第三十七話 再会
リチャード王子に妊娠している事を告げたら、その場で襲われる事は免れたけど、結婚を回避することまでは出来そうにない。
このままでは人狼国に着き次第、無理矢理結婚させられてしまう。
船は海上に出て、数日経つ。
ハンナちゃんが、私の様子をたまに見にやってくるけど、リチャード王子はあれ以来姿を見せない。
彼も決して悪い人ではないのだろうけど、自分の一族を守る為に、私と結婚なんてやっぱり滅茶苦茶だ。
エドワード様にここから助けられたら、キースさんと話をして、何とかして貰わないと。
エドワード様はどうしているだろうか?
私を助ける為に、全力を尽くしているのだろうけど、きっと彼の事だから、港に先回りして待っているに違いない。
私の魔法が封印されてさえいなければ!
転移魔法でいくらでも逃げる事が出来るのに。
結局は私は流されるまま、こうして寝ている他ないのだ。
私は枕に突っ伏した。悔しくて涙が出る。
部屋のドアが開いて、誰かが入って来たのが分かった。
ハンナちゃんだろうか?
「もう夕刻だが、そろそろ港に着く。船を降りたら、そのまま我が一族の村を目指す。村に着いたら結婚式を挙げるから、そのつもりで」
そして、絶望的な情報を私に告げた。
「エドワード王子だが、彼は国境付近で俺達を捕まえようとしていたらしいが、俺が放った囮に掛かったらしい。本当は海路を取ったことも知らずに。いくら彼が転移魔法を行使出来たとしても、さすがに人狼国の港町までは転移出来ないだろう。行程的にこちらの方が早く着く。もう諦めろ」
それだけ言うと、リチャード王子は部屋を出て行った。
「そんな、間に合わないなんて」
わずかな希望すら、消えてしまうのか。
いいや、彼の事だから絶対なんとかしてくれる。
しかし、時間は無情にも過ぎて、私達はとうとう船を降りることに。
そのまま用意してあった馬車に乗り込む。
王族が使いそうな豪華なそれにハンナちゃんが乗り、地味な方に私とリチャード王子二人だけで乗り込んだ。
「ハンナちゃんは、どうしてあちらの馬車に?」
「ハンナには囮になってもらい、あちらは首都へ向かわせる。王族の結婚は普通は首都で挙げるものだからだ」
「どうして首都で式を挙げないの?」
リチャード王子は、少し間を置いて答えた。
「お前の存在が他の王子に知れた。お前は既に狙われている」
「え?」
「同じことを考える輩がいるという訳だ。次兄がお前の存在を知ったら、狙うのは間違いない」
まさか他の王子まで? そんなに人狼にとって私は魅力的なの?
「だから、奴らに見つかる前に式を挙げてしまうのさ」
馬車が走り出したところで、突然止まった。
「なんだ? どうかしたか?」
リチャード王子が、御者に声を掛けるが反応がない。
私も窓の外を窺うが、外は暗くてよく分からなかった。
「そのまま、馬車を降りるんだ」
反対側の乗り口から、聞こえた静かな声。
──まさか!!
「ふふ、まさかここで待ち伏せとは、さすがと言うべきか」
リチャード王子と馬車を降りると、白いローブに身を包んだ人物が。フードを上げて、現れた素顔に私は涙が出た。
「エドワード様!!」
私は迷わず彼に向かって走った。
彼に手を伸ばして、その胸に飛び込んだ。
「キアラ、良かった!!」
彼はぎゅっと私を抱き締める。
そうして、彼はリチャード王子を睨みつけた。
「さて、僕の妻を攫った罪は重いぞ。決して許されない」
「まだ、お前の妻ではない筈だ」
リチャード王子も負けてない。
「そんな事はどうでもいい。僕達は既にお互いの者だ。そこに誰一人として割って入る事は出来ない」
エドワード様は私の肩をしっかり抱き寄せながら、リチャード王子を牽制した。
「──兄上、見損ないました」
「なんだ? やっぱりお前もいたのか、キース」
リチャード王子が物陰から現れたキースさんを一瞥した。
「姫は、エドワード様の婚約者。それを略奪するなんて、ひいては国家間の問題に発展します。戦争でも起こしたいのですか?」
「一族を見捨てて、逃げたお前に何が分かる? 偉そうな口を叩くな」
険悪な雰囲気だ。
「お前が、お前こそが王になるべきなのに。誰よりも優れたお前が、なぜ? なぜ逃げた?」
問い詰めるリチャード王子に、キースさんはやるせない表情で顔を逸らした。
「それは、──言えません」
唇を噛み締め、辛そうな表情だ。
一体、彼に何があったと言うのだろう?
「負け犬が!! 一族の恥め!!」
「そこまでだ」
エドワード様が静かに制止した。
「君ら兄弟の事情は知らないが、僕らは全くが関係ない。幸いキアラは無事だったが、リチャード、君には相応の罰を受けて貰うぞ」
「ふっ、素直に帰れると思っているのか? 姫のその首のチョーカー、それはただの魔封じのアイテムではないぞ」
リチャード王子が意味深に笑った。
このチョーカーに何があると言うの?
「こんな鍵など、簡単に壊せる。問題ない」
「その鍵を壊せば、姫は死ぬ」
「!!」
な、何ですって!?
「脅しではないぞ? 一国の王子の婚約者を攫うんだ。こちらだって相応の覚悟がある」
「貴様、死にたいようだな」
エドワード様の声色が変わった。
彼の髪が漆黒に染まっていく。や、ヤバい!!
「な、なんだその髪は!?」
リチャード王子がエドワード様の豹変に慌てた。
「エドワード様!!」
「平気だ、僕は僕だ」
でもその横顔は、普通じゃない。
狂気の笑みが浮かんでる。
「エドワード様、駄目です!! リチャードを殺したら、姫も恐らく無事では済みません!!」
キースさんの声に、エドワード様は落ち着きを取り戻す。髪が徐々に元の色に戻っていく。
「どういうことだ、キース?」
「そのチョーカーは曰く付きの物、つまり呪いの品です。姫の魔力を抑え込むのに、リチャードと姫自身の命を代償にしている可能性が」
キースさんは厳しい顔で、話を続けた。
「そのチョーカーを通じて、姫はリチャードと一連托生の関係になっています。リチャードを殺せば彼女が死ぬ」
「ふっ、さすがだなキース」
リチャード王子がニヤリと笑った。
「何だって? そうしたらキアラは」
「そのチョーカーをしている限り、リチャードと運命を共にすると?」
「そういうことです」
エドワード様の問いに、キースさんが頷いた。
「鍵を外せ」
「それは出来ない相談だな」
何てことだろう。私はチョーカーを外さない限り、魔法は使えず、かつリチャード王子と運命を共にしてしまうなんて。
「お前を生かさず殺さず、一生監禁したっていいんだぞ?」
「だが、我ら人狼の寿命は永遠ではない。エドワード王子、いずれお前は一人になるのだ。彼女に先立たれて」
私が先に死ぬ? この人を置いて?
「そんな事は」
私は俯いた。なんという恐ろしい呪い。
「兄上、あなたをそこまで追い込んだのは私でしょうか?」
「そうかもしれないが、お前に頼らざるを得なかった俺の無力さも問題だな」
リチャード王子が自嘲気味に笑った。
「あの、要は第二王子が後継者にならなければいいんですよね? エドワード様、協力出来ませんか?」
「協力? はっ、今さらコイツに?」
エドワード様はせせら笑った。
「出来る事なら縊り殺してやりたいのに、この期に及んで協力しろと? 君はどれだけ甘いんだ?」
私はそれでも、彼に頼むしかない。
他国のこととは言え、自分が即位したら反対勢力を粛清してしまうような人を王にしてはいけない気がする。
「僕は決して、お人好しではないよ。ましてや君に危害を加えた相手を許せるほど寛容でもない」
「お願いします」
彼は仕方ない、という風に溜め息をついた。
「おい、リチャード。お前が後継者になるか、第二王子を後継者争いから脱落させればいいんだな?」
「出来れば後継者に」
「ふん、図々しい。僕が手を貸すからには、お前を必ず王にする。その暁には、キアラを無事に返してもらう。それでいいか?」
「分かった」
良かった! とりあえず交渉成立だ。
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