハ任セテ、気ヲ付ケテ皆サン」


 それを合図に、ソーン達は馬車に乗り込んだ。

 ここに来るまでゴゴが引いていたところに、白大蜘蛛ユキヒメがはいって何番目かの足をひっかける、ちょっと試しに引き寄せると馬車が動くみたいなので問題はなさそうだ。


 少し心配そうにみていたソーンは、安心したのか御者台に座って声をかける。

「良かった。大丈夫そうだね。慣れるまでは休みながら進もう、無理はしないようにね」

 そう言って、何気なく手をのばして目の前の白い小山をなでる。


『・・・ん、分カッタ。無理ハシナイ・・・でも時々ソコ撫デルトイイ』

 

 そんなやり取りをしていると、ソーンの背中をつつきながらミリアが小声で伝えてきた。


「ソーン・・・ちょっとこっちもいいかな。まあまあ重傷よ」


 えっ?っと思って振り返ると、御者台へ背を向けるようにして白と黒の耳をうなだれた獣人アルフが座っていて、何かを呟いている。


「・・・ずるい、ソーンは・・・新しい子ばっかり相手して・・・」


あわててソーンが声をかける。


「えーと、アルフ。御者台へきてくれないかな。手伝って欲しいことがあって・・・それと皆さん準備はいいですか?」


 アイリとマイがOKの合図をかえす、クーマは相変わらずアイリの膝の上で丸まって眠そうにしている。


 それにあわせて、ふらふらとアルフが御者台へとやってきたので、ソーンがのぞき込むようにしてお願いした。


「アルフには道案内をしてほしいんだ、それと・・・やっぱりまだ慣れてなくて、段差があったときに台から落ちそうになるから、ちょっと支えてくれると嬉しいな」


 少し照れたようにお願いをするソーンをみて、元気がでたのかアルフが答える。

「そ、そうか。旅はボクの方が慣れてるからな。ソーンが慣れるまでは、ずっとボクが支えてるゾ」


 そういって、ソーンの腰にだきつくアルフに、今度は反対側に座っていたミリアがちょっと元気出し過ぎじゃないと言いながらぐいぐいと手で押し戻す。


「えーと、じゃあ。準備できたので出発しますね。ゴゴさんここまでありがとうございました。ギルド長と村の皆さんに宜しくです」


 続けてユキヒメにも動きだすようにお願いをする。

「ユキヒメお願いします。まずは道に沿って進んでもらえますか」


 手を振るゴゴの姿を見送って、

ソーン達を乗せた馬車がゆっくりと動きだす。


 白いベールを解き放ち、再び開けた街道に、

力強く新たな旋律を奏でながら。

いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んで頂けると嬉しいです。


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