『半漁人』他
お題をくださった皆さま、ありがとうございます。
・半漁人で文章を書く
女漁師は網に掛かった獲物を見て目を丸くした。鱗に全身を覆われた男性が蒼褪めた顔でもがいている。人魚の知り合いもいる女漁師だが、半漁人を見たのはこれが初めてだった。網には他に小魚が跳ねている。女漁師は半漁人を網から解放して、「これから一杯どうだい」と誘った。肴は勿論、魚ではない。
・手巻き寿司で文章を書く
母が、誕生日にはいつも作ってくれた手巻き寿司。包丁で切ると断面が、花だったり動物の顔だったりして凄くて、いつも見惚れてははしゃいでいた。今は私が娘と息子に、それを作る番になっている。そして揺り椅子に座る年老いた母に、ご飯ですよ、とそっと声をかけた。もう私が誰かも解らない母に。
・鮭とばで文章を書く
祖父と酌み交わす時、肴になるのは鮭とばだった。鮭を細長く切って干した鮭とばは噛めば噛む程に味が出て、最高の逸品だ。高血圧を注意されている祖父だが、一向に聞く様子はなく、晩酌も欠かすことなく、最期の日までそれを通して、安らかに逝った。葬儀の後、僕は鮭とばを噛み締めながら一人泣いた。
悲しくなるくらい綺麗な青の。 天にかざした花々は。 硝子細工のように脆く繊細に見える。 さくらさくら。 弥生の空に誇らしく歌う。 花の天蓋はステンドグラス。 光を透かして色を届ける。 さくらさくら。 きっと来ると信じていた。 春は毎年、巡るから。 また逢えたねと微笑んで。 仄かに香る。
傷を受け傷つけぬか喜びして落ち込み、心をすり減らして生きてきた。風雨に晒されながらただじっと佇んで。いつしか私は緑の主となり、水を含むようになった。私の生のそこかしこに射した光が今また私を照らす。静けさの中、緑が、風が、そして水と光が私を生かしている。
独りは寂しいの。 ぽつりと薔薇が言いました。青い空も水も光も、全て揃っているのに、話し相手はだあれもいない。独り言を言うばかり。 それを偶然聞いた庭師は、薔薇を可哀そうに思いました。 お友達を作ってあげよう。 薔薇の隣に新しい薔薇が植えられました。 薔薇は喜び、頬を真紅に染めました。
写真提供:空乃千尋さん
画像写真:九藤




