『けもの道』他
『けもの道』
この名門男子校には父も祖父も同じく通っていた生徒が少なくなかった。所謂サラブレッドだ。けれど僕は違う。家柄も地位もなく、後ろ盾もない。獣道を行くように僕はここに在籍している。差別という人間の醜悪を僕は学んだ。狭い箱庭で窮屈な思いをするのも数年だ。社会という大空が僕を待っている。
『脳内』
博士は革靴をコツコツと鳴らしながら机から回り込み、助手に迫った。「君が今、何を考えているか解る」「博士。何を…」「君は自分を准教授に推薦しなかった儂を憎んでいる」「そんなことは」「いいや。君の脳内は儂への殺意で溢れている。だから儂は先手を打って、先程君に勧めた紅茶に毒を入れたのだ」
『目玉焼き』
珍妙な例えかもしれないが、その宇宙船はまるで美麗な目玉焼きのような形状をしていた。但し色はメタリックシルバー。一夜にしてたった一機の宇宙船に支配された地球人は今から別コロニーへ輸送される。中には強制的に地球に残される者もいて、彼らは家族、恋人、友人たちとの別れを惜しんでいた。
『心』
「ああ、心!この忌まわしきもの!!」女伯爵は呪わしくそう呻いた。ビロードの赤いドレスがひどく扇情的だ。侍従はじっと女主の勘気を見守る。「この心が邪魔なのだよ、この心さえなければ、なければ、もっと楽に生きられるのに」気付くと侍従が女伯爵の手を取っていた。「貴方を慕う心は消せない」
『飴』
鼈甲飴を見たことがあるだろうか。とろりとした色艶が何とも言えない。あの美しい人の桃色の舌がちろりと覗き、鼈甲飴を舐める。そうして桃色の舌はまた、朱唇の中に納まるのだ。僕は鼈甲飴に嫉妬して、彼女の朱唇を貪り、桃色の舌に舌を絡める。鼈甲飴の味のする口づけは甘く、僕を惑乱させた。
『花椒』
狼藉者撃退用に私が拳法の師から貰ったのは、花椒の入った小瓶だった。小瓶の蓋はすぐに素早く外し、敵に花椒の粉をぶちまける。目にでも入ったら激痛だ。「愛蘭ちゃん、パオズ持って行っておくれ」「はあい」そう。あたしは恩義あるこの店を守るのだ。最近は近隣をならず者が徘徊していて物騒だから。
『モゲロンボォwww』←これはちょっと悪質な無茶ぶりでしたが、九藤は大人なので答えました。
モゲとロンボは双子の兄妹だった。ジャングルの奥深く、彷徨っている所を保護されたのだ。彼らは人語を解さなかった。時が経ち、教育を施された二人は、普通に語らうようになった。けれどモゲもロンボも、互いに秘めた想いを人語にすることだけはしなかった。人の世で、それは禁忌と知っていたからだ。
「九藤 朋へのお題は〔からだを埋める〕です。
〔感動詞禁止〕かつ〔「青」の描写必須〕で書いてみましょう。」
「その青いワンピース、とてもよく似合っているよ」「貴方が明け方の空のような色の服で来てって言ったのよ」「うん。君と話すのもこれが最後になるだろう」病魔に侵された男は微笑む。「僕が死んだらあの大樹の下に身体を埋めて」「無理よ、そんなこと」泣く女の唇を、男はそっと塞いだ。
・九藤 朋は『それでいいの?』を最初に使ってSSを書いてください。
「それでいいの?」彼女には答えず、僕は緻密な細工が施された鍵を湖に投げた。金色の軌跡が暮色に滲む。「良いんだ。あれは父さんだけの聖域だから」つい先日、父が逝った。その際、父は僕に母との思い出が詰まった小屋の鍵を手渡した。けれど僕には不要な物だ。父と母がいるであろう空を、見つめた。
・九藤 朋さんは、「昼の遊園地」で登場人物が「見つめ合う」、「かかと」という単語を使ったお話を考えて下さい。
夜、海が見えるデートスポットは彼女に余りうけなかった。今度は昼の遊園地にでも誘ってみようか。僕は彼女と見つめ合い、小さな声で話しながらそう思う。不意に彼女がかかとを浮かせ、背伸びして僕にキスをした。…昼の遊園地でなくたっていいじゃないか。




