『黒曜石』他
お題をくださった皆さま、ありがとうございます。
・黒曜石で文章を作る
彼女は存在そのものが黒曜石みたいだ。濡れたような漆黒の長い髪も睫に縁どられた瞳も。そして生い立ちそのものが、悲しく光る黒だった。温もりある家庭。円満。それらから縁遠く育った彼女は憂いがちな雰囲気を纏い、けれど僕らの間では密かに憧れの的だった。黒曜石は綺麗だけど幸あれと僕は願う。
・雪柳で文章を作る
その白い、しなるような枝にたわわに咲き誇る花を見ると、ああ春なんだなと思う。雪柳は生命力が強くて、コンクリートから生えたりもする。一つ一つの花は小さくて細かいのに、それが群れる様ときたら「白」に圧倒される。その雪柳の下を潜るように、私は歩みを進めた。春へと向かって。
・蠟梅という言葉を使い文章を書く
樹脂で花をコーティングすると、永遠の花が出来上がる。けれどそれは息をしない花だ。蠟梅は、しっとりとした膜に包まれながらも生きている。独特の風情が見る者の心を打つ。黄色い蠟梅の一枝を手に、僕は彼女の元へ向かう。半透明の薄い花びら。膜に包まれ眠る花を手に、愛を目覚めさせようとして。
さわさわと風が歌う。緑陰に身体を憩わせ、澄んだ空気を吸う。微睡むような心地で空と樹を眺める。黒い枝々が鉛筆で線描きしたようにくっきりしている。浅緑の葉は淡い水彩絵の具。どこからか鳥の声。囀りたくもなるだろう。こんなに好日なのだから。私は青と緑を目に溶かし込むようにして瞼を下した。
名乗りも上げず音もなく。
仄かな香りだけで存在を知らせる。
忘れられたゆかしさに安らぐ。
風よ散らすな。
ただ一人咲く花を。
雪よ凍らせるな。
開いた命を。
小さな声で歌っている。
優しい色に染められて。
まだ焼ける熱を知らず。
まだ猛る声を知らない。
これからの。
春告草。
一日の勤めを終え男は荷を負い、父と息子の後ろをゆっくりと歩く。日が暮れる。地平線が淡紅色に滲み青を溶かしてゆく。子が年老いた父の手を引くのを、男は眺める。情愛と絆の深さから湧く喜びの泉。彼らの為に生きているのだと思う。家では妻が男たちを待ち、夕食を用意しているだろう。温かな晩餐。
写真提供・空乃千尋さん
挿絵写真・九藤




