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第1話:『孤独な死の足跡』

午後十七時。大学附属研究所の一角にある「夜の解剖室」は、まだ日差しの残る廊下の奥で、すでに夜の気配を帯びていた。


「三井さん、こちら。」

助手の宮本が差し出した封筒には、今朝届いたばかりの死亡届と解剖依頼書が入っている。

「……今回も、一件ですか」

葵は息を吐いた。奨学生でありながら、この研究所での経験は、すでに“日常”になっていた。


対象は八十歳の男性。孤独死。表向きは老衰だが、家族は誰もいない。

「孤独死、か……」葵は手袋をつけながら、ふと考える。自分の父も、事故で一人で逝った。あの日の光景が、心の奥でざわめく。


解剖台の上、静かに横たわる遺体。高橋教授がノートに目を落とす。

「葵、体表の痕跡は目立たないが、肝臓に微細な損傷がある。これは事故や自然死では見逃されるレベルだ」

葵は心の中で呟く。「小さな声も、確かにここにある……」


二人はデータを照合し、メモを読み解きながら、少しずつその人物の生活と性格を再構築していく。

「孤独だったんだな……でも、最後まで何かに抗っていた」宮本の声に、葵はうなずく。


解剖室の空気は冷たいが、二人の会話のリズムが微かに温かい。

やがて葵は気づく。死の理由を明らかにするだけでなく、誰も聞かない声を拾うことこそ、この仕事の意味なのだ、と。


封筒の裏に書かれた文字が光に揺れる――

『誰もいない場所で、あなたの声が届くことを』


葵は手袋を締め直し、再びノートを開いた。今日も、声なき声を探す夜が始まる。

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