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『味噌汁と画鋲』他

・味噌汁と画鋲を使った学園ものを書く。


書道で皆が文字を書いた和紙を画鋲で貼りながら、彼女がぶつぶつ言った。今朝の味噌汁の味に不満があったらしい。俺の家でそんな事言おうもんなら、飯を抜かれる。「私だったらもっと美味しく作るわ」「へえ、じゃあ将来、俺に作ってくれよ」画鋲を持つ手はドキドキしていた。暫くの沈黙。「良いわよ」


・時計塔、桑の実、ルービックキューブ、万華鏡の内、三つを使って文章を書く。


時計塔が遠くに見える林の中の小屋。少女は水に晒した桑の実を炊き込んだご飯を用意していた。もうすぐ日が暮れるが、万華鏡職人である少年は作業に没頭したまま、文字通り寝食を忘れているかのようだ。少女は細い息を吐き、野菜スープの入った鍋をかき混ぜた。


・古井戸、電子ピアノ、英語辞典、赤信号を使って文章を書く。


あの赤信号を無視した時から嫌な予感がしていた。随分朽ちているから危険だと言われる、家の古井戸に僕は落ちた。誰かに背中を押された気がした。井戸の底は浅く水が溜まり、学校鞄から出た英和辞典が濡れる。調子っぱずれの電子ピアノの音がどこからか聞こえる。どうすれば明るい世界に戻れるだろう。


・左官屋さんから文章を書く。


芸術的な仕事をする事で有名な左官屋さんを、俺は目指していた。じいちゃんに言わせれば、あんなのは只の遊びだと言う。万遍なく平たく均一に。それがじいちゃんの口癖だった。左官の仕事を継がなかった親父が、酒の臭いをさせながら帰ると、じいちゃんはいつも眉間に皺を寄せ、奥に引っ込んでいた。


・三角定規から文章を書く。


文房具が意外と武器になる事、知ってるかい?三十センチ定規は勿論、三角定規だって鋭利で危ない代物なんだ。その三角定規が生えた白い喉を、俺は見た事がある。血が冗談みたいに溢れてた。手がさ、俺に伸ばされるんだ。震えながら。それが、親父がお袋を殺した時の光景だった。


・雪のふる街を使って文章を書く。 


不思議だね。雪はしんしんと降るって言うけど、静かだって言うけど、その静かの音が幽けく聴こえるように思うんだ。この雪の降る街は、静かの音に満ちていて、それが私には心地好い。安っぽい同情なんかせず、ただ黙って寄り添ってくれる友達みたい。雪化粧の街は、静かの詰まった宝石箱。





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