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第三十八話 雪と星空の地へ

 私達は、とりあえず今後の事を話し合う為に、リチャード王子とキースさんの生まれ故郷の村へ飛んだ。


 なんと雪が積もって、一面銀世界だった。

 辺りには本当に何もない。雪に彩られた森の木と晴れた星空のみ。星が降ってきそうとは、この事だろう。

 雪景色に星空、まさに絶景だった。


 エドワード様は用意周到で、防寒具を持ってきていた。

 例のごとく、宙から取り出した。

 まるで四次元のアレのようだ。もう何が出てきても、私は驚かない。


 そしてキースさんが転移魔法を使えるようになってた事が驚きだった。

 人狼国内の事情に詳しくないエドワード様の苦肉の策だったみたいだけど、うまく転んだようだ。

 元々能力の高い人だし、出来て当たり前だったのかも。


 基本、本人が行ったことのある場所にしか使えないんだもんね。


 私とエドワード様は客人として、村で歓迎された。

 新婚旅行で来たことになっている。


「本当はすぐにでも連れて帰りたい」


 私の体調を気にして彼が言う。

 私の口から彼に伝えることは出来なかったけど、子供のことは喜んでくれた。


「エルフのお姫様だ!! 可愛いね」


「ヒトの王子様なの? カッコいいね!!」


 人狼の子供達にあっという間に囲まれてしまった。

 みんな黒い髪、琥珀色の瞳をしている。


「エルフのお姫様は、この王子様のお妃なの?」


 可愛いくせ毛の女の子が聞いてきた。


「そうだよ」


「うーん、残念!」


「何が残念なんだ?」


 エドワード様が女の子に問う。


「リチャード様のお嫁さんにいいかなって思ったから」


「!!」


 エドワード様、笑顔が引きつってる!!


「色々腹が立つ事が多すぎて、笑い方を忘れそうだ」


 いつも愛想笑いでもよく笑ってる人が、相当きている。

 私は彼に無理なお願いをしたんだな。


「嫌な思いさせて、ごめんなさい」


「それはキアラのせいじゃない。悪いのはリチャードの奴だ」


「お二人ともこちらへ。暖かい部屋を用意してあります」


 キースさんに呼ばれて、私達は独特の建物の一つに入った。

 屋根の傾斜がきつくて、雪が積もりづらくなっている。

 部屋の中は吹き抜けで広く、部屋の真ん中に囲炉裏に似たような物があり、そこで煮炊きが出来るようになっていた。

 シングルベッドが並んで二つ、ここで泊まれるんだ。


「ここは、来客用の部屋です。体調は大丈夫ですか? だいぶ無理させたみたいですね」


「はい、なんとか」


 私はエドワード様に寄りかかる形で座った。

 そもそも彼がもう離してくれない。

 温かいミルクティーを頂き、ちょっとホッとする。


「簡単な食事も用意しておきました。今日はもう遅いので、私はこれで失礼します」


 キースさんはお辞儀をして、部屋をそっと出て行った。


 久しぶりに二人きりになった。

 エドワード様が、私の顔を覗き込んだ。


「キアラ、少しやつれたよ? ちゃんと食べないと」


「食欲なくて」


 離れていた時間を埋めるように、彼の胸に顔を埋めて私は目を閉じる。彼は優しく肩を抱いてくれた。

 やっぱり彼は助けに来てくれた。それがすごく嬉しかった。


「君が攫われたと聞いて、気が気でなかった」


「心配かけて、ごめんなさい」


 彼は私の額に軽くキスして、私をぎゅっと抱き締めた。


「子供も平気?」


「あ、大丈夫だと思います」


 つわりがあるのは、お腹の子供が元気な証拠だから。

 彼はそっと私のお腹に手を当てた。


「ここに僕達の子が。男の子か女の子、どっちかな?」


「元気で生まれてくれるなら、どっちでもいいですよ」


「女の子だったら、僕はきっと嫁にやれないから、大変だ」


 私達はお互いの顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。

 何やってるんだか。


「あ、これ返しとく」


 エドワード様が取り出したのは、いつのまにかなくなったネックレスだった。


「また攫われたら困るし」


 縁起でもない! もう攫われるのは流石に勘弁して。


 その晩は、眠るまでたくさん話をした。

 子供の名前を考えたりとか、延期した結婚式をいつにするとか。話は尽きなかった。

 でも私は彼の隣で安心したのか、いつのまにか眠ってしまったのだった。



 翌朝、早速リチャード王子とキースさんが現れ、今後のことを話し合うことに。


「で、具体的にどうするんですかー?」


 エドワード様はぞんざいな態度で切り出した。

 リチャード王子とは目も合わせない。

 すっごい棒読みでやる気がなさそう。

 いつもの猫はどこにいったのやら?


 キースさんは、そんなエドワード様の態度も気にせず、


「第二王子には、色々と良くない噂があります。それを暴いて、後継者候補から追い落とすか」


「うちには諜報活動に長けた手駒がいない、ていうか」


 リチャード王子が、エドワード様を睨みつけた。


「人前で、よくそんなイチャイチャ出来るなお前ら。俺に対する嫌味なのか?」


 私はエドワード様に肩を抱かれる格好で、べったりくっついていた。体がだるいのでもたれかかっている訳だけど。


「人のモノに手を出したお前が悪い。本当は八つ裂きにしても足りないくらいなんだ」


「まあまあ、お二人とも抑えてください」


 二人の仲は険悪だ。こんなにバラバラなのに、うまくいくんだろうか。


 エドワード様は普段は誰に対しても、あくまで表向きは穏やかで丁寧だけど、もうリチャード王子に気を使う気はゼロみたいで、本性丸出しだし。


「キース、お前が考えろ。僕はもうこんな奴のことで考えるのも面倒くさい」


 うわ、丸投げしたー!!


「有力な相手と結婚という手なら、第二王子の息の掛かっていない、第三勢力の娘を娶るというやり方もありますが」


「同族同士でお似合いなんじゃないの? とっとと話まとめてきたら?」


 エドワード様は、もう投げやりだ。

 やっぱり、この状態で彼の協力を仰ぐのは無理なんだろうか?


「姫と結婚が無理な以上、それしか手はないだろうな。数段ランクが落ちるが、それで我慢するしかないのか」


 ランクが落ちるって、相手に対して失礼だなぁ。

 リチャード王子ってそういうところがやっぱり無神経だ。


「最初からキアラと結婚しようなどと、考えるお前がバカなんだ」


「何だと!?」


 あーっ、もう喧嘩になっちゃう!


「お二人とも! 姫が困惑されてますよ。早速、私はこれから白狼族の族長に会いに行って来ます」


 キースさんが交渉に行くのね。

 リチャード王子は行かないのかな?


「お前が使者として行くのか? 俺が行かなくて平気か?」


「兄上が直接行くと、また面倒になりかねません。私にお任せ下さい」


 その方がいいと思う。キースさんなら上手くやれる。

 私達はキースさんを送り出して、彼の帰りを待つ事になった。縁談がうまくまとまれば、後継者に一歩近付く事が出来る。


 それにしても、キースさんはなぜ自分が後継者になろうとしないのか? リチャード王子も言っていたけど、キースさんの能力なら、誰にも負けないって。


「ねえ、エドワード様」


「ん?」


「どうしてキースさんは、自分で後継者になろうとしないんでしょう? 誰よりも優秀なのに」


 正直、キースさんは出来過ぎてるくらいの人だけ。

 思慮深く理知的で真面目で、そしてトリプルの魔術師でもある。一族始まって以来の天才だと。


 一族の危機を知っている筈なのに。


「何かキースには深刻な事情があるみたいだ。何気なく聞いたことはあるんだが、自分には資格がないと言っていた」


 資格がない? でも王子の身分では?


「確か第六王子ですよね?」


「王子なのは間違いないよ。母親は確かに側室だが、この国では能力主義だからあまり関係ないだろ?」


 うーん、ますます分からない。条件はリチャード王子も同じだし。


「キースをその気にさせた方が早い気がするんだけどな」


 エドワード様ですらそう言う。


「きっと良い王様になれそうなのに」


 彼の深刻な事情は、後に意外な形で明らかになる。

 私達は、まさかそんな事とは露ほども思わなかった。


いつもありがとうございます。

万人受けする内容ではないのですが、PVが地味に増えてきて驚いております。

感謝の気持ちで一杯です。数人でも読んで下さる方がいればいいなぁと載せ始めたのですが、本当に励みになります。

もう少し続きますので、これからもよろしくお願いします。


夜にもう一話更新予定です。

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