『喉が渇いた』他
・九藤 朋は『喉が渇いた』を最初に使ってSSを書いてください。
「喉が渇いた」俺は彼女に訴える。白いうなじ、さらりと掻き上げれば流れ落ちる黒髪、艶やかな朱唇。それら扇情的なものに反して純真な瞳。「喉が渇いた」俺は繰り返し訴える。こんな言い方しか俺にはできない。彼女は戸惑うように小首を傾げ、俺の両頬に手を添えると、こつんと額をぶつけた。
・九藤 朋さんは、「昼の事務所」で登場人物が「開く」、「唇」という単語を使ったお話を考えて下さい。
そろそろ冬に差し掛かろうかという季節になった。私は昼の事務所で子供が風邪をひいたという連絡を小学校から受けた。急いで着替える為にロッカーの戸を開く。早退し、迎えに行った娘は私が保健室に現れると嬉しそうに笑った。普段は構ってやれないものだから。私の唇が愛しさと哀しみに歪んだ。
・九藤 朋へのお題は〔眠れない狼〕です。 〔直喩禁止〕かつ〔「黄」の描写必須〕で書いてみましょう。
彼は眠れない狼だった。いつ何時、誰が命を狙うか知れぬ。金色の目を光らせては怠りなく警戒する。心の休まる時などない。そういう社会でそういう仕事を彼はしてきた。温もりを知らずに生きてきた。そんな彼がライフルを構えた時、足元に黄色のタンポポが咲いているのが見えた。彼はライフルを下した。
・九藤 朋へのお題は〔笑えない冗談〕です。 〔「かぎかっこ」の使用禁止〕かつ〔「声」の描写必須〕で書いてみましょう。
全く笑えない冗談だ。父の遺品を整理していたら、昔の女性の持ち物が出てくるわ出てくるわ。恋の形見とは言え、これはあんまりだろう。母に気づかれないよう、僕は声を出して笑うのを堪えるのに必死だった。生前はあんなに厳格そうに見えた父なのに、亡くなってから意外な一面が見つかるとはね。
・九藤 朋は『黄昏』と『不思議』を使って140字SSを書きましょう!
その人は百合の雌蕊のような色のワンピースを着て、黄昏の中に佇んでいた。不思議なことにこんなにも目立つ容貌の女性を気に留める人は誰もいない。皆、急ぎ足で通り過ぎて行く。俺は俺をひいた車の運転手を見上げた。蒼白になっている。その時、気づいた。彼女は俺を連れに来た死神なのだ、と。
・九藤 朋は『手を離して』を最初に使ってSSを書いてください。
「手を離して」お願い、その手をもう離して。私を解き放って。魅力ある笑みで私を縛らないで。自由を返して。無邪気に残酷に私の魂を鷲掴みにする貴方。私はいつも振り回され、疲弊する。「今夜、逢える?」なのにそう訊かれると、「……ええ」そう答える私がいる。莫迦な女。




