第12話 『フィクサーのアトリエ』③
転生では無い、いや転じた先で生きてるからある意味転生か?
俺の中で何かが噛み合う感覚、歯車がお互いを離さないでようにガッチリと。
だがそれと同時に締め付けられる感覚がした。
ここじゃないどこかから見られ、糸で繋がれているような、それでいて不快ではない感覚。
そんななんとも言えない感覚に若干の戸惑いを持っていると何故か気分の良さそうなフィクサーが声をかけてきた。
「考えはまとまりましたか?」
「はい、すみませんお待たせして」
「いえ私も興味深い物を見れましたので。」
「それでは先程話しそびれた能力について、お話しましょう。」
俺の魂が混在している事に困惑していたせいで聞きそびれていた能力について。
嫌われるとあったが能力が嫌うとはどういうことだ?
「少々、いえかなり気分がいいので能力、固有能力についての説明もしましょう。」
「能力は主に何かに対する耐性が多く、能力の出力によってランクが決められています。下がⅠ上がⅤの5段階、稀に出力が高くEXと表す場合もあります。」
「固有能力、能力とは異なり特異な力を秘めています。これは全く同じ分類、同じ名前でも必ず差異が出るモノなため能力のようなランクはございません。まれに能力から固有能力に変化する事もあります。」
「この能力も固有能力も魂に強く結び付けられており、魂の主の感情によって能力の出力が増減する事もあります。」
「そしてここからが先程の現象に当てはまるものです。」
「固有能力には感情があります。はい言ってる意味が分かりにくいと思いますが感情があるのです。」
「とは言っても知性はございません。せいぜいあれが嫌これが嫌という感情程度、ほとんど表に出ることはございません。」
「ですが固有能力が何かを強く拒んだ時、表に出てくることがあります。今回の件がいい事例です。」
「おそらくお客人の固有能力が生徒の『情報結晶』の抽出を強く拒んだ、そしてその流れで私の仮面も攻撃したのでしょう。今までアトリエに来たお客人の中で貴方が初めてです。」
「もっと細かい物はありますが時間が長くなるのでこの辺りでやめておきましょう」
能力に感情。正直自分の中にもう1つ魂がある事を知ってからだと驚きもしないし割と簡単に受け入れることが出来る。
ただなんで拒んだんだ?というかどっちが拒んだ?【素敵な糸】?【完全防腐】?分からない。
というか能力が拒んでるってことは
「俺は『情報結晶』を出せないって事でしょうか?」
「私たち以外に『情報結晶』を汲み出せる人を見た事がないのでおそらく」
という事は俺はこのアトリエの作品を手にすることはできないと言うことだ。
まじか...正直その破格の性能をしてる物ってのが気になってたからショックだ。
「おそらく作品を得れない事にショックを受けている様子ですね。ですがご安心を、私は個人的に貴方を気に入りました。」
「他のお客人に提供している作品程ではございませんが私の作品をお客人に渡すことができます。」
「本当ですか!!あっ、でも俺から出せるものがありませんよ?」
他のお客さん程じゃない、破格の性能とまでは行かなくともかなり良い性能のものだろう。まぁフィクサーがどれだけの腕を持っているのかは知らないが。
貰えるなら貰いたが対価がない。『情報結晶』も作れないなら渡せるものがないのだ。
「いえ、対価は貰いません。個人的にお客人の事を気に入っているのとお客人がどこまで行けるかを見てみたいのです。」
「俺がどこまで行けるか?」
「はい。お客人は私がマエストロとなりアトリエを開いてから実物で見るのは初めてな事を見せてもらいました。そんなお客人がどこまで行けるか、少々気になったのです。」
「そうですか…わかりました。でしたらあなたの作品を貰います。」
「かしこまりました。お客人に渡す作品を取ってまいります、少々お待ちください。」
そう言ってフィクサーはアトリエの奥に入っていった。
俺はいつの間にか血痕もなくなり綺麗になっている椅子に腰掛ける。
作品を貰えるのはありがたい事だ、だがどうにも裏を感じて仕方ない。似たような事が昨日ブラベさんとあったがフィクサーからはブラベさんのような物があまり感じられなかった。いやまあ顔が隠れてるんだから仕方ないところもあるが……
だがブラベさんと同じくらい真っ直ぐしたものは感じ取れたから俺を気に入ってくれているのは間違いないのだろう。
まぁ今考えても仕方ない。今はこの流れているジャズを楽しんでおこう。
「お待ちの中すみません。お客人はどのような武器をお使いですか?」
ジャズを聞いていると扉からヒョコっと顔を出したフィクサーが尋ねてきた。
あと何故かビーバーみたいな仮面をつけて。
武器…今持ってるやつでいいかな?
「大きめのナイフとスティレット、あとメイスを使ってます」
「そうですかありがとうございます。もうしばらくお待ちください。」
なんだったんだろう?
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蓄音機のレコードが一周した辺りでフィクサーが奥から帰ってきた。仮面は元に戻ってた。良かったビーバーを前に話してたら確実にどこかで聞き取れなくなってただろうし。
「お待たせいたしました。こちらが今のお客人にお渡しできる私の作品です。」
カウンターに並べられた2つの作品が並べられていた。
1つはネイビーカラーのトレンチコート。素人が見るだけでもわかるほどの繊細さで作られており、洗練されたデザインの中でも柔らかさを感じられる物だ。
2つ目は同じくネイビーカラーの本体に控えめなブラウンのハットバンドがついたフェドラハット。確かな重みの中に軽さを感じ、知的な雰囲気を纏っている物。
そして2つともに感じられるのはただの服やハットでは無い何かを感じる。
「作品の説明をしましょう。まずはコート、お客人は人形の身であるため破損した際ヒューマンと異なり再生しないでしょう。のでコートには『着用者の傷を回復する』力を付与しています。」
「そしてこちらのハット、武器を3種お持ちと言うことでこのハットには『空間拡張』の細工を施しました。重さ換算で5歳の子供1人分は入るでしょう。なお生物は入れられないためご了承ください。」
「ほ、ほーう…聞いてる限りではかなり良いものに聞こえるのですが本当にいいんですか?」
「はい、この程度でしたら片手間で作れますので」
oh……正直性能うんぬんの話はブラベさんが多少盛ってる物だと思ってたけここまでとは……
俺の思ってたよりフィクサーはかなり凄い人なのかもしれない。
貰った作品を身にまといいつの間にか用意されていた鏡の前に立つ。
人形になって多少身長が伸びたことと人形故に特徴が少なく、浮くことの無く着れていた。まだ若干服に着られてる感はあるけど。
「そちらの作品は多少破れたり汚れたりちぎれたりしてもある程度自己修復します。修復が始まらなかったり、作品の形が完全に変形、破損した場合はここに持ってきてください。修繕致します。」
「そこまでも、ありがとうございます。」
フィクサーから作品についての追加事項を聴き終わって1分もしない頃、さっきまで流れていたジャズがピタリと止まった。
「おやもうお時間ですか、お客人、お帰りの準備をお願いします。」
「あの蓄音機ってそういう意味だったんだ」
持ってきた物も特にないため貰った作品を着てドアの前に立つ。
「作品、ありがとうございます。また何かあったら伺います」
「はい、その時は土産話を楽しみ待っております。お客人がどのような道を辿ったか、教えてくださいね」
「話せる内容があれば話しますよ。それでは」
俺は扉を開ける。来た時のようにそこに行くと思いながら。
「それではまたのご来店お待ちしております。お客人」
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ステータス
名前:アウル ■■ ■■■
種族:ヒューマノイド
属性:水
称号:【巡る者】【第1の■】【閲覧不可】
所属:森林協会所属冒険者[種 1級]
魔法:低級
固有能力:耐性【完全防腐】
創出【素敵な糸】
能力:熱耐性IV
冷耐性Ⅲ
打撃抵抗Ⅱ
撥水Ⅰ
自身の痕跡、繋がりが何一つ無い世界に「転じ生きる」。ならばそれはもう転生だと思いませんか?私はそう解釈しています。




