第57話 メイハオ村から再び始まる物語
第一巻を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
これからも引き続き、読んでいただけたら嬉しいです。
私はついに、カイオスから、より正確な知識を聞けた。
あの二十冊の本は、書いてあること自体は、
だいたい合っていた。
でも、
完全に正しいわけじゃない。
夢魅族は、構造を持たない、
魔力の集合体らしい。
彼らのいう「身分」は、私には外殻のようなものだと、
理解できた。
外殻がない利点は、必要に応じて、
自分で形を作れることだ。
私たちみたいに、元から外殻を持つ生物には、
気功は呼吸みたいなものだ。
生物は気功を吸収し、それをエネルギーと、
廃棄物に変える。
その廃棄物を、私たちは体内に蓄積し、
魔力と呼んでいる。
放出された魔力は、精霊に変換されて、
再び気功へ戻る。
そうして循環が続く。
食べさせた精霊は、
意思に応じて、
自然の力を貸してくれる。
精霊に餌を与え、力を使う工程。
それが魔法だ。
ただし、正統な教育を受けない者は、
精霊の存在を知らない。
精霊は神と、その代言人にしか、
見えないからだ。
でも夢魅族には、外殻の壁がない。
だから気功を、簡単に吸収できるし、
魔力として蓄え、放出もしやすい。
その代わり、気功を体内に留めるのは、
あまり得意じゃない。
だからこそ、彼らはそれに敏感だ。
夢魅族にとって、気功の欠乏は、
命綱を絶たれるのと同じ。
エネルギーを得られず、
死は一瞬で訪れる。
だから彼らは、外殻を持つ生物を、
模擬する必要がある。
分解精霊は、細胞や物体の中で、
気功や魔力を蓄える部分。
そこを壊す存在だ。
その結果、
大量の魔力が一気に放出され、
物体や細胞の安定構造が崩れる。
そして私が壊しても、周囲に十分な気功があれば、
黒牙は本能で、すぐ構造を再現してしまう。
逆に、儲気石は気功を吸うから、
あれは有効だった。
「でも、君たちは生まれた時から、
生物を模擬する訓練を、受けるんだろう?
つまり、身分を作る訓練だよね。
それなら、大半の問題は、
解決するんじゃない?」
私はふと思った。
そんなに強いなら、この世界に夢魅族が、
あふれていても、不思議じゃない。
でも実際は、どうも違うらしい。
「もし君が、
数学の天才だったとして。
僕が基礎の数字も教えず、最難関の問題だけ、
渡したらどう思う?」
私は首を横に振った。
カイオスは、そのまま続けた。
「だから当然、過程は必要なんだよ。
その過程には危険もあるし、
正しい道筋を引き当てるのも、
一つの才能なんだ。
最初に植物を模倣するなら、毒のある種類を選ぶ。
動物に食べられないためだ。
安定した身分を保ち、長時間の変形も維持できたら、
次は動物へ進む。
たとえば狼の群れに入り、幼体が死にやすく、
成体の行動を必要とする点を、利用するんだ。
機を見て紛れ込めば、群れの生活様式や、
基本的な社会構造を学べる。
最後は、集団と文化を持つ生物だ。
そして死者の身分を継ぐのは、
とても有効な手段になる。
危険は大きいけど、生存環境の質も高い。
だから長く生きた夢魅族ほど、
そうする者が多い!」
私はようやく理解した。
本体は、あの変形する、
魔力の球みたいなもの。
そういうことだ。
「見破られずに、完璧に模倣するには、
実地経験が必要なんだ。
だから時間をかけて、
自分で次の段階へ進む方法を、見つけるしかない。
自然に目標の群体へ混ざれれば、その群体の保護も、
世話も受けられる。」
「夢魅族の群体って、大きいの?
実はメイハオ村や、皇城にも、
たくさんいるの?」
「ありえないよ。
一人でも正体がばれたら、近くの夢魅族まで、
被害を受ける。
特に百年前の人間大戦では、大規模な狩りが行われた。
僕の信徒も多くが、魔力源として捕まった。
あの魔道具は最悪だ。
身分を完全に剥がして、夢魅族そのものを、
魔道具へ組み込むんだ。
本当に胸が痛むよ。
でも彼らを苦しみから救うには、
封じられた魔道具を見つけた時、
壊すしかない。
それでやっと、安息できる......。」
カイオスの整った顔に、わずかな憂いが差した。
何かを思い出したようだった。
「今は多くの夢魅族が、
後輩に次の段階へ進む方法を教えたがらない。
でも君の話では、相手は幼体を教えようとしていた。
それを聞いて、変わろうとしている信徒が、
いるのかもしれないと思った。
それは悪いことじゃない!」
今の私は、完全に悩みの中にいた。
でも、
私は本当に長松と、離れたくなかった。
知れば知るほど、このままじゃ私が、
長松の「生存」の機会を、
奪っている気がする。
別れるその日、
どうなるんだろう。
考えれば考えるほど、
苦しくなった。
「そんなに落ち込むなよ。
僕もちょっと、
やりすぎだと思ってる。
ヘフィスからも、君の事情は聞いた。
僕は君が長松を、害すとは思わない。
黒牙とは、
長松を学ばせるって、
約束すればいい。
その上で、
長松はそのまま、
君と暮らせばいいんだよ」
「そんなに、うまくいくかな。
私はあの人と、衝突したんだけど!」
「黒牙は僕の子なんだ。
ただ、狩犁のために、
別の神を信仰してるけどね……。
どうしても駄目なら、僕の名前を出していいよ。
僕ほどの神が、
自分の種族の性質を、あいつより知らないなんて、
それこそ失格だ。
たぶん、
あいつも譲歩する。
白爪も、僕が手を貸して生んだ。
狩犁に夢魅族だと、
知られるのを恐れて、養子の義子って形で、
あの家に置いたんだ。
前に助けた恩もあるし、
あいつは考えるはずだ。」
「もし黒牙が長松を連れて行って、気配まで隠したら、
見つけられる自信がない!」
「安心しろよ。一つ方法を教えてやる!
それでも不安なら、先に黒牙の核へ、
近づく方法を考えるといい。
そこへ君の魔力を、流し込めば、
黒牙が印を消すのに、二、三百年はかかる。
その間は、
どこにいても追えるよ!」
カイオスは笑っていた。
でも途中から、声が少し冷たくなった。
「いいかい……。
これは他の誰にも、言わないでね。
言ったら、
僕は本気で怒るよ。
この情報を消すために、かなり時間をかけて、
監視までしたんだ。
話を戻すけど、
君の威圧は強すぎる。
あの場面を見て、僕は笑いそうだったよ……」
「えっ、あなたの子なの?
そんなことまで、私に話していいの?」
「長松には、信仰がないんだろう?
僕も、あれこれ儀式をさせて、
困らせる気はない。
ただ、悩んだ時に、
僕という神を、思い出してくれればいい。
僕が守ってあげる!」
私はうなずいた。
でも、
さっきの警告のせいで、背中がぞくっとした。
この交換は、損じゃない気がする。
それに、さっきヘフィスって、
言っていた。
カイオスがここに来たのは、
偶然じゃないのか。
最初から、こうなる可能性を、
知っていたんだろうか。
「ヘフィスのやつ、俺の兄弟まで、
巻き込みやがって!」
「兄上、
落ち着いてください。
僕も妹も、気持ちは分かります。
兄上の博愛が、焔華村の信徒を、
怒らせたんです。
だからあの人たちは、兄上を捕まえようとした。
ふふ、滑稽な話ですけどね。
でも兄上は、しばらく神域に、
隠れていたほうがいいです!」
「どういう意味だ?」
「焔華村へ戻った時、村長が一晩、
泊まってほしいと、言ってきたんです。
長いこと、
会えていなかったからって。
それで、
妙に大きな長屋まで用意して、
床一面に寝具を敷いていました。
でも老子は忙しくて、断ったんです。
そしたら相手は激怒して、
あの女たちは、
どこで手に入れたのか、
神を拘束する道具まで、持ち出してきた。
だから老子の服は、
あんなふうに破れてたんだ。
幸い、息子が……そうだ、
俺の息子の鷹俊が、母親がこれ以上、
神に無礼を働かないように、老子の拘束を解いた。
それで老子は、
みっともなく逃げ帰った。」
プリーモスの顔色が、さっと青くなった。
「兄上の信徒たちは、
神の血を欲しがってるんです。
だから今、兄上を大々的に、
探しているんですよ!」
「玉秀、
兄上は手を出せない。
でも、
どう動くべきかは、
君なら分かるはずだ。
それでも情報が足りないなら、
僕もここにいるよ。
お菓子もあるし、
話し相手にもなれる。
ヘフィスのやつ、
もっと早く僕に、
話すべきだったのに。
うまくいくといいね、玉秀......!」
「ヘフィスとは、
あんまり仲良くするな。
性格が悪くなるぞ。
玉秀、
老子も悪かった。
でも、
話したくなったら、
老子はここにいる」
二人に別れを告げた後、
私は目を覚ました。
気づけば、
もう夕方六時だった。
私は酒場で使うはずだった、
陽陰幣の袋を強く握りしめ、
慌てて家へ走った。
もう泰勇が、夕食を作っていた。
泰勇は甘い声を出して、
私を見上げる。
「玉秀、主人。
だいぶ顔色が、よくなったね!」
「うん。
二日後に、長松を迎えに行くよ。
その時はみんなで、焼肉屋に行こう!」
あと二日で、
計画を立てなきゃいけない。
不安がないなんて、そんなの嘘だ。
それでも私は、
目の前のどこか間の抜けた泰勇と、
部屋にいる長松を見た。
気づかないうちに、
私はもう変わっていた。
もう長いチーム契約が、できていたんだ。
そして私は、「家族」という契約も、これから先へ、
続けていく。
もし気になる点や、文法の違和感、
分かりにくかった部分があれば、ぜひコメントで教えてください。
第二巻も整理でき次第、近いうちに投稿する予定です。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。




