表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/13

13 終話・白い恋人

          ◆



 ブランカが死んで1年が経つ。辺境伯から一房の白い毛が送られてきた。彼女の遺骸は森に埋められたそうだ。


 レオナルドの環境はまた激変した。懲りずに襲撃してきた王妃を返り討ちにして、母がその座に就いたのだ。まさに下剋上だ。


 軍を辞め、継承権第一位の王子として執務をこなす。掌を返した宮廷人らのおべっかを聞く。レオナルドはどこか満たされなかった。何かが足りない。そう思いながら日々に流されていた。


 母の侍女と同時に婚約者候補を募集することになった。貴族たちがうるさいので試験で決めることにしたのだ。アイリーンの件もあって、レオナルドは冷めている。どうせ似たり寄ったりの令嬢しかいない。



          ◆



「で…殿下!今すぐ試験会場へ!」


 執務室にレフが駆け込んできた。書類を読んでいたレオナルドは顔を上げた。


「まだ侍女の試験中だろ」


 彼の出番は午後のはずだ。乗り気でないが。


「ブランカ様ですよ!お帰りになりました!」


「!」


 それを聞いた王子は部屋を飛び出した。今度は何だ。蝶でも何でも良い。見れば分かる。会場のドアを蹴破るように開けた。そこには白い髪の少女を抱きしめる母がいた。


「ブランカ!」


 少女が顔を向けた。紅玉の瞳。確かに。だが確かめねば。


「レオ。見て。帰って来てくれたのよ!」


 母は涙を流しながら、少女を彼の方に向かせた。彼女は神々しく微笑んでいる。


 レオナルドは少女の前で立ち止まった。じっと赤い目と見つめ合う。彼は手を差し出した。


「お手」


「はい」


 少女は華奢な白い手を乗せた。


「おかわり」


「はい」


「お座り」


「はい」


 何の迷いも無く令嬢は跪いた。そしてレオナルドの手に顔を摺り寄せ、舐めた。


「ちょっと待ったーっ!!セクハラですからーっ!」


「何やってんの!変態!?」


 副官と母が2人を割いた。付き添いで来ていた辺境伯夫人が、後ろで倒れていた。



          ◇



 お母様とお母上にこっぴどく怒られた。レオナルド王子に会った瞬間に理性が消えてしまった。なかなか狼の習性が抜けない。


「えーっと。侍女の試験はどうなったんでしょうか?」


 ブランカはお母上に訊いた。まだ名乗ってもいなかった。別室に連れていかれて、王子と辺境伯夫人の4人でお茶を飲んでいる。


「もちろん合格よ!今の名前は?」


 何か縁故採用みたいになってしまった。ブランカは王妃に挨拶をした。


「ビアンカ・ルビーノと申します。王妃殿下」


「西の辺境伯、ルビーノ家の三女でございます。至らぬ点も多いかと思いますが、宜しくお願い致します」


 お母様が大幅に補足してくれた。


「いや。俺の婚約者にしたい」


 王子が割り込んで来た。ビアンカはびっくりした。元狼だよ。


「こんな色ですし。レ…殿下にふさわしくないです」


 髪は染められるけど、目はねぇ。眼帯でもしてみようか。お洒落だし赤目も気にならないかも。そう言ったら、お母上と王子が大笑いした。


 結局、王妃と王子がビアンカを取り合ったので、侍女兼婚約者候補というものに落ち着いた。




          ◆



「あの子は何故か自分が醜いと思っているのです」

 

 ビアンカは王妃宮の部屋を見に行った。辺境伯夫人はため息をつきながら言った。


「誰かにそう思い込まされたのでしょう。私たちが否定しても、家族だからと信じてもらえません」


 レオナルドは驚いた。バカな。あんなに美しい女はいない。もうその姿が見たくてたまらないというのに。


「宮廷で多くの殿方に褒められれば大丈夫よ」


 母がつまらぬ事を言う。レオナルドのこめかみに青筋が走った。


「俺が褒めます。他の奴らは不要」


「あらあら。結納金の相談でもしましょうか?ルビーノ夫人」


「少し気が早いですわ。王妃殿下」


 母親たちは笑った。そこにビアンカが戻ってきた。部屋は気に入ったらしい。明日から侍女見習いとして働くことになった。


「1日1回は俺の宮に来い。宴のパートナーも務めてもらう。ドレスや装飾品はこちらで用意するから心配ない」


 レオナルドは雇用契約のような命令を下した。レフが後ろでメモを取っている。


「舞踏会では俺以外の男と踊ってはならん。話すのも禁止だ」


「どうして?」


 ビアンカは無邪気に質問した。独占欲丸出しで母たちは笑いを堪えている。素直に“お前が好きだからだ”と言えない。レオナルドは誤魔化した。


「あれだ。護衛なんだ。お前は。だから俺から離れてはダメだ」


 するとビアンカは目を輝かせた。


「はいっ!剣もお父様に習いました!」


 ぱっとドレスの裾が宙を舞った。


「ぎゃっ!」


 レオナルドはレフの眼鏡を叩き落とした。ビアンカは白い脚に巻いたベルトから短剣を抜いた。下着まで丸見えだった。


「絶対に刺客を寄せ付けません!」


 カッコよく短剣を構える。あまりの可愛らしさに王子は悶絶した。


「「ビアンカ!何してるの?!」」


 だがまたしても母親達の雷が落ちた。城への武器の持ち込みには許可が要る。色々と教育が必要そうだ。レオナルドは短剣を取り上げた。ビアンカは涙ぐんだ。


「俺以外に肌を見せてもいかん。涙もな」


「どうして?」


 濡れた赤い目が訊く。


「お前は美しいからだ。誰もが愛さずにはいられない。それは困る」


 王子は白い恋人を抱きしめた。


(終)


お読みくださり、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白かったです 読んでて登場人物を応援したくなりましたよ。 機会があれば二階堂様の次回作も是非読んでみたく思います。
泣きながら、笑いながら あっという間に読んでしまいました。 大好きです 素敵な読み物 ありがとう。
[良い点] 物語の疾走感が心地良く、楽しみながら一気読みしました。虐げられたヒロインが自由になって王子様を見つけて「王子様命!」を貫くファンタジーは、設定の奇抜さもあって全然恋愛にならず(なってたら怖…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ