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Episode3:暑さによる恐怖について

3話です。


「……少し暑くなってきたな」

「そうですね……私の体の部品も熱くなってます」

「クーラーつけようか……」


 まだ6月だというのに、世界は暑さに満ちていた。朝はそこまで高くなかったはずの気温は昼になって突然35度に達し、私たちは少し体調を悪くしながら冷房を運転させた。


「……アイス食べる?」

「あ、食べます」

「持ってくるね」


 幸いなことに私は三日前にコンビニで氷系のアイスを買っていたため、それを冷凍庫から取り出した。

 この家は防災的には優れているし、断熱性にも配慮されているから冷房をつければある程度快適ではあるが、やはり急な暑さであったため冷凍庫も困惑している様子だった。


「はぁ……」

 氷を体に入れながら、私はふと『不安に思った経験』を思い出した。

 あれは新卒3年目くらいのことだろうか?会社から出張先に向かっていた時の話だ。



────

「熱中症に気をつけましょう」

 報道番組でアナウンサーが何度もそう訴えていた。 どうも、この数年で熱中症で搬送された人間が15倍になったらしい。それは私としてもあまり無視できないことである。別に高齢者に限った話ではない。


「はぁ……」

 今日は出張であったが、この一番暑い日に丁度長距離移動をしなければならないのは不運だった。

 今は昔に比べれば建物の断熱性や冷房効率も上がっているから建物の中はある程度快適であるが、例えば駅のホームや建物外の道は非常に暑い。この国は高温多湿であり、日陰でも思ったほど涼しくないのは辛いところだ。

「日傘を……」

 子供の頃は日傘をさすことなんてなかったが、今や日傘は夏に欠かせないアイテムと化した。

 暑さを考えれば『湿度がもっと低ければより良いのに』とは思うが、しかし湿度が低すぎると火災のリスクが上がるからそれも嫌だと思い直す。


「……全く知らない街だな。ほんとうに」

 今日の出張先は今まで行ったことがない街だった。同じ国のはずなのにどこか別の雰囲気を感じるような、不思議な感覚があったことを覚えている。


 私はひとまず目的地に向かっていたのだが、地図を見て想像した道のりと、実際の道のりが合わない。別に道が間違っているというわけではない。ただ、距離感や肌に感じる風の感じがイメージと合わない。どこかもどかしさのようなものを感じながら、私はただ道を歩き続けた。

 そして目的地まであと少しであろうと思ったときに、私はふと目眩のようなものがして道の端に立ち止まった。幸いなことに人通りは多くないから、安心してそこにしゃがみ込むことができた。


「………熱中症か?」

 外はとても暑い。

 そして私の感覚は、熱中症に近いものだった。

 私はひとまずカバンに入っていた冷却グッズを取り出すと、それを使用する。

「……もってて良かったな」

 このとき私は非常に恐怖を覚えた。実際のところどうかはわからないが、ただ漠然と死を目の前にしたような気がしたのである。

 先ほど私は「人通りが多くなくて良かった」と思ったが、実はそんなことはないかもしれないと考えを改めることになった。そう、もしも今私が倒れたとしても、助けてくれる人などいない。誰も気付かずに、私はだんだんと意識を失うことになるのだ。

 これは私だけの問題ではない。誰しもがそういう状況に置かれるかもしれない。その事実は私を震え上がらせた。

────



 さて。話を戻すと、幸いなことに私はその出張を無事に乗り切った。そして、そのときの反省を踏まえてより暑さ対策を行うようになったわけである。

 しかし、もしも今の状態の私がその状況に置かれていたらと思うと、少しぞっとする。今の私はあの孤独感に耐えることができるだろうか。必要以上に胸が苦しくなるあの感覚と共存できるだろうか。


箱庭(はこにわ)さん?」

「…え?」

「少し顔色が悪いです。アイス枕を用意しますから、少し横になってください」

「あ……」

 (めい)は私を横にならせる。

「……ごめん」

「謝ることではないですよ」


 私は暫く、何も考えずにただ寝転がった。


箱庭(はこにわ)さん、大丈夫ですよ」

「……?」

「私がいますから。箱庭(はこにわ)さんは1人じゃないです。もう、1人で戦わなくて良いんです」


 (めい)は微笑みながらそう言った。

 情けないかもしれないが、私は今はその言葉が何よりも嬉しかった。

お読みいただきありがとうございます。

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