『髪の毛の年輪』他
美容師さんから出されたお題
・「髪の毛の年輪」
白髪がさらりと落ちる。今まで私が生きてきた髪の毛の年輪。齢を表すもの。そして矜持を表すもの。父がなくても母がなくても、夫に早くに先立たれても、私はこの手で子供たちを育て上げ孫の面倒まで見た。美容室で髪を整える間もろくになかった。今、髪が短くなっていくと同時に、私は初めて私となる。
・「キャラメル」
キャラメルをくちゃくちゃと口中で鳴らしながら彼は標的を眺めていた。その様はまるで無頼の狼。今の内に生を謳歌しろ。残り時間は短い。そう頭の中で標的に語りかけながら、キャラメルを溶かしていく。アーモンド味のキャラメルが溶けきった時、彼もその場から姿を消した。次に現れるのは仕事の時だ。
・「ネーデルランド」
「ネーデルランドに行ったことある?」「どこ?そこ」「ほら、あのヨーロッパの」「違うわ南極でしょ?」どっと起こる失笑の渦。「こら、貴方たち、いつまでお喋りしてるの。もう消灯よ」「はあい」看護師に注意され、小児科の子供たちは口を閉ざす。彼らの誰も、ネーデルランドに行くことなく、逝く。
・「七三分け」
彼は完璧な紳士だった。七三分けもステッキも彼が装うと少しも気障に見えなかった。彼は雨の日以外は薄茶のスエードの靴を履いていた。職場でも頼りにされ、上司の鑑と部下たちに慕われた。そんな彼、私の父が唯一弱く脆い姿を晒した事がある。母が死んだ日、父の大きな背中が、小さく、小さく見えた。
・九藤 朋さんは、「夜のベッド」で登場人物が「騙す」、「傷」という単語を使ったお話を考えて下さい。
夜のベッドの脇で、子供に絵本を読み聞かせながら寝かしつける。子供がとろりと眠そうな顔になるとお休みのキスをする。いつかこの子は気づくだろうか。母親が他の男に逢いに行く事を。笑顔で騙す、母親の真の姿を。その時この子の心には、深い傷がつくに違いない。それでも私は逢いに行くのだから。
・九藤 朋は『5割増しだね』を最初に使ってSSを書いてください。
「5割増しだね」そうあいつは言った。唇をチェシャ猫みたいににやにやさせて。ちぇっ、人の足元見やがって。それでも僕は、好きな子の情報を知る為に、あいつに好きなアニメキャラクターのカードを渡す。レアなのに。それでも知りたいんだ、あの子の事。彼女の笑顔を思い浮かべるとドキドキするんだ。
・九藤 朋は『悪夢』と『親子』を使って140字SSを書きましょう!
悪夢のような話だった。私たちは今まで、あんなに仲の良い親子だったというのに。妻の不貞を知って、息子と私には何の血の繋がりもないことが明白になった。目眩がする思いでいる私に、しかし息子は言った。か細い声で。「…父さん」私は息子を抱き締めた。血の繋がりなど要らない、この子は私の子だ。




