第72話 交換条件
谷の主へと言葉を紡ぎ出す前に、
ソーンは思い返していた。
___今度の依頼を受けた際に、ギルド長はソーン達に説明していた。
「谷を巣にした主は、次の段階に成長しています。
この鉱石が分かりますか。魔力を帯びた少し珍しいミスリル鉱石ですが、
ある理由で、ここではミスリル鉱石が定期的に手に入ります。
これを使って交渉するのです」
手渡された鉱石を両手で確認しながら、ソーンが尋ねる。
「これで何を?もしかしてモンスターにこれを与えるのですか」
不思議そうな顔のソーンにギルド長が答えた。
「そうです。でも、タダで与えるわけではありませんよ。
交換条件は3つあります。1つ目は・・・」
___ソーンは谷の主に声を張り上げて答えた。両脇には、それぞれミリアとアルフがついており。お互いにソーンの視線の先を真剣に見つめている。
「今後、ミスリル鉱石を定期的に渡す代わりに、谷の主様に約束頂きたいことがあります」
すると巨大な黒い牙をガチガチと鳴らして、谷の主が答えた。
『ほう・・・面白い、話してみろ』
ミスリル鉱石がそれほど魅力的なのか、それとも小さき者の話しに興味があるのか、続いてソーンが答えた。
「交換条件は3つあります。
1つ目は、大街道を解放してください。主様は谷から奥へつづく森をテリトリーに定められていると思いますが、人との境界線を森の入り口に変えて、街道の巣を移動して欲しいのです」
それには谷の主が答えた。
『街道の巣を退けろと、それはまた大きくでたな』
すかさず、ソーンが答える。
「主様にとって、街道の巣は今ではそれほど必要では無いと思ってます、寧ろそれがあることで、人との争いの元になり眷属の成長の妨げになると思っています」
その説明をじっとソーンを見ていた谷の主が答える。
『・・・良く知っているな、森を支配下に加えた今では、街道の巣はそれほど重要ではない、分かった街道は解放してやろう』
それを聞いてソーンは深々と頭を下げて答えた。
「ありがとうございます。つづけて2つ目ですが。
主様の眷属が作られる、蜘蛛の糸を譲って欲しいのです。この件がうまくまとまりましたら、この森一帯は主様の領域ということで、人が立ち入らないようにしたいと思ってます。その代わり、貴重な蜘蛛の糸が手に入るとなれば寧ろ皆、感謝します」
説明を聞いた谷の主が答える。
『ふむ、まあいいだろう。糸をくれてやろう、だが勝手に森に入って来た者がどうなろうがしったことではないぞ』
すかさず、ソーンが答える。
「ありがとうございます。品物の交換の際に、こちらの札を持った使者を森の入り口に向かわせますので、同じ札を眷属の方に持たせてください。お互いの目印にしたいと思ってます」
『それで、終わりか、小さき者はよく口が動くな』
そろそろ話しに興味が薄れてきたのか、谷の主が首を動かして、牙をガチガチと鳴らす。
あわてて、ソーンが答える。
「すいません、最後の、3つ目のお願いがあります。
馬車を引くために、眷属をお貸し願いたいのです」
それには、谷の主がすぐに答えた。
『・・・調子に乗るなよ、小さき者よ。
我が眷属を家畜のように扱いたいと!』
そう告げると、前足と黒い巨体を大きく掲げると空が覆われ、辺り一面が影に包まれて一瞬にして暗くなる。
その迫力に思わず、後ずさりしそうになりながらソーンが必死に答える。
「言葉足らずで、すいません。僕たちの旅の仲間に馬車を引ける力をもった方をお借りしたいのです。決して失礼な扱いはしません。どうかお願いします」
すると、谷の主が起こしていた上体をすっと地面に降ろして、牙をガチガチと鳴らした。
『まあ、冗談だ。少し試しただけだ。お前の望む眷属を貸してやろう、ただしこちらも条件がある』
なんとなくリズム良く牙を鳴らしている谷の主を見て、あれは笑っているのだろうかと考えながらソーンが答える。
「えーと、もう少し優しい冗談でお願いしたいです・・・それで条件とは何でしょうか」
ギルド長との事前相談の中でも、3つ目の条件については、もしかしたら難航するかもしれないと言われていた。追加の交渉材料なども用意はしてきたが、相手が何を言い出すか、内心では心臓がバクバクしながらソーンが尋ねた。
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