27:元推しの分別方法
燃えるゴミの日だった。
柚希は、キッチンの隅に溜まったゴミ袋の口を縛りながら、いつものルーティンをこなしていた。生ゴミ、紙くず、使用済みのティッシュ。粛々と袋に詰め込んでいく作業の途中、視線を感じて顔をあげると、ルカがダイニングの椅子に腰掛けたまま、こちらをじっと観察していた。
「何、その目」
「お前は、ゴミを分別する時、何を基準にしている」
唐突な質問だった。だが、この男に唐突でない質問など、そもそも存在しない。柚希は手を止めずに答えた。
「燃えるか、燃えないか。あとはリサイクルできるかどうか」
「ふむ」
ルカは、何かを検討するように、真剣な顔で腕を組んだ。王宮での軍議でも、ここまで真剣な顔はしていなかったのではないかと思うくらいの表情だった。
「では、俺は何ゴミだ」
柚希は、袋を縛る手を止めた。
「は?」
「俺は、燃えるのか、燃えないのか。あるいは資源として再利用できるのか。お前の基準で判定してみろ」
真顔だった。冗談を言っている顔では、断じてなかった。
「そんなの、人間に適用する分類じゃないから」
「だが、お前は以前、俺のグッズとやらを、燃えるゴミとプラゴミに分けて処分しようとしていたと言っていた」
柚希は、一瞬、記憶を検索した。確かに、以前どこかの雑談で、うっかりその過去を漏らした覚えがある。よりによって、こんな形で記憶力を発揮しなくてもいいのに、この男は無駄なところで律儀だった。
「あれは、アクスタの話。あなた本人の話じゃないから」
「では、俺とアクスタの違いは何だ」
「命があるかないか、とか?」
「命があれば、燃えるゴミではないと?」
「そう、なるかな……」
言いながら、柚希は自分の説明の脆弱さに気づき始めていた。生ゴミにも、かつて命だったものが含まれている。理屈をこねればこねるほど、分別の基準が怪しくなっていく。
「なら俺は、生ゴミと同じ分類か」
「違う。全然違う。何でそうなるの」
「命があったが、今は死んでいる、という意味では、共通しているのではないか」
「あなたは死んでないし。目の前でぴんぴんしてるでしょ!」
柚希の声が大きくなる。この男は、時々、驚くほど自分の存在を軽く扱う発言をする。悪気があるわけではない。ただ、「王冠のレガリア」を背負う者として育った過程で、自分の命の重さに対する感覚が、常人とはズレているのだろう。柚希はそのズレを、いい加減に矯正したいと思っていた。
「なら、俺の分類は」
「……粗大ゴミ、かな」
「なぜだ」
「大きいし、扱いに困るし、指定日じゃないと出せないし」
「馬鹿にしているのか」
「してない。むしろ最上級の褒め言葉だと思って」
ルカは、しばらく納得のいかない顔をしていたが、やがて、ふと真面目な口調に戻った。
「本気で聞いている。俺は、いずれこの世界からいなくなるかもしれない存在だ。お前にとって、どういう扱いになるのか、知っておきたい」
その一言で、空気が少しだけ変わった。柚希は、手にしたゴミ袋を、そっと床に置いた。
「じゃあ、正式に答えるけど」
「うむ」
「あなたは、可燃ゴミにも不燃ゴミにも、資源ゴミにも、粗大ゴミにも該当しない」
「では、何だ」
「分別不能」
柚希は、真顔でそう言い切った。
「区分がないから、収集日も存在しない。だから、捨てられない。捨てる方法自体が、この国のルールに用意されてない」
「それは、褒めているのか」
「たぶん、最上級に」
ルカは、しばらく黙っていた。何かを反芻するような、いつもより少しだけ長い沈黙だった。
「……ならば、俺は、ずっとここに置かれ続けるということか」
「そう。粗大ゴミよりタチが悪い。回収不可能物」
「回収不可能物」
ルカが、その言葉を、なぜか気に入った様子で、小さく繰り返した。
「悪くない響きだ」
「褒めてないから」
「褒めているだろう」
「褒めてない」
言い合いながらも、柚希は、口元が緩むのを止められなかった。
ゴミ袋の口を、改めてきつく縛りながら、柚希は思う。分別のルールにも、収集日のスケジュールにも、この男は最初から当てはまっていなかった。それはきっと、面倒なことではなく、単純な事実として、ちょうどよかったのだ。
燃えるゴミの日は、今日も変わらずやってくる。だが、今日出す袋の中に、この男の分類が入る日は、たぶん、一生来ない。
推しは、可燃ゴミに出せない。
柚希は、ようやくこの一年の意味を、腑に落とすことができた。
了
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
異世界転移でもし、推し(二次元)が目の前に現れたら、好きになるのかなぁ……と湯船につかりながら妄想していてこの話が誕生しました。
貴重なお時間を私の作品に割いて頂き、感謝いたします。
また次回の作品でお会いできると嬉しいです。




