第21話 『壁の偽ヒーロー』⑨
「私の最初の記憶は2ヶ月ほど前、外巣で裏路地の浮浪者にナイフで捌かれそうになった物でした。」
「何とか隙をついてその浮浪者を殺したのが私がこの国に来た最初の記憶です。」
この国は下巣までは何とか国の保護を得れる。
でも外巣だと話は別、人が住んでいてもその人達はまともな保護は受けられない。
生きるための強盗や殺人は全て見逃される。
法のある法の無い場所。
俺はレオンさんやヤンさんに出会えたから良かったが出会えなければきっと俺は外巣でバラされるか見世物として売られてただろう。
「名前も無ければお金もない。誰かから食料を奪う事しかできない私が行き倒れかけるのも時間の問題でした。」
「そんな生活を1ヶ月ほど続けていた時に私を拾い上げて名前をつけてくれたのが今の命令主です。」
「1ヶ月前…ちょうど『壁の偽ヒーロー』が出現した時……」
俺がこの国に来るほんの少し前。
俺が異世界に若干の興奮を覚えている時にカルマーはこの国の影の部分を這っていたのか。
「下巣に侵入した後は命令主のお言葉を遂行する。」
「命令主からの依頼を完遂すれば食事ができて飢えなくて済む。ただその為に私は『ヒーロー』を演じる。ただそれだけです。」
「……」
話していくにつれてカルマーの目には諦めが滲んでいく。
自分の考えを捨てて誰かの考えで動く操り人形、親の言いなりとなって自分の道を見ない子供。そんなふうに見えた。
「……君はそれでいいのか?カルマー」
「……良い悪いは分かりません。ですが自分で考えるよりはずっと楽なので。」
目に映る諦め、道を見てた人が疲れた、なにかに縋って生きているように見えた。
俺は特殊な状況かつレオンさんやヤンさん、何も分からない人?だけどアインのお陰で道を見れた。
でもカルマーのようにどん底スタートだったら?
きっとカルマー同じように手を汚しながらなにかに縋る道に行っていたと思う。
だから俺は親近感を覚えたのだろう。
「パン、ありがとうございました。では」
カルマーは立ち上がりスっと裏路地に消えていった。
それを俺は追わなかった。いや追えなかった。
カルマーの境遇と俺の親近感の正体、質問の内容が頭の中を巡る。
「はぁー、こりゃ思ったより厄介な依頼みたいだ……」
道を見失って誰かに手を引かれている子供、大人の悪事に巻き込まれた子供。俺も結局高校卒業前にこんなことになっちゃったから実質子供だけど話していてカルマーはそう見えた。
外巣からやってきて生きるためにこんな事をしている。どっちかと言うとカルマーも被害者だな。
ぐぅ〜…
「……とりあえず帰ってご飯食べよ」
元々考えていた捕縛案を取りやめて新しい案を考えながら俺は家に戻った。
―――――――――
家でご飯を食べてるとブラベさんに報告が終わったのか封筒のような物を持ってオーウェンが帰ってきた。
ちなみに食べてるのは切ったパンにチーズとトマト、細切れにした干し肉を乗せたものである。
「あ、いたいた。アウル、ブラベ協会長に連絡してきたよ」
「おかえり。オーウェンも食べる?」
「遠慮しとくよ」
俺の横に座り封筒から資料を取り出す。
「ブラベ協会長に報告した内容、『壁の偽ヒーロー』については作戦通りで問題なし。ただ問題はこの刺青アロハシャツだ」
オーウェンの持ってきた資料を覗き込むとそこには様々な事が書かれていたが一際目立つものがあった。
「『カチャカチャ派』構成員の可能性?この前一斉検挙されてなかったっけ?」
「あれは『ガチャガチャ派』だよ。カチャカチャ派はその派閥の1つ、星クラスが従事した物だからまさか残ってるとは思ってなかったみたいだ」
カチャカチャ派……でもなんでそんな派閥のやつが……
もしかして?
「オーウェン、ブラベさんは他になにか言ってたか?」
「うん、本来地位的に調べにくいところを星クラスの人の力を借りて調べたらしいけど僕たちの依頼主達、汚職の疑惑で立場を追われてるみたいだ」
今日あったカルマーの話、依頼主の汚職疑惑、マフィア集団のカチャカチャ派が何故か居る、それに被害の受けたところは全部依頼主がバックに居る店。
ここまで要素が集まってくるともはや笑えてくる。
「オーウェン、この前俺が腹立たしいって言ってたの覚えてる?」
「ん?うん覚えてるけどそれが?」
俺は紙を取り出して広げ、今回の要素を書いていく。
「まず俺たちの依頼主の商業街の財務担当と治安維持担当、その2人からの依頼で『壁の偽ヒーロー』を捕縛、撃退の依頼を受けた。それも俺は階級の制度を強行してまで」
「そして被害店は何故かどの店舗も中を探らせてくれなかった」
「どの店も2つから支援を受けていて俺たちが依頼を受けている事を連絡されてないということは考えにくい。たとえ連絡が来てなくても俺たちが依頼を受けたことを確認することはできたはずだ」
要素を一つ一つ書き出して紐で繋げていく。
見えないものを手繰り寄せるようにゆっくり。
「次にカチャカチャ派。俺は今日『壁の偽ヒーロー』であるカルマーと出会って話をした」
「カルマーは外巣で拾われた後、下巣で『壁の偽ヒーロー』を演じていると言っていた。そして店舗の情報なんかは拾ってくれた命令主、そのカチャカチャ派から貰っているとも言っていた」
「どこがどの支援を受けているかなんて依頼を受けた俺たちか関係者くらいしか分からない」
「商業街から流出した可能性は?」
「中巣は立場争いが酷い。流出したのなら躍起になって揉み消しに行くだろうからおそらく無いと思う」
「流出で無いと仮定すると可能性として残るのは内部犯行、しかもここまで派手にやられてるのにほとんど動いてないところからかなり上役が情報を流してる事になる」
ここまでが俺たちの今手に取れる情報。
ここから先はおかしな点を見ていこう。
「まずここまでおかしな点がいくつかある。なぜ階級がここまで下のやつを選んだのか?」
「そしてなぜ依頼を俺たちだけにしか出していないのか?」
「そしてなぜここまでやられて依頼主の治安維持担当は動かないのか?」
「たしかに、中巣で地位のある人が自分の支援先の事件にここで費用を気にするとは思えない」
「それにもう1つ、どの店も復旧が早い。何故でしょう?」
俺はあえてオーウェンに直ぐ答えを出さない。
説明をサボったのでは無い。自分で理解した方がスムーズに動ける。そう思ったからだ。
「階級……動かない……まさか!」
「この依頼は依頼主に仕込まれた物!!」
「さらに言えばこの前に来た大量の手紙、多分俺たちを見てる何かが居る」
「おそらく依頼主達は自分たちの汚職の証拠を『壁の偽ヒーロー』に消してもらってその後に俺たちごと消すって魂胆だろうな」
「自軍を動かすよりも安上がりだろうし」
部屋の中が静まり返る。
そりゃそうだ、初めての指名依頼がこんな大事になって行くのだから仕方ない。
「まぁでもまだ手はあるしその手は考えてる」
「本当かい?」
そう手は打っているのだ。
後は作戦日に上手くいくようにするだけ。その為に俺とオーウェンの二人で作戦会議をするのだった。
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ステータス
名前:アウル ■■ ■■■
種族:ヒューマノイド
属性:水
称号:【巡る者】【第1の■】【閲覧不可】
所属:森林協会所属冒険者[種 2級]
魔法:低級
固有能力:耐性【完全防腐】
創出【素敵な糸】
能力:熱耐性IV
冷耐性Ⅲ
打撃抵抗Ⅱ
精神疲労抵抗Ⅰ
撥水Ⅰ
熱ある中書いてるためいつも以上に見にくいですがご容赦ください。




