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◆02 海賊の人魚と記憶喪失の美男子

 早くこの土地から離れないと面倒になるかも知れない。

こんな事をしている場合では無いのにと焦る心を抑え、見たまんま軽い男に肩を貸して医者に連れて行った。


 診断は一時的な記憶喪失。しばらく療養すれば直に思い出すらしい。

大したことはなかったとルージュは安心して、医者に男を押しつけ町へ出た……つもりだった。


「なあ、頭の後ろにでっかいこぶが有るんだが」

「……」

「かなり痛いんだけど?」


 そのこぶは、紛れもなくあの時に出来たものだ。つまりは、ルージュのせい。


 二人が歩いているのは、ならず者の町だった。

あちこち崩れていたり、人為的に傷があったりと、壊れた建物ばかりが並んでいた。歩くのも浮浪者や世捨て人、公然に出られない無法者達。勿論その中に、ルージュの様な海賊も含まれている。


 普通の町医者に診せるべきだったのだろうが、破れた衣服やそれでは隠せない傷跡ではルージュは怪しまれてしまう。ルージュでは男を連れて普通の町には入れなかった。

 ただ、この町の医者とは顔見知りだったのが良かった。賊ではあったが気が弱く、まあまあ信頼が置ける医者だったのだ。


「なあ、責任取ってくれるんじゃ無かったのか? 怪我をして、尚かつ記憶喪失の人間を放るとは、お前に流れている血は緑色か?」

「あー! うるさいなあ、もう! わかったよ、水袋を買ってやる。それで冷やせば良いだろ。記憶だって直に戻るって言われたじゃないか。それに、わたしは責任取るなんて一言も言ってないぞ? 安全な所まで送ってやるからそれで満足しろ」


 押しつけてきたはずの男は、医者を言いくるめて追いかけてきた。

そして腕が痛い、頭が痛いと体の不調を訴えてくるのだ。溺れたばかりなのにそれだけ動けるのだから、男の訴えは明らかに嘘っぽい。

 だがルージュの罪悪感を針で刺すように言ってくるので、強く言い返せなかった。たんこぶについては、男の高い位置にある頭を見れば一目瞭然だったので、無下にも出来ない。


 肩を並べて歩くと、男はかなり背が高かった。平均よりもあるだろう。小柄なルージュは見上げるばかりだ。

けれど、高い背に比べて悲しいほどに筋肉が無いようだった。地に足をつけてしっかり歩いてはいるが、風が吹けば折れそうだ。細すぎる。


 そんな荒くれ者には一切見えない男と歩いているものだから、さっきからすれ違う人々の視線が痛かった。


彼らは金になるものにはとことん目がない。

顔の利くルージュと共にいるから大丈夫なものの、この男が一人になれば瞬く間に連れ去られる。

 間違ってもこんな賊だらけの町に居て良い人物ではなかった。


「いいか、わたしは海賊だ。この町は海賊達の拠点にもなっていて、恐ろしく治安が悪い。わたしと一緒に居るからあなたは無事なんだ。医者の所からなら此処を通らず、安全に大きな町へ行けたろうにな」

「……ふーん」


 医者の家はこの町の外れにあった。賊達に姿を見られず、安全なところまで帰れると忠告したはずだったのに。

拐かされるのはわかりきっているから、これでは下手に置いていくことも出来ない。


 嫌みを言ったルージュに、気のない返事をする男。ルージュは苛々としつつも共に店に入る。


雑多に物が置かれた、妖しい店だ。この町ではそれが当たり前。

 店主は、ルージュの隣にいる男を見て値踏みするような粘りのある視線を向けるが、ルージュが睨むと商売人特有の作り笑いをしてごまかした。

 たったこの今、無言でこの男の未来が取引されていたというのに、本人はぼんやりと商品を眺めているばかりなのだから、ルージュは呆れる。


 どうして男はついてきたのか、理解できない。ルージュもならず者の一人というのに、身の危険を感じないのか。

考えられる理由とすればルージュに対する嫌がらせかと思いつつ、新しい服や食べ物等目当ての物と引き替えに、持っていた金を渡して店を出る。

診察代もけっこうしたのにと、悲しくなりながらも軽くなった財布を懐にしまった。


 この男は自分の容姿について自覚があるのだろうか。それさえも忘れてしまったのかと苛立つが、ルージュには男が何を忘れていようと関係のない事だった。

 同じ船に乗っていたとはいえ、男についてルージュは何も知らないし、男も聞いてこないので特に教えることも無い。

むしろ海賊に捕まっていた記憶は、忘れた方が幸せじゃないかとも思う。


 さっさとこの男を送り届けて、この土地から離れようと、ルージュは自然と早歩きになった。

 ルージュの歩く速度が上がっても、身長差もあって、悔しいことに男は悠悠と隣に並ぶ。


「ところで、あんたの名前は? 俺はオールト……名前だけは覚えていたんだ」

「ふん、それは良かったね。……わたしはルージュという、覚えなくて良いよ」

「……それなりに名の通っている海賊なのか?」

「まあね」


 医者の家や、店でのやりとりを言っているらしい。顔を覚えられているのもあって話が早かったからだ。


ルージュは海賊として名が通っている……あまり嬉しいものではないが。海軍や、海賊と違い、一般人なら知る由もないくらいの通り名だ。

逆に、それを知っている賊達は、滅多にルージュに手を出すことはない。


 町を出ると、今度は海沿いに行く。遠回りになったが、もうしばらく行けば一般人が暮らす、安全な町へ着くはずだ。

 その間、男は絶えず質問してきた。それも自分のことではなく、ルージュのことばかり。

 ここで別れるのだからと、暇つぶしにルージュもぽつりぽつりと答えてやった。


「どうして海賊をやっているんだ? 儲かるのか?」

「さあ? 儲かるんじゃないか? 他の奴らは知らないけど、わたしはある財宝を探して海賊をしているんだ」

「財宝? どんなのだ?」

「“海の薔薇”って言われているけど、詳しいことはわからない。薔薇って言うくらいだから赤い宝石の類かと思って当たりをつけているんだけどね。探し当てたのはどれもわたしが探している“海の薔薇”じゃなかった。今回もはずれだったし」


 ルージュは歩きながら、懐から手のひらに収まる大きさの、赤い宝石を取り出した。

元はどれほどの大きさだったのか、その宝石は薔薇の形に削られ、日の光に美しく煌めいていた。売れば大金が手に入るのは想像に難くない。


「盗んだのか?」

「……穏便にすませたかったのだけどね。上手くいかなかった」


 短くはない期間をかけて盗った物だ。よもやその時に海軍が現れるとは予想できなかったが、苦労して手に入れた財宝は、残念ながら求めていた物ではなかった。

ルージュにとってこの宝石はただの石ころ同然だ。


「……ほしい?」

「いいや」


 男は即答する。同じ色の目を疲れたように閉じて、首を振った。

普通の人なら涎物だろうに、ルージュを警戒しているのか、それとも無欲なだけか。

変わった男だとルージュは思った。


「さあここまでくれば、あなたでも大丈夫だろ。詫びじゃないが、これをやる。ああ、水袋を渡し忘れていた」


 ずっと、町のならず者達を牽制していたから忘れていた。ルージュはあまり意味がないなと苦笑して、買ったばかりの食糧と共に渡す。

つい話に夢中になってしまい、予定より来すぎてしまった。このか弱い男にとっては有りがたいことだろう。


「……オールトだ」

「何でも良いだろ。あなたとはもう会うことはないだろうし、名前なんて覚えたって意味がないよ。わたしの名前も忘れてくれ」


 むっつりと名前を訂正して、お礼も言わない男にルージュは肩をすくめる。

思えば、貧弱な(なり)をして、終始態度はでかかった。

ルージュではない別の海賊が相手だったら即斬りかかられるだろう。海の男は大らかと言われるが、そんなのは一部だけなのだから。


「悪いけど、これ以上わたしに出来ることは無いよ。あなたを助けて、ここまで送りと届けてやった。後はわたしから離れるだけだ。真っ直ぐ行けば大きな町がある」

「……ついていっては駄目なのか?」


 また責任が云々(うんぬん)言われると身構えていたルージュだったが、男はついていきたいと言い出した。……冗談ではない。

 やっぱり、この男は自分がならず者達にどう見られていたか分かっていなかったようだ。


 言うなればこの男は金のガチョウ。金を生むし、見目も良い。食べることも出来る。そんなガチョウは金に飢えた者達からすると、どんな手を使ってでも手に入れたいはずだ。無論、死んでもとはいかないが。


 同じ穴にいるルージュだが、ルージュは金や美しい物に興味はない。あればいいと思う程度だった。

それに、こんな弱々しい男が一緒では荒くれ者達の世界ではやっていけない。


「足手まといは要らないよ。あなたはわたしみたいな(わる)と一緒に居ては生きていけない人だ。これから先、関わらないように気をつけな」


 じゃあなと、男が反論を口にする前にルージュは元来た道を歩き出した。後から男の声は聞こえなかった。

以降、邪魔な後書きがつきますので、ご注意ください。読み飛ばし推薦です。おふざけの鬱憤晴らしなので水に流してやってください……。



※登場人物紹介(ネタバレ有り、キャラ崩壊、読み飛ばし推薦、以降追記有り)


*ルージュ

主人公。日に焼けた茶色の短髪、青い目をした人魚。“海の薔薇”を探して海賊になったが、その性格から要らない苦労をする。ヒーローを助ける系ヒロイン。


一番書きにくい……ですorz

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