『スリッパとやまびこ』他
お題をくださった皆さま、ありがとうございます。
・スリッパとやまびこを使い文章を書く
スリッパを履いて、パタパタ歩く私の後を、あの子もパタパタついてくる。私が止まるとあの子も止まる。そして丸いあどけない目で、じっと私を見るの。これで言葉まで同じになったらまるでやまびこ。可愛い可愛い私の子。一体、いつまでこうして後をついてきてくれるかしら?今の時間が愛おしい。
・新月の夜を使い文章を書く
新月の夜。深く暗い穴の中に安らぐように、私達もまた闇の安寧に身を寛がせる。輝く月光は眩し過ぎて、柔い心に堪えるのだ。黒い天鵞絨が私をくるむ。時々、身を寄せ合う人と目が合う。暗いからよく解らないけど、多分、微笑んでいる。私は微笑を返し、手を握り、目を瞑る。たまには無色の夢も良い。
・蜂蜜と釣竿を使い文章を書く
真昼の太陽が頭上に眩い。灌木の繁る中、湖畔で僕は祖父と釣竿を水に垂らしていた。正直、少し退屈する。バスケットには僕の大好きなマーガリンと蜂蜜がたっぷり塗られたサンドイッチとエルダリーフラワーのハーブティーが入ったポットが入っている。余命少ない祖父。彼と過ごす時を大切にしなければ。
唐紅に水が流れる。透明の。
その昔、異国の貴人は黄色を纏ったと言う。
贅のある色だったのだろう。
清らかにきららかに。
流れる水が凝りを消し去り。
やがて幸いを生むのだろう。
紅と黄の、贅沢な天蓋の下。
涙も全て落としてしまえ。
溶かしてしまえ。
浄めてしまえ。
残るのは、ただ流麗。
さあ眠りの時間だ。
キラキラの夢を見て。
静かな夜が眠りを守る。
明日を守る。君の明日を。
そして未来を。
金平糖のような粒。
甘い甘い夢を見て。
微笑んでいる君の顔。
僕まで微笑んでしまう。
眠れる森の君たちへ。
どうか安らかな眠りであることを。
どうか幸いある明日であることを。
煙が昇る。天を目指して。
戯れかかる蝶。危ないよと言っても聞かない。
火遊びがしたい。そんな年頃?
寂しいの、とそっと呟く。ならおいで。一緒にいよう。
火が消えてから。少し物足りなさそうな蝶に苦笑する。
だって君の綺麗な翅を、傷める訳には行かないだろう?
なぜか蝶は泣きそうに笑った。
写真提供:空乃千尋さん
画像写真:九藤




