33
あぁーもうどうでも良いと思いましたね、本当に心の底から何もかもどうでも良くなってました、だってそうじゃないですか私は危険だからと止めたんですよ奴を指差し確認もさせましたよ、2人もちゃんと見てましたそしたらあの兄貴とか言われる男、なんて言い出したと思います?
「ちょっと待ってんかぁワシの大好物ちゃうのぉ、おっあら、ちょっと裕二さん今あいつ僕にメンチくれたんとちゃいますの?僕、怖くてしょんべんチビりそうですわぁ」
ですよ、は?何言ってんだって話です、いやそんな問題ではない事は分かってます、でも向かって行くんですよ冗談抜きで、止めましたよ足は激痛、出血も酷かったですよそれでも止めましたよ、そしたらですね
「裕二ぃザコはザコの相手しとれやぁ」
聞く耳持たずでしたね言ってる意味もわからないし私も限界でした、その男の背中にやけくそで言ってやりましたよ『死にたきゃ死ね』って、そしたら親指立てやがったんですよ正直ちょっとカッコよかったですけどね、でももう人が死ぬところを見るのは沢山でしたから男に背を向け先生のとこへ戻りましたよ先生の背中には餓鬼が取り付いていて足は痛いから2匹の喉元掴んで握りつぶしてやりました、そうしてたら裕二って呼ばれてた人がやってきて私にこう言ったんです。
「お兄さんは休んでて、ザコは僕の役目みたいだから」
もう知りません、あらそうですかぁて具合ですよ、お言葉に甘えて私は道路脇の縁石へ腰を下ろし裕二って人見てました本当っ疲労のピークでしたから、そしたら何始めたと思います先生?自分の口の中に指突っ込み何か引っ張り出し始めたんですよ、思わず嘔吐きましたね何も食べてないから何も出なかったですけど2回嘔吐きました、奇術ってやつですか最近は見ないですけど、どんどん喉から引っ張り出すんです黒と赤の模様だったかな長細い物を、そろそろ全容が分かるかなって思いました、だってどう考えてもその長さは喉から胃の辺りと同じくらい、まぁ続いて万国旗でも出るならまだまだ続くかなって、ところで奴はどうなったか?知りません今は目の前の奇術に目が釘付けでしたから、でもですねその人まだ続けるんですよ長細い物の後に今度は黒い円形の、ここで私わかりました、何かわかりますか先生?それ日本刀なんですよ、だから黒い円形の後もまだまだ出てきましたよ小豆色の漆塗りなのかな唾液が絡んで汚って思いましたが鈍じゃない感じは伝わりました、全部出し切ってその人も嘔吐いてました当たり前ですよね、本当笑えます、刀を引っ張り出して何をするのだろうと見てたら鞘から本身を抜くと餓鬼を脳天から刺し始めましたザコにはザコ、そんな意味だったんですね、餓鬼は蜘蛛の子散らすように逃げ回ってましたが、あれ?そう言えばあの人刺し損ねがなかった気がします"︎︎︎︎一刺一殺"︎︎そんな言葉ありましたっけ?
あー先生、やっぱり気になりますよね奴の事、いやいやいや顔に出てますって早く話せって、先生も欲しがるなぁ、それでですね逃げ惑う餓鬼を眺めてたんですよ気楽なもんです鼻歌混じりでしたね、そしたらたまたま視界の端に見えたんですよ、トンネル内にペタコンって気の抜けた音が響いて、いやベタァかな、現代アートのジャンルでペンキを缶ごと壁にぶち撒けるアートあるじゃないですか奴がですね、ぷっ、すみません思い出しただけで笑いが、奴ですねトンネルの内壁に描かれた抽象画みたいになってたんですよ、我が目を疑いましたよ庄崎のその後は知れませんがあの場で息があったのは先生と私、それに庄崎のボディガードですかねあれは、その3人、他の人はあっさり殺されちゃって消炭でしたね、あの人達荼毘に付される時、再度火葬されるんですかね?不謹慎な話ですけど、そんな赤子の掌を捻るが如き振る舞いの奴がですよ今度は逆の立場になってたんですよ、痛快と言うか色んな感情が入り混じって足の激痛も忘れて奴に近付いたんです何故か泣いてました、途中餓鬼の骸があったんで拾って奴に投げ付けてやりました、でもやっぱり消炭になってあぁ⋯って、奴も怪異としての意地があったんですかね壁から剥がれると男へ向かって行ったんです。
でも何度やっても同じでした形の違う抽象画になるだけ、あっどうやれば?ですよね信じられませんでしたよ、あの男はただ奴を思い切り殴り付けてました、ただそれだけ先生みたく法力がどうのこうのじゃなく殴るだけ、基本設定忘れてますよね触った傍から消炭にならないと、でも男は違いました何度も壁から剥がれてくる奴を連打、ラッシュでしたその光景に私も爪が皮膚に食い込むくらい拳を握ってました、やれーやれーって、そしたらですね奴、奴がですね鳴くんですよ小動物みたいな情けない声でキーキーと、気分爽快でした。
それからどの位続いたかな、でも逆に死ねないってツラいですよね永遠に苦痛が続く、まぁ奴に痛覚があるのかは知りませんけど、でもそんな感じしましたね奴、逃げ出したんですよトンネルの薄暗い空間にスーッと
「逃がさへんでぇー裕二っ!」
男が叫ぶと裕二がすっと出てきて消えた辺りに刀をブスって、驚きました刀の刃先が消えたんですよそして刃を抜くと奴が引き摺り出されてきましたね、それで男が殴る、奴が逃げる、裕二が引き摺り出す、この繰り返し終始、奴はキーキー鳴いてましたっけ、もうどっちが怪異かわかったもんじゃないですよ、それからずっと見てたんですけどなんて言うかなぁ、先生から笑われるかも知れないけど何か奴が可哀想になってきて、それで私、裕二が逃げる奴を刺そうとした時それを止めたんですよ、裕二は困り顔、男は怒りましたねぇ『何さらしてんねん』ってその拳が今度は私に向くのかと思いましたが。
「もうええわ、興醒めや裕二いこかぁ」
そう言って2人は川崎方向へ消えて行きました、色々聞きたい事はありましたけど追う気にはなりませんでしたね先生置いてはいけないし、言い訳じゃないですよ、それにこんな話可笑しいけど2人とは又、逢える気がして、『また逢う日まで』上手すぎますね、それと奴は結局消えたまま姿を二度と見せませんでした·········
私は未だ意識の戻らぬ先生にICUのガラス越しに事の顛末を伝えた、きっと先生ならお元気になられた時『清井君も色々大変だったみたいだね』と言ってくれるはずだ、今はそう願うだけであった、そして私は真言宗僧侶“僧正”慈照が弟子として先生の留守を守る。
……Next chapter:場当たり




