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◆01 海賊の人魚と記憶喪失の美男子

※この小説は修正する場合が多分にありますのでご了承ください。

 人魚は伝説の生物として、人に言い伝えられてきた。

 人は雲上の生物として、人魚に言い伝えられてきた。


 人は陸でしか、生き続ける事は出来ず。人魚は海でしか生きられない。

 陸と海は混じり合うことは決してないはずだった。


 けれど、ある人魚が海の魔女と取引をして人の足を手に入れた。

その代わりに人魚の失ったものは、決して小さなものではなかった。


 人魚は人の足で陸に上がった。“海の薔薇”を求めて。




 遠くで重い破裂音がして、海に水柱が立った。

潮風に乗って、離れたここにもしぶきが飛んでくる。船尾が沈んでいたから、もうあの船は二度と航海には出られない。ただ、水死者は少なく済んだことだろう。


 最後の大砲だったらしい。

 静かになる海上に反して、海の中の騒ぎは収まらなかった。逃げ惑う魚たちに何度体当たりをされたことか。鱗が数枚剥がれてしまった。

 いくら泳ぎが速いと言われていても、中々に大変な作業だ。


「これで終わりっと」


 水を蹴って抱えていた男を岩上に押し上げる。びたんと頭を打ち付けさせてしまったが、さして問題にはならないだろう。


 昇り行く太陽に逆行する海賊船を確認すると、ルージュは岩に手を置き、尾を振ってから、足をついて海からあがった。

頭を振って、日に焼けた茶髪から水を落とす。


「災難だったなあ、まさかこのタイミングでやってくるなんて」


 そうつぶやきながら服の裾を絞る姿は、年頃の青年のものだ。あるいは少年か。

引き締まった細身の体、そこから伸びる手足は細い。男にしては小柄なために、まだ発育途中にみえる。

随分と若いが、裾から垣間見える傷跡から幾千の修羅場をくぐり抜けてきた猛者だと知れた。


 粗方水を絞り終えたところで、引き上げた男が咳き込みはじめた。気が付いたらしい。

助けたのに死んでいたりされると非常にやるせない気持ちになるので、ルージュは安堵し、その場を離れようとした。

いつも介抱して、ろくな事がないからなのだが。


「うわ、……すごい美人だ……」


 つい男の顔を見ていまい、そのまま引き込まれるようにのぞき込んでしまった。

 艶やかな黒髪は白絹のような肌にはりつき、青白い頬を隠している。泥汚れや小さな傷があるものの、その美しさは際だっていた。


細い顎、高い鼻梁、丸い額。羽扇子のように長い睫。

正に、深窓の姫君という言葉があてはまる。

 しかし男である。

 勇猛な船乗り達を見慣れていたからか、ルージュから見て男はあまりにも貧弱に見えた。男が着ている簡素な服からはわからないが、海賊でないのは確かだ。

この見た目からして、売られる所だったのだろう。海賊船に乗っているのは海賊か、売り物かのどちらかしか無い。

 海賊であるルージュにとって、海軍に襲われたことは不運だったが、この男にとっては幸運だったようだ。


 それにしても水が髪から滴る様はこんなにも艶っぽいのかと、ルージュは見とれてしまった。病的な白さもあって、見てはいけないものを見ている気分になってしまう。

人形のような、それか死人のような静を具現化した美貌。……惹かれてしまうのは怖いもの見たさなのかもしれない。

 ただ一つ、死人と違う点は睫が震え、そこから赤い瞳が見つめ返してきた事だった。

視線が絡む。ルージュの胸は思わず跳ね上がった。


「うぅ……ここは、どこだ……?」


 男の掠れた声にルージュは我に返った。

目を開ける前は、ただ綺麗な容姿だと思っていたがなるほど、これならば捕まるわけだ。もしかしたら売られるのではなく、船長自ら閨に侍らすために船に乗っていたのかも知れない。

 男が完全に覚醒する前に、此処から立ち去ろうと思うのに、心の隅でもう少しこの美麗な男を見ていたいとも思ってしまう。

 誘惑に惹かれる己を叱咤してルージュは男から離れようとした。


 だが、急な動きに男は再度ルージュを見て、あろう事かその骨張った手でルージュの肩を掴むと抱きしめてきたのだ。

思いもよらぬ男の行動にルージュは抵抗出来ず、薄い胸板に顔を打ち付ける。


「な、何をする!? 離せっこのもやし男っ!」


 力任せに暴れると、筋肉のない男の腕はすんなりと解けた。そのまま起き上がろうとすれば、男は骨張った手でルージュの腕を掴む。


「お願いだ、待ってくれ! 置いていかないでくれ!」


 ルージュの力でも男の手は簡単に払える。なのに右手を払えば左手、左手を払えば右手と、男は弱いながらにしつこくルージュを離すまいとしてきた。

他人から見れば何遊んでいるのかとつっこまれるだろうが、本人達は必死だ。


 ルージュは海で溺れる者達を助けてきた。

人は弱っている時に本性が現れると聞くが、ルージュはそれを実感してきている。

 介抱すれば次にあれをしてこれをしてと要求され、徐々に増えていく。弱っているのだからと理解は出来るが、増長する求めに嫌気がさすのだ。それならば、命は助けるが後は放ることにしていた。


 それが、今回は男に見とれてしまい逃げる機を失ってしまった。助けることに悔いは無いが、その後は全く持ってろくな事がない。ルージュは舌打ちした。

 男は尚もルージュに縋り付く。


「わからない。……わからないんだ! 何で俺は此処にいる? どうして俺はこんな所に? 俺は一体何者だ?」

「…………覚えていないのか?」


 ふと、海から引き上げた時、男が後頭部を打ち付けていたのを思い出した。大きなこぶになっているだろう。


「あんた、何か知らないのか? 何故俺は覚えていない? 一体何がっ」

「記憶喪失……いやいや、まさかあれが原因とか」

「……」

「……」


 錯乱しかけた男は、ルージュの零した言葉に沈黙して、赤目でじっと見つめてきた。

しまったと、動揺を悟られないように、同じくルージュも見つめ返す。どのくらいそうしたのか、長い時間に感じられた。


「……お前のせいか?」

「…………そう? かも?」


 男は逃がすまいとルージュの腕を掴んだままだが、ルージュは逃げる気を失せていた。

 頭を打って記憶を失う。あり得ないとは言い切れず、断定はできないためにルージュは曖昧な返事をするしかない。溺れたためか、頭を打ち付けたためか、もしくはその他が原因か、わからない。

 自信なく答えたルージュに、男は目を細めた。


「……そうか、わかった。責任取れ」

「は?」

「お前のせいだろ?」

「いや、でも違うかも――」


「おまえのせいだろう?」


 ルージュの言葉を遮り、言い聞かせるように男はゆっくりと言って、にやりと笑んだ。口は弧を描いているというのに、獲物を見つけた肉食獣みたく光る目は笑っていない。ぎらりとルージュを睨め付けてくる。

 ただでさえ美丈夫なのに、炎のように赤い瞳で凄まれれば、その迫力に誰しもが圧倒されて恐怖を感じるに違いない。

さっきまで倒れていた男と同一人物かと疑いたくなるほどに、男の雰囲気は一変した。


「…………医者に連れてってあげるよ」


 咎める男の赤い視線から逃げるように目を逸らす。

男の言葉はルージュの罪悪感を刺激するには十分だった。


 それに、なにより怖い。

 本気になれば、この細い体だ。弱ってもいるし、ルージュなら男から逃げるのは簡単なこと。

しかし、逃げたとしてもこの男は亡霊になってでも追ってくる気がした。それだけの執念を感じて腹の底が冷えたのだった。

お読み頂き、ありがとうございました<(_ _)>


 色々な意味でテンプレ展開になると思います。痛いです。

文章の腕前が上がることを祈りつつ、何故かホモホモしい展開になって狼狽えてたりしますが(設定からしてそうでしたorz)、生ぬるい目線で眺めてくださると助かります。


 ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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