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転生した異能者は静かに暮らしたい  作者: 佐倉 百
7章 女王の楽園

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現状の掌握と新たな動き3


「黎明期に魔石を使った実験が行われていたことは、ここにいる皆には周知のことだと思う」


 アウレリオが話し始めたことは、以前にベルトランが言っていたことと重なる。


「古代に魔石で栄えた国や民族の痕跡は、至る所に残されている。問題の森も、かつては王国の一部だった」


 やはり魔石を人間に摂取させ、人工的に異能を顕現(けんげん)させていたらしい。体内に生成された核が魔力を取り込み続ける限り、異能は強化されていく。


「体内に核を作れるかどうかで、生存率が変わる。核を作ることに成功した者のみが生き残り、後に異能を発揮して王国を発展させた。だが異能を発揮するほど、核に蓄えた魔力は減る」


 異能を得た者は栄光を得るが、魔力の定期接種によって体が変化していく――アウレリオは黒い塊が入った瓶を持ち上げた。


「どれほど魔力を取り込めるのかは、個人による。だが許容量を超えると、人ではない何かになる。自我の崩壊、攻撃能力の著しい向上、外見の変化が見られ、やがて生命活動を終える。こんな風に、死骸は残らず消えていく」

「賢者が作った魔王に似ているな……」


 フェリクスの言葉に、全員が沈黙で肯定した。


 聖剣でフェリクスの体内に作られた核は賢者へと返した。賢者は効率よく核を成長させるために、ことあるごとに改良し続けていたとユーグは思う。そのため体を蝕むことなく成長していた核は、簡単に取り外して隔離できた。後遺症もないのは不幸中の幸いだ。


「賢者が古代の実験を元に魔王を作った可能性は高い。この地に赴任していたことは、紛れもない事実だ。森に封じているのは、古代王国の儀式で異能を得た者であろう。特徴的な建造物があるそうだが?」


 ユーグは森の奥で見た建物の、大まかな特徴を伝えた。


「神殿や聖堂といった儀式に関する建物は、それ自体が魔法陣の役割を果たしている。その建造物が魔力を増幅させるのか、それとも内側に封じ込めるものかは不明だが。賢者が封印に利用していると考えてもいい。さて、瞳についてだったな」


 アウレリオはフェリクスを見た。


賢者(あれ)の目を覚えているか?」

「……珍しい、銀の瞳でした」

「然り。あれは魔眼だ」


 片方だけだったとアウレリオは言う。


「もう片方は複製だったがね。魔眼というものは、正当な持ち主と繋がっている。他人に移植をして使えないこともないが、持ち主が死ねば魔眼としての力を失う」

「アウレリオ神父。賢者の器は処分しましたか? それとも法国で封印?」

「沈黙を答とする」


 ユーグの問いに、アウレリオは解釈が分かれる答を返してきた。秘密に触れるため明かすことはできないらしい。


 ――法国で器を調べた結果、賢者が他人から奪った魔眼を使っていることに気がついたんだろうな。


 今は経過観察をするために、法国のどこかで保管しているのだろう。器を処分したなら、アウレリオはそう断言するはずだ。


「魔眼の持ち主が今も存在していることは間違いない。どの時点から魔眼を入手していたかは定かではない。そして封印をしたのが賢者とも言い切れん。だが賢者は瞳の持ち主が外へ出ないよう封印し続けていたと思われる。そして賢者(あれ)が死に、ゆえに封印が綻び、持ち主が瞳を求めて外へ出ようとしている。黒い獣が襲撃してきたのも、己の手足代わりに使って探していたのであろう」


 その解釈は当たっているように思えた。賢者は己の実験に影響が出ないものは存在を認知しない。便利な魔眼があるなら奪い、使い続けるために持ち主を封印し続ける。あの賢者らしい選択だ。


「領主。封印し続けるか、これを期に始末するのか、決断なされよ。どちらを選んだとしても、教会は助力を惜しまない」

「始末するしかない」


 フェリクスは迷わず答えた。


「封じ続けた結果、アルトロワに被害が出た。封印は問題を先延ばしにするだけで、何も解決しない。戦力が揃っているうちに片付けておくべきだろう」


 他の参加者も異論はなかった。もとよりリール領側は厄災の種を根絶させておきたいと考えている。教会も賢者の負の遺産を消滅させることに賛成だ。そして帝国も発展させたい土地に面倒と分かっているものを残しておきたくなかった。


 幸いなことに、ここには帝国と教会それぞれに顔が効く者がいる。アルトロワだけの戦力で足りないなら、部隊の一つや二つ、引っ張って来るだろう。


「では我々は封印の種類を特定しておこう。それが分かれば封じられている者の戦力が分析できる。最低でも一日を要するが」

「構いません。むしろ事前の準備は入念に行っていただきたい」


 戦力を見誤ると、瞳の持ち主を野放しにするだけだ。


「その特定には僕も参加してもいいだろうか」


 机の上を片付けながら、トリスタンが言った。


「魔獣に関する研究で、法国に留学していたことがある。そちらのやり方には慣れているよ」

「私の指揮の下で動くことを(いと)わないのであれば」

「むしろ喜んで駒になろう。行政府の使徒と共に働く機会など、滅多にない」


 貴族であることを隠していないトリスタンに、アウレリオは仕事の邪魔はするなと牽制した。だが当の本人は身分に頓着していないらしい。むしろ今すぐ捨てても構わないと顔に出ていた。


 もしアウレリオが普通の人間なら、トリスタンの行動に戸惑っていただろう。瞬時に思考を切り替えたアウレリオは、帝国貴族を本当に駒として使うと決めた。特定の手順を簡潔に述べ、さっそく開始するべく席を立つ。


 情報交換と方針が決まり、それぞれ行動を開始することになった。


 瞳の持ち主を討つのは、帝国側の仕事になる。今は戦力の分析結果が出たらすぐに動けるよう、討伐に参加する人員を決め、装具を点検しておくだけだ。フェリクスはジルベールと必要な人員を検討している。


「セレスティノ。君は必要な魔石を調達してくるように。作業場は森の入り口だ」

「かしこまりました」


 了承した後から、セレスティノはミケーレ司祭に問いかけた。


「あの……こちらの教会が購入している魔石は、特定の店を利用していますか?」

「ええ。定期購入している工房がありますよ。急な注文にも対応してくれるはずです」


 ミケーレ司祭が挙げた店名は、アルトロワで一番大きな工房だった。残念ながらリリィの家ではない。


「僕で良ければ案内しますよ?」


 ユーグは自分から申し出た。初めて訪れたセレスティノが通行人に尋ねながら行くより、慣れている者が送り届けた方が早い。セレスティノは若干、安堵した様子でお願いしますと頼んできた。


 討伐の人員はユーグがいなくても選抜できる。セレスティノの案内をしてくるとジルベールに告げてから、神父と二人で外に出た。

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前作はこちら
ウソつき勇者とニセもの聖女
不幸な事故をきっかけに異世界転移した二人。
お互い性別が入れ替わっている上に、誰かと勘違いされて誘拐されて……

前作終了後の短編
放浪の終わり

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