第73話 従魔契約
___谷の主が黒い大顎をカチカチと鳴らしながら頭の中へ語りかけてくる感覚にもそろそろ慣れてきたソーン達だったが、条件の中身は少々悩ましい内容だった。
『馬車を引いて旅する代わりに、連れて行く眷属に休憩先で森などを探索させてほしいのだ、理由は、いつかこの谷から巣分けする際の新天地を探しておきたいのでな』
これには、ソーンも回答に悩んで少しだけ時間を下さいと、皆を呼んで小声で相談をはじめた。
その際、隣のミリアが小さくお疲れさまと労ってくれた。
まずはじめにソーンが答える。
「えーと、もっと他の鉱石とかを要求されると思ってたので、僕はいいんじゃないかと思うんですが、皆さんはどうですか」
次にアイリが答える。
「連れて行く眷属を森で自由にさせるってことだろう。色々と危なくないか?」
つづけてマイが答えた。
「そうね、そのまま何処かに行ってしまったりしてね、そうなると馬車は立ち往生するわね」
それにアルフが自信満々に答える。
「そんときはボクが馬車を引いてあげるヨ、頑張ればなんとかなるんじゃない。あっ、ソーン以外は馬車から降りて手伝ってネ」
あわててソーンが僕も降りて押しますと答える。
すると、しばらく姿を見せていなかった茶色いもふもふが空から、ふよふよと尻尾をゆらして降りてきた。
「ふむ、その眷属とテイムすれば良かろう。ついでに意志疎通もできて便利じゃろうし」
それを聞いてソーンが、少しうつむきながら申し訳なさそうに答えた。
「・・・えーと、テイムはそんなにうまくいくと思えなくて、期待にそえない可能性が・・・」
つづけて何か言いたそうにしているアルフに、ミリアが割って入るように答えた。
「いいじゃない駄目元でも、試してみる分には問題ないんでしょ、そのあたりも踏まえて、お願いしてみれば分かってくれるかもよ」
___その後いくつかの意見をすり合わせて、ソーンは谷の主との交渉を再開した。
「お待たせしました。お貸しいただける眷属を途中で探索にだす件ですが、了解しました。その代わりですが、その眷属の方と約束を守り意志疎通のためにテイムをさせてくださいませんか」
それを聞いて谷の主が答える。
「ほう、従魔契約か、それは実際についていく者に聞いてみるとよい」
すると、周りで静かに話を聞いていた蜘蛛達がざわざわと動きだして、その間から、ソーン達をここに案内してくれた白い大蜘蛛が姿を現して、ソーンのすぐ目の前までやってきた。
それを見たソーンがおそるおそる、その白い姿の眷属に尋ねる。
「えーと、主様が言われた従魔契約・・・テイムって呼んでるんだけど、それを受けてもらえますか?うまくいけば、僕らの間に絆ができて、主様が今しているような頭の中に話しかけるようなこともできると思うんです」
うまく説明できたか不安だったが、ソーンが話しはじめてからじっとこちらを見ている白い蜘蛛がうなずいたような動作をして、前の足を1本、ついとソーンの前に掲げた。
同じくうなずいたソーンが、少しあわてたような顔で、さっきからなりゆきを見ているクーマを振り返った。
それをさっしたクーマが頭の中に聞こえる声で答える。
『ふむ、大丈夫じゃ、契約の言葉はこのまま教えるからそれを唱えるといい』
ほっとした表情で、再び前を振り返ったソーンが頭に響く言葉通りに、たどたどしい感じに唱えた。
「わわわ、我、コレナル獣に命ズル、我の勇敢ナル友として、我ソーンの契約の元に、共に生キヨ・・・でいいよね?」
途端にソーンのまわりにゆらゆらと黒い煙のようなものが現れて、右手に吸い込まれるように消えた。
それと同時に右手のあたりが熱く感じたので手を開いてみると、青く光る指輪と同じく青く光るチョーカーが浮かんでいるのが見えた。
すると、クーマがすっと手をのばして指輪をひろいあげてソーンの指にはめるように伝えて、チョーカーは白い蜘蛛に着けてあげるようにうながした。
「えーと、逆じゃないの?あれっ?そうだっけ」
釈然としないが確信もないので、ソーンはいそいそとチョーカーを持って、白い蜘蛛に近づくと、これを着けてもいいか尋ねる。
それに答えてずいっとあげたままの前足の付け根あたりを、指し示してくれたので、そこにチョーカーを着けることにした。
青い色をしたチョーカーが鮮やかな白の中に綺麗に収まった。
「うん、いいと思う。そうか目の色と同じなんだね、どうだろう、動きの邪魔になったりしないかな」
ソーンが尋ねると、少ししてから頭の中に声がかえってきた。
『・・・大丈夫、コレ気に入った』
それを聞いて、ソーンが答えた。
「ふふ、良かった。そうだ。改めまして僕の名前はソーン。君の名前を聞いてもいいかな」
それに答えるようにして
『・・・名は無い・・・ソーンが名前をつける』
「えっと・・・じゃあ、ユキヒメでどうかな、はじめて見たときに雪のように白くて綺麗なドレスを身につけているお姫様のようだったからだよ」
そう答えたソーンがユキヒメをのぞきこむように見つめている。
『・・・ソレでいい・・・ユキヒメ・・・よろしくソーン』
そう答えながらユキヒメが前の足をソーンに差し出したので、ソーンがそれをそっと掴んで握手した。
なりゆきを見守っていたミリア達がその様子をみて近くに歩いてくる。
その中で、まるで自分のことにように嬉しそうにミリアが答える。
「ソーン、うまくいったね。心配して損しちゃった。ユキヒメちゃんよろしくね」
それにはテイムの絆がないのでソーンのように念話は出来ないので、ユキヒメはうなずいて答えた。
そんな中、少し離れたところで、その様子をじっと見ている者がいた。
「・・・次のテイムはボクって言ってたのに。ソーンの浮気ものメ」
なりゆき上、断るように言い出せなかった獣人が、黒い艶やかな両耳を垂らしながら、うらめしそうな視線をソーンに送っている。
それに気づいているのかどうなのか、あわてたようにソーンが谷の主に話しかける。
「主様、テイム・・・従魔契約もうまく出来ました。これで条件もそろったので、ユキヒメさんをお借りしますね」
ゆっくりと大顎を鳴らしながら谷の主がソーン達に念話で答える。
『うむ・・・思いもよらず、珍しいものをみたな。まあしかし約束通りだ、その子をよろしく頼む』
うまくことが運んだと理解したソーンはそれを聞いて、深々とお辞儀をして、その場を後にした。
入ってきたときよりは、かなり雰囲気が変わった白いベールの中を、ソーン達は歩いて戻っていく、大勢の蜘蛛達が今は名残惜しそうに着いてきている。ときおりユキヒメが立ち止まってそんな蜘蛛達となにやら会話しているようにも見える。
それをみたソーンが真っ白な蜘蛛に尋ねる。
「えーと、今更だけど。良かったのかな眷属の方がすごく心配しているような動きに見えるけど」
それに答えるように念話がかえってきた。
『・・・ん。問題無い。ミンナ過保護ナダケ』
ほどなくして入り口が見えてきた、あちらも気づいたようで、
馬車の近くにいた動く石像が手を振っている。
「よしっ、まずは順調だ。ありがとう皆、次のステップへ向けた準備をしないとね」
ソーンがそう答えると少し早足で馬車へ駆け寄るすぐ側を、なんだか獲物を狙うような素早い動きでミスリル製の石像へと駆けていく新しい仲間に、あわてて声をかけるソーン達だった。
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